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第1134回 小さな小さな大きな脅威     2008年11月21日

 最近、急速に数が増えてきていて、将来的には身の回りに溢れる事だろうと思いますが、生涯、直接肉眼で目にする事がないだろうと思う物がナノ製品です。

 ナノ、ナノメートルとは国際単位系の長さの単位で、10億分の1メートルの事を指し、光の波長や原子や分子の構造などを表す事に使われる極めて小さな単位と言えます。

 かつては1ミクロンの1000分の1である事から、ミリミクロンという呼び方もされていましたが、1967年の国際度量衝総会でミクロンという単位が廃止された事から、現在はナノメートルが正式でミリミクロンは使われていません。

 そんな非常に小さい単位、ナノという言葉を目にするようになったのは、半導体に関する電子デバイスの技術が非常に微細になり、微細ナノ加工やナノスケール技術、ナノ構造物質といった言葉が使われるようになってからです。

 さらにナノテクノロジーの将来的広がりが注目されるようになったきっかけとしては、カーボンナノチューブの発見があります。炭素の結晶としては、それまでグラファイト(黒鉛)とダイアモンドが知られていました。

 1985年に六角形を組み合わせたサッカーボールのような構造を持つフラーレンが発見され、電子顕微鏡を用いたフラーレンの観察中にこれまでとはまったく異なる形状を持つ、炭素の新たな結晶としてカーボンナノチューブが発見されています。

 カーボンナノチューブの発見によって、これまでの炭素の結晶にはなかった新たな性質が知られる事となり、物質をナノメートルレベルで制御する事によって量子効果と呼ばれる特殊な現象が判ってきました。

 その後、さまざまなナノ物質が登場してきますが、危険性についても懸念が出されています。化粧品をはじめとした身の回りの製品にもナノ物質が使われていますが、これまでにない微細な大きさである事から皮膚で特殊な経路から吸収され、体内に蓄積されたときの毒性や、触媒として未知の毒性を持ってしまう事など、多くの可能性が考えられます。

 ナノ物質は検出が難しく、環境中に拡散してしまった場合の検出方法や回収についても確立されておらず、現時点では事実上不可能とする意見もあります。便利さに隠れて危険性が未確認という事は、これまでも多く見られてきました。急速な発展も大切ではありますが、安全性の確認は充分に行い、これまでの過ちは、できれば繰り返してほしくないものです。


 



第1133回 脆弱容器     2008年11月20日

 最近、某大手メーカーのCMで、カップ麺を防虫剤などと一緒に保存しないようにというものを見かけます。確かにカップ麺の容器は、一見すると完全に密閉されているようですが、あくまで水の分子を通さない程度の物で、防虫剤などの芳香成分だと内部へ浸透してしまう事が考えられます。

 今回、問題の発端はカップ麺から防虫剤成分のパラジクロロベンゼンが検出されたというもので、鑑定の結果、容器や外装フィルムに人為的に開けられた穴などの損傷は見付からず、外部から異物を混入した形跡はなかったといいます。

 パラジクロロベンゼンはかなり身近な化学物質であり、理科の授業で温度によって物の状態が変化するという内容の中で、固体から気体へと変化する昇華の例として実際に昇華していく場面を見せられる実験教材ともなっています。

 最も身近な使用例としては、白色の固体から昇華すると強い臭気を発し、衣服を食い荒らす虫やカビの害を防ぐ事ができる事から、タンスに入れておく防虫剤として使用されたり、トイレやゴミ容器の消臭剤として使われています。

 防虫剤としての使用法や雰囲気が同じである事からナフタリンと混同されてしまいますが、厳密には別な化学物質となっていて、衣類用の防虫剤としてはナフタリンが代表的な存在と考えられていますが、実際はパラジクロロベンゼンの方が利用例は多くなっています。

 カップ麺は保存性が高く、常備しておくと意外な時に重宝する事も考えられます。開封するまでは完全に密閉されたイメージがある事から、収納が限られている場合は衣類の近くに保管してしまう事も充分にあり得る事です。そうなると防虫剤のパラジクロロベンゼンの存在が気になってきます。

 カップ麺の容器の多くはポリスチレンが使われています。ポリスチレンの容器はシソ油を入れて熱湯を注ぐと、溶けてしまって穴が開き、お湯が漏れ出すという脆弱性が確認されています。

 アレルギーを抑える働きが知られた事から、シソ油を料理に加えて愛用する方も多く、シソ油と成分的に近いエゴマ油にも同じトラブルが起こる可能性も報告されています。

 一見、便利で安全な物に見えるカップ麺の容器も、それほど頑丈でも完全に密閉できる物でもない事を認識して接する必要があるのかもしれません。


 



第1132回 取締法に思う     2008年11月19日

 その存在は最古の薬物書や医学書から今日の薬物書、医学書のすべてに記載され、薬用植物として扱われてきました。紀元前16世紀のエジプトでは神殿で焚いて、その煙を吸引する事で神と対話できたとパピルスに記されています。

 インドのアーユルヴェーダでも鎮痛、消化促進から利尿まで、重要な薬草とされたその植物の名は大麻。最近、世間を賑わせている禁止薬物でもあります。

 大麻は大麻規正法によって厳しく規制されています。大麻規正法では栽培や所持、売買などが規制され、罰則も懲役10年にも及ぶ大変厳しいものとなっています。

 それだけ厳しく定められた大麻取締法ですが、ちょっと不思議な部分があります。あり得ない事ですが、私が何処かの怪しいパーティーに出席して大麻を勧められたとします。物珍しさも手伝って、吸引してみたところで私が罪に問われる事はありません。大麻取締法には吸引に関する罰則がないからです。

 やがてパーティーも終わり、吸いかけていた大麻を勿体ないので持ち帰ります。家に帰る途中、警察官に職務質問され、吸いかけの大麻が見付かると現行犯逮捕されてしまいます。大麻所持にあたるからです。

 取調べを受けてパーティーの事を話すと、大麻を購入して準備した主催者は大麻売買、会場へ大麻を持って行ったパーティーのスタッフは大麻所持に抵触してしまいます。

 また、大麻由来の物であっても大麻の実は法規制の対象外となっていて、鳥の餌として普通に購入する事ができます。鳥の餌にするための大麻の実は、焙煎して芽がでないようにしてありますが、たまたま焙煎が弱く芽が出てしまった物を育ててしまうと、大麻の栽培という事で逮捕されてしまう事となります。

 大麻を栽培する事がすべて法に抵触するかというと、県知事の許可を受けた農家が栽培する事は許されていて、大麻の実や衣類などで馴染み深い麻の繊維を採る事ができます。

 栽培農家の畑に出かけて行って、こっそり葉を盗んできて乾燥大麻を作るという話を聞く事がありませんが、それには栽培方法が大きく関与していると言われます。産業用に栽培される大麻は縦方向に伸びるように育てられるため、密集させて路地に植えますが、陶酔作用を求めた嗜好用の栽培ではたくさんの紫外線を受けさせる必要があるため、枝が横方向に伸びるように育てなくてはならず、嗜好用を産業用と偽って栽培したり、産業用を嗜好用へ転用したりという事は不可能となっています。

 法律から栽培まで、複雑な部分を多く持つ大麻ですが、作物としては優秀で、実は食料とする事ができ、実から採れる油はバイオ燃料とする事ができます。縦方向に伸びる茎からは良質の繊維が採れ、1年に3回も収穫できるという成長の速さは大量の二酸化炭素を吸着してくれます。

 大麻は世界中で危惧されている食料、燃料、温暖化といった問題を解決してくれる可能性を秘めた作物とも言えるので、あまり薬物問題でイメージを悪くしてほしくないと、最近のニュース見ながら思ってしまいます。


 



第1131回 動物コーヒー     2008年11月18日

 コーヒーが好きで、出かけない休日などは気が付くとかなりの量を飲んでいたりします。それほどこだわっている方ではないので、決まった銘柄の豆というのもなく、入れ方もドリップからエスプレッソマシンを用いたものまで、幅広く楽しんでいます。

 高価なコーヒー豆というとすぐにブルーマウンテンが思い浮かびますが、それをはるかに凌ぐ高価で希少なコーヒー豆として、幻の豆とまで呼ばれるコピ・ルアクの存在があります。

 コピ・ルアクは特殊製法のコーヒー豆で、野生のジャコウネコの存在が大きく関わっています。コーヒー農園でコーヒー豆が熟し始める頃、コーヒー豆が大好物のジャコウネコがこっそりと忍び込みます。

 ジャコウネコは発達した嗅覚で良いできのコーヒー豆を選りすぐり、食べてしまいます。ジャコウネコの体内で消化できるのは果肉の部分なので、コーヒー豆の種の部分、私達が焙煎して粉に挽き、コーヒーを入れて飲んでいる部分は消化されずに残されてしまいます。

 コーヒー農園周辺で見付かるジャコウネコの糞の中から消化されていないコーヒー豆を集め、よく洗って乾燥させた物がコピ・ルアクです。コピとは現地の言葉でコーヒーを指し、ルアクとはジャコウネコの事を指しています。

 少々抵抗のあるコーヒーの加工方法ですが、効果は絶大とされ、選りすぐりの豆にジャコウネコの消化酵素や腸内細菌による発酵が加わり、独特の芳香を持つコーヒー豆に仕上がると言います。

 似たような物にカペ・アラミドがありますが、実は同じ物で、コピ・ルアクがジャワ島やスマトラ島、スラウェシ島などのインドネシア諸島原産なのに対して、カペ・アラミドはフィリピンや南インド原産となっており、現地の言葉でカペがコーヒー、アラミドがジャコウネコの事を指している事からも同じ物である事が判ります。

 同じく動物が介在する特殊製法のコーヒー豆としては、台湾のモンキーコーヒーが知られ、こちらは台湾猿がコーヒー豆を食べて、吐き出した種の部分を集めて作られています。

 モンキーコーヒーはコピ・ルアクなどのように消化器官を通って発酵するという事はありませんが、やはり希少性が高い事から高値で取引されています。動物が作り出す不思議で高価なコーヒー。あまり試飲したいと思わないのは、コーヒー好きではあってもグルメではないせいでしょうか...?


 



第1130回 種と天神     2008年11月17日

 子供の頃、友達の家の庭にたくさんの梅の実が成っていたので、青々とした実を採ってみて、半分に切って味をみたことがあります。ひどく渋い味がして、それがおかしくて繰り返し味見をしては友達と笑い合った事があります。

 青い梅の実にはアミグダリンと呼ばれる青酸配糖体、いわゆるシアン化物の毒素が含まれていて、体内で有毒に働く事があります。ひどく渋くて思わず笑いが込み上げてきてしまうほどだったのは、身体が毒素を摂取しないようにする防御機能、もしくは危険だから実を採るなという梅からのサインだったのかもしれません。

 諺に「梅は食べても核食うな、中に天神寝てござる」というものがあります。天神とは菅原道真の事で、九州の大宰府に左遷されて不遇のうちに命を落とした後、都では落雷による火災が相次ぎ、伝染病が蔓延するなどの凶事が続いた事から、道真公の事を人々が雷の神、「天神」と呼んだ事が元になっています。

 都を離れる際に詠んだ、「東風吹かば、匂いおこせよ梅の花、主なしとて春な忘れそ」という歌からも道真公の梅への想いの深さが伺え、都を遠く離れた道真公の事を慕い、梅が大宰府まで飛んできて根をおろしたという飛び梅伝説もあり、梅と道真公が関連付けられる事に納得させられてしまいます。

 大変な努力家で温厚な道真公ですが、ひとたび害を成せば天神と怖れられるほどの大変な祟りに繋がる。梅の実の種に多いとされる青酸配糖体を避けるために、中でお休み中の道真公を起こしてはいけないという諺には、昔の人の食への知恵や優しさを感じずにはいられません。

 完熟した梅の実では含まれる青酸配糖体の含有量が激減していて食べてもそれほど危険性は高くないのですが、酸味が強く、好んで食べる動物は少ないとされます。

 次の世代となる種をどこか別の土地まで運んでほしい、運ばれた先ではちゃんと発芽できるように種は健全な状態であってほしい、そんな梅の想いまで含まれているような、そんな諺にも思えてしまいます。


 



 

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