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第203回 鏡餅
2004年12月28日
ほぼ毎日更新のこのコラムも、今回が年内最後の更新となります。ご購読いただきました皆様、心より感謝申し上げます。来年もよろしくお願い致します。という事で、今年最後の話題は、正月の主役の一つではないでしょうか、鏡餅についてです。鏡餅、言わずと知れた二段重ねの丸く平たいお餅です。最近では、真空パックの物が出回り、ちょっと大きめの物となると、外装はダミーで中に小分けされた小さなお餅がたくさん入っている物もあります。
元々鏡餅とは、豊作をもたらし、五穀豊穣を守る神様へのお供え物です。鏡餅を供える事によって、豊作への感謝と願いを込める事となります。そして正月の最後に、神前に捧げられた鏡餅を、家族でいただくのが鏡開きです。鏡開きによって、神前より下げられた鏡餅を家族で分け合って食べ、家族の円満と神様の御加護に与るという訳です。そのために丸い形は円満を意味し、それを重ねる事で、良い年を重ねるという事を表現しています。
鏡開きの風習は、武家の習慣からきています。武家社会では、「切る」という言葉を嫌うため、鏡餅も刃物を使って切るのではなく、良く乾燥したところを木槌を使って割って小分けします。しかし、「割る」という言葉もあまり縁起の良いものではありませんので、運を開く、という事から「開く」が使われるようになりました。本来は、1月20日に行われる行事でしたが、徳川家三代将軍の家光が20日に亡くなった事から、幕府がその年の初めて蔵を開く、「蔵開きの日」に合せて、1月11日に変更されました。
昔ながらのお餅を使った鏡餅は、2週間近くも飾られる事から、表面にひび割れができ、カビも生えてしまいますが、その後どうされていますか?お餅に生えるカビは、ほとんど毒性のないものばかりらしく、表面をよく削り、水洗いすれば大丈夫です。二日ほど水に漬け、ひびに沿って刃物で切って細かくし、皿にラップを広げて均一に並べます。上からもラップをかけて5分ほど加熱すれば、柔らかくなりますので、そのまま平たくして冷やせば、ラップも簡単に剥がす事ができます。後は、適当な大きさに切り分けて焼けば、大きな鏡餅も無駄なく使う事ができるという訳です。
第202回 お宅では如何ですか?
2004年12月27日
正月も間近になってきた先日、面白いアンケート結果を発見しました。正月にお屠蘇でお祝いをする、しないについてですが、44%の家庭がお屠蘇でお祝いしているとの事でした。残る56%の中には、同様のお祝いを日本酒を用いている家庭も含まれていますので、正月の定番行事として根付いている事と思われますが、厳密に屠蘇散を漬け込んで作られるお屠蘇を用いる家庭は、過半数を割ってしまっている事になります。
お屠蘇の発案者は、古代中国、魏の国で名医として知られた華陀と言われます。10種類近い薬草を調合して作られる屠蘇散(屠蘇延命散)と呼ばれる薬剤を、お酒に浸してエキス分を抽出した形で作られます。健胃、強壮、咳、風邪、血液浄化、発汗に効果があるとされ、アルコールの血行促進作用と合せて、疾病の予防に作用します。無病息災の願いを込めるには、良い薬酒と言う事ができます。
名前については、同じような話しですが、二説聞かされた事があり、どちらかはっきりした事は判っていません。一つは、病魔をもたらす悪鬼を「屠り」、病の床にある人も「蘇らせる」という事でというものと、二つ目として、蘇という生命力の強い鬼を「屠る」ので、屠蘇となったというものです。似たような漢字で、紫蘇(シソ)は、毒に当り、紫色の顔色になって死にかけた人が蘇生したというものなので、最初の説の方を私は支持しています。
正式な作法としては、元旦の朝、早朝に汲んでおいた若水で身を清め、初日や仏壇を拝んだ後、家族全員が揃って元旦の挨拶をして、お雑煮をいただく前にお屠蘇を飲みます。朱塗りの器か、白銀、錫などの器でいただきます。あまり多量に飲むものではないので、最近では小瓶入りの物も見かけます。小さなプラスティックのカップが付属した物もありますが、せっかくのお祝い、器にもこだわりたいものです。発祥の地、中国では既にお屠蘇の風習は廃れてしまい、伝えられた日本のみの習慣となっているそうです。56%側の方、無病息災の願いを込め、来年は如何ですか?
第201回 節約?
2004年12月24日
25歳の若さで飛行機事故によってこの世を去ったギタリストR・ローズ。ステージ上で派手に動き回れない彼の姿を見た事が、ポリオというウィルスの事に触れる最初のきっかけとなりました。かつては小児に感染者が多い事から小児マヒとも呼ばれ、ウィルス感染によって脊髄神経が侵され、四肢にマヒが起こる恐ろしいウィルス感染症でしたが、飲む生タイプのワクチンの開発によって、患者数は激減。自然界の強毒型ポリオウィルスによる感染は、80年以降、国内では発生していません。
そうした状況が長く続いた事から来る油断でもあったのでしょうか、ワクチンの使用量を節約して、より多くの人に投与しようとした事が元で、抗体がつかないという苦情が寄せられている事が判りました。東京都板橋区の医師会が乳幼児に対し行う集団接種において、数年前からワクチンの年間摂取者数が、年間使用量を大幅に上回っている事から、こうしたワクチンの節約は、恒常的に行われてきた事と考えられています。
通常、ワクチンはマイナス20度以下で凍結保存され、使用前に解凍されます。一度封を開けると、雑菌が入り込む可能性も考えられない事ではないので、使い残った分は廃棄されています。1本の使用設定人数は20人となっているため、30人の摂取者に行う場合、2本、40人分を使用し、残った10人分に当たる分は捨てられたしまいます。そのため、よほど効率の良い摂取を行っても、摂取者数を使用量が上回る事が当然で、それが逆転する事はありえません。通例では、10%ほど摂取者を上回るワクチンを用意する必要があるそうです。
摂取量が少なくても抗体がつく可能性はあります。また、元々ワクチンには、規定量を超える量が入っているので、1本を15%ほど多い23人に投与できると、医師会側では説明していますが、製造元からは、微量のワクチンが容器やスポイトなどに付着して残る事を念頭に、規定量より若干多めの量を入れているとしており、今回発覚した節約は、あまり受け入れられるものではない事が伺えます。予防接種の季節だけに、あまり嬉しくない話題ですね。
第200回 200といえば...。
2004年12月22日
このコラムもついに200回を迎えてしまいました。200回にちなんで、何か200に関する話題をと思っていたのですが、真っ先に思い浮かんだのが、200ccという言葉でした。瓶入りの牛乳の容量として慣れ親しんだ数字であり、料理においても1カップとして目にする頻度が高い言葉でもあります。献血の際の一回分の量も200ccを一つの単位としています。今回は200cc繋がりで、献血について取り上げてみたいと思います。
献血とは、その後の輸血と結び付いて初めて意味を成すと思います。単に血を抜くだけなら、中世に行われていた瀉血も含まれてしまいますが、今日、私たちが考える献血とは、程遠いものではないでしょうか。輸血に関しては、1616年ハーウェイによって血液の体内循環論が発表され、輸血へのきっかけを作ったと考えられています。その後、1665年犬同士での輸血が行われ、1667年ルイ14世の侍医デニーによって、4名の貧血患者に子羊の血液を輸血するという治療が行われています。当然、結果は失敗で、1名が命を落とし、デニーは殺人罪で訴追、フランス国内に限らずヨーロッパ中に輸血の禁止令が出されました。
その後、1818年になって、イギリスの産科医ブランデルによって、ガン患者同士の輸血が行われ、それが世界中に伝わり、輸血への興味が高められます。しかし、当時、まだ血液型は発見されておらず、体外に取り出した血液の凝固を止める技術もありませんでしたから、生存率が低く、副作用を伴う悲惨な結果を多く残していました。1901年、20世紀に入りウィーンのランドシュナイダーと弟子たちによって、ABO式の血液型判定が行われます。これを境に輸血の成功率が格段に向上し、学理的に確立された輸血の始まりとなります。
その3年後、1904年にドイツのモライビッツによって血液凝固に関する学説が発表され、1914年に凝固を防ぐ方法としてクエン酸ソーダを添加する事が発明されます。一定期間凝固を止めるというこの発明は、血液の貯蔵を可能とするものであり、必要が生じる前から血液を採取し、蓄えておくという血液銀行へと繋がります。日本における輸血は1889年(明治22年)に最初の輸血が行われたと記録されていますが、科学的な輸血法が行われたのは、1919年(大正8年)の事とされ、一般化されたのは、更に後の1930年(昭和5年)当時の浜口首相が東京駅で暴漢に襲われ、駅長室で輸血を行って一命を取り留めた事がきっかけとなったと言われています。
第199回 アクリルアミド検出
2004年12月21日
フライドポテト、スペイン風オムレツ、ポテトサラダ、ポテトグラタン、肉じゃが...。ジャガイモは非常に幅広い料理の素材となります。私も大好きな食材で、おそらくジャガイモを使った料理に、嫌いなものはないと思います。某大手メーカーのポテトチップが、新ジャガの時期になると増量される事が、変に嬉しく思えてしまう一人でもあります。
ジャガイモには、多くのデンプンが含まれています。ジャガイモ料理の下拵えの一つとして、水にさらすという作業を行いますが、その際、沈殿した白い粉の状態からもデンプンの多さがわかると思います。葉で光合成によって作り出されたデンプンは、茎を通り、根のジャガイモに蓄えられています。動物は、植物とは違い、光合成を行う事ができませんので、植物が蓄えたデンプンを狙って、植物を食べていると言う事ができます。
そんなデンプンを狙う動物の中で、人間だけが加熱という方法で、デンプンをより美味しく、吸収しやすい状態にして食べています。この加熱という行為によって、新たな危険性が作り出されている事は、あまり知られていない事です。デンプンを多く含む食材を高温で加熱調理すると、デンプンから変化した還元糖がアミノ酸の一種、アスパラギンと反応してアクリルアミドという物質に変化します。このアクリルアミドには、発ガン性がある事が知られ、日本では劇物として指定されています。
伝統的にジャガイモなどの炭水化物が多い料理は、茹でる、煮るという調理手法が多く用いられ、茹でたり、煮たジャガイモからは、ほとんどアクリルアミドは検出されないと言われます。また、一緒に調理する素材にカロチンやビタミンC、ポリフェノールといった、発ガンリスクを低下させる成分を含むものが使われています。デンプンを加熱するという食文化には、充分な歴史があります。そんな中で蓄えられた知恵に、毒性を和らげるものが含まれていると信じ、ポテト好きは止めるつもりはありません。
第198回 大人気の黒豆
2004年12月20日
進化の過程を辿っていくと、骨の発生は、細胞の活性に不可欠なカルシウムの貯蔵という目的が最初にあった事が伺えます。やがて骨が体内にある事で、体の形状がしっかりするだけでなく、筋肉を支え、テコの原理でより強い力を発揮する事ができるので、後の生物における骨の位置付けは、カルシウムの貯蔵庫よりも身体や動きを支える骨格としての意識の方が、大きくなってきていると思われます。
そのため、骨は非常に頑丈な作りとなり、その質感から恒久的な物のように感じてしまいますが、骨の中の成分は、意外なほど出入りを繰り返しています。そして、その循環に支障が生じた時、気付かないうちに弊害が進行してしまいます。最も顕著な例としては、骨粗鬆症を上げる事ができるのではないでしょうか。
現在、骨粗鬆症は予備軍を含め、1000万人と推定されています。カルシウムの吸収を阻害するリンを多く含む食事が好まれる事や、カルシウム自体の摂取不足、無理なダイエットやストレス等、さまざまな理由が挙げられていますが、ホルモンの働きも重要な意味を持っている事が考えられます。骨の形成に重要な意味を持つ女性ホルモンを助ける働きを持つものとして、大豆のイソフラボンが話題となっています。
大豆の胚芽部分にイソフラボンは含まれ、骨からカルシウムが溶け出すのを防いだり、カルシウムを吸収する力を高めたりして、骨の健康を守ってくれます。黒豆が話題となり、黒豆=イソフラボンと思われがちですが、あくまで胚芽なので、通常の大豆にも含まれています。黒豆の場合、何が違うかというと、黒い皮の色の素となっているアントシアニン色素が、通常の大豆にはない効能を発揮してくれます。アントシアニン色素は、活性酸素を除去する働きが強く、血液をさらさらにしたり、体脂肪が付きにくい状態にしてくれます。今年は、異常な気象条件のお陰で生産量が激減しているそうですが、黒豆のブームはまだまだ続きそうです。
第197回 糖分たっぷり
2004年12月17日
個人的な嗜好の問題ですが、ソースが大好きです。ソース味の物に思わず惹かれてしまいます。とろっとしたとんかつソースも、さらっとしたウスターソースも好きで、それぞれの用途に合わせ、使い分けていますが、調味料の常でしょうか、つい一回に使う量が増えてしまいがちで、ほとんどソースを食べているような状態になってしまう事もあります。
ソースは、さまざまな香辛料やたっぷりの野菜、果物を煮込んで作られます。甘味や辛味、酸味がバランスよく配合され、食欲をそそるように味付けされ、パッケージ自体に野菜や果物のイラストを表示して、内容が連想されるようにしてある製品も少なくありません。最近では、より濃度が高いどろソースと呼ばれる物も見られ、ソースを貯蔵した樽の沈殿物という付加価値的な説明も、食欲に限らず好奇心も刺激してくれます。
食卓での使用量は計りにくいのですが、小分けされたものなら一回分の使用量が判ります。一般的なお弁当に付いてくるパック状の物で、約20gのソースが入っています。実は、この20gのソースの中には、5g程度の砂糖が含まれています。ちょっと驚くような数字ですが、材料由来と思いがちなソースの甘味は、多量の砂糖によって作り出されたものなのです。コーヒーを飲む際、スティックシュガーを使う事がありますが、このスティックに換算すると、約2本分もの砂糖が含まれているという事になります。
野菜と果実の甘味が生かされたヘルシーな印象があるソースですが、意外にも高い砂糖の含有量には注意が必要です。現在、糖尿病患者の食事に関して、ソースは指導が行われていません。そのため、多量のソースを食事で使用してしまう事で、生命の危機に繋がる可能性が考えられるからです。現在、食品の原材料表記は、使用量の多い順に記載されていますが、健康志向の高まりもあり、販売にマイナスとなる事が考えられる糖類を最初にした表記には抵抗があるらしく、メーカー側では、配合を微妙に変えて記載の順序を調整しているといわれます。とろっと甘いソースの正体、ご注意下さい。
第196回 安全?豚肉
2004年12月16日
ベジタリアン風の生活の上に、あまり外食をする習慣も無く、まして慌てて食事をしなければならない事も少ないので、牛丼が無くなってしまった事は、何も私の日常に影響を与えませんでした。しかし、市場的には、かなりのインパクトだったのか、その後の混乱を伝えるニュースを見て、そこまで好まれるメニューだったのだろうかと疑問を持ったほどです。BSEの問題以降、牛肉の安価な輸入が滞り、牛丼の販売中止に繋がったのですが、その後に鳥インフルエンザの流行もあり、消費者のニーズが豚肉に集中した為、現在、豚肉は高騰しているといわれています。
牛にはBSEが発生し、鶏には鳥インフルエンザが発生、それぞれの信頼性と価値を下げてしまいました。豚にも一部豚コレラに関する報道がありましたが、食肉の中では、比較的安心できるものとして考えられています。牛丼が豚丼になったり、食卓に上る頻度が増えた事が、そうした安心できる食材とされている事を示しています。実際は、どうなのでしょうか?
豚の飼育には、かなりの量の抗生物質が使われていると言われます。本来豚は繊細な動物であり、現在行われているような飼育方法では、ストレスが溜まりやすく、免疫力が低下して感染症に罹りやすくなっているので、抗生物質を投与して病気を防いでいる。そうした考え方もありますが、豚に対して行われている投与は、腸内細菌を殺菌して、栄養を細菌に消費される事を抑え、豚の肥育を早めるという効果が念頭にあります。
抗生物質の使用には、耐性菌の発生が付き物です。実際、養豚の現場における多剤耐性菌の発生は、既に確認されています。97年にはWHOが飼料添加物としての抗生物質の使用禁止を勧告し、00年には、動物用のすべての抗生物質の使用禁止を勧告しています。安易な抗生物質使用の弊害は、人間の世界でも問題となっています。豚の飼料への添加を止めるには、豚を健康的な環境で飼育する事から確立しなければいけません。日本の飼育状況は劣悪なのか、異常を持つ豚が多いとされ、65〜75%の豚が病変やケガのために一部廃棄となっていると言われます。丁寧な飼育を行う事は、コストの上昇=小売価格の上昇となってしまいますが、安全な食のためなら、多少高値でも納得できる事と思っています。
第195回 安心?キノコ
2004年12月15日
今年は相次ぐ天候の異常のために、野菜類が高騰してしまい、しっかり家計をいじめてくれました。そんな中、価格的に安定していたキノコ類は、健康食材でもある事から、食卓を賑わし、さまざまな料理への応用を生んでくれました。近年、特に株ごとに栽培されている事から、買いやすく、調理しやすくなったという事も、食材として優れた事とも言えるのではないか、とキノコファンの私としては思っています。
キノコ・・・実は大雑把な分類上では、カビの仲間です。日本には、4000〜5000種ものキノコがあると考えられていますが、その中にあって安心して食べる事ができるのは、百数十種類しかないと言われます。残念ながら、最近その中から「スギヒラタケ」の名前が除外されてしまいました。といっても見た事もないのですが...。
栄養成分的には、野菜類に非常に似ているのですが、90%ほどが水分で構成されているので、非常にカロリーが低く、一般的なキノコで100gあたり20キロカロリーにも満たないと、非常に低くなっています。食物繊維が豊富で、ダイエットや整腸作用にも優れた働きを持っています。ダイエットという観点からは、低カロリー、高食物繊維、むくみを取るカリウムが豊富と、良い働きをたくさん持っている食材と言えます。
そんなキノコのユニークな点は、ビタミンDが豊富という事です。ビタミンDは、魚類に多く含まれていますが、植物系の素材には、あまり含まれておらず、キノコの含有量は非常に魅力があるものとなっています。日光を受けるとビタミンDに変化するエルゴステロールという成分が、キノコのビタミンDの素となっています。そのため、調理を開始する前に15〜30分ほど天日に干すと、ビタミンDの含有量が格段に向上します。また、旨味成分のグアニル酸は、加熱する事で豊富になるので、日に当てて、鍋物として煮込めば、キノコの健康度を大幅にアップさせる事ができます。鍋物の季節、お薦めの食材です。
第194回 松葉の湯
2004年12月14日
子供の頃、小学校の中庭にある池に松の葉を投げ入れて遊んでいました。水面に落ちた松葉は、ちぎられた断面から油分が勢い良く染み出し、まるで動力を持った船のように水面を移動します。その様が面白くて、しばらく飽きずに松葉を投げ入れては、水面を見詰め時を過ごしていました。その当時は、単なる推進力の元であり、水面に広がる油膜でしかなかった松葉の精油成分は、今日の健康志向に毒された頭には、何やら効能の素のように思えて、興味の対象となってしまいます。
松は、日本固有の植物という訳ではありませんが、何故か松の絵柄を見ると和風な何かを感じてしまいます。能や歌舞伎の背景に多用され、盆栽や生け花の素材としても愛用されています。幹から取れる松脂は、さまざまな工作の原料としても使用され、根に寄生するキノコ類として、マツタケはあまりにも有名であり、同じく根に寄生するキノコの茯苓は、漢方薬には欠かせない材料の一つとなっています。
マツタケに茯苓、貴重なものが限定的に松の周りにだけ生える事や、年間を通し、青々とした外見が変らない事等、松には神秘的な何かを感じる事があったのでは、と推察されます。また、樹齢が長い事からも縁起物として門松として、正月の門前を飾ってくれます。そうした松は、独特な芳香を持ち、芳香成分としてテルペンやα−ピネンの存在が知られています。
テルペンやα−ピネンは、疲労感を和らげる働きがあり、また松の精油成分自体に若干の皮膚を刺激する作用があり、全身の血行を促進してくれます。その結果として、疲労物質が分解され、肩凝りが軽減されたり、神経痛やリュウマチ、腰痛の治療にも効果があるとされます。松葉250gほどを鍋に入れて火にかけ、煮出したら松葉を漉しながらお風呂へ入れます。湯上りは、精油成分が表皮に残っている事がありますので、良く洗い流すと良いとされています。最近、松葉を入手する事が難しくなってきているようですが、手に入る事がございましたらお試し下さい。
第193回 健康飲料?
2004年12月13日
先日の報道で、各メーカーが売上を確保させるために、小売店向けに支出していた補助金をカットする事から、ビールの値上がりが言われていました。忘年会で需要が見込まれる今月は、値上げの対象から外れていますが、新年会が行われる来月は、既に新価格という事になると思われます。年間を通し、一缶すら消費しない私には、ほとんど別世界の話しなのですが、ビールと健康に関する話題がありましたので、少々気になってしまいました。
ビールは健康に良いのか、悪いのか?一概には言えない事です。最近、よく聞かれますが、プリン体が多い事から、通風には悪そうな感じがします。アルコール飲料なので、依存症や肝臓への影響も気になります。その反面、アルコールは血栓を溶かす働きがあり、原料の一つであるホップは女性ホルモンの働きを助けてくれます。何をもって健康に良いとするかで、判断が分かれそうです。
広島に原爆が投下された後、被爆による障害が、お酒を飲む事で良くなったという噂が残されています。同様の噂は、チェルノブイリにおいても確認され、ビールを飲む事で、放射線による被害から、身体を守る事ができるのでは、という可能性が示唆されてきています。実際、ビールに含まれるアルコール分であるエタノールは、活性酸素と結合する強い力を持ち、細胞やDNAを活性酸素から守る力を持っています。
最近の研究でビールには、シュードウリジンという成分が含まれ、肉や魚の焦げに含まれる発ガン物質から身体を守る事が発見されています。このシュードウリジンを血液に添加し、放射線を当てるとDNAに異常が生じる率が下がる事が知られています。はっきりとしたメカニズムについては、まだ謎とされていますが、このシュードウリジンが関係している事は、充分考えられます。しかし、ノンアルコールのビールではその働きが弱く、エタノールだけでも同程度の働きは確認されていない事から、何らかの相乗効果が存在する可能性が感じられます。ビールの新たな効能の発見を前に、値上げという事は、あまり歓迎できる事ではありません。
第192回 アポトーシスへの道
2004年12月10日
ガン細胞とは何であるか?この問いに対し、幾つもの答えが予想されますが、その中の一つに「不死の細胞」という答えは必ず含まれると思います。通常の細胞は、一定の条件が整うと、自然と死を迎えます。ガン細胞は、そうした死を免れている細胞で、際限なく分裂を繰り返し、分裂回数の限界さえも超越しています。
細胞の死は、あらかじめ予定されていたものや、障害があった際の自発的な死をアポトーシス、炎症などによる大規模な死をネクローシス、細胞の寿命による自然死をアポビオーシスと呼んで区別しています。ガン細胞は、本来であれば細胞が異常をきたしている状態なので、アポトーシスによる死を迎えなければいけない事になります。しかし、ガン細胞内のアポトーシスを誘発する機能は、まったく稼動しておらず、そのためにガン細胞は「死ぬ事を忘れた細胞」とまで言われます。
最新のガン治療の方向性として、2つの大きな方向が示されていました。一つはガン細胞が増殖する際、栄養となる特定の成分を破壊、または吸収されないようにして、ガン細胞を兵糧攻めにするというもの、もう一つがガン細胞にアポトーシスを思い出させるというものでした。これまで、アポトーシスを起させるには、低酸素状態に晒す事や、特定のタンパク質の発見など、さまざまな手法が有効とされてきました。今回、新たに人工脂質膜を用いてアポトーシスを起させる手法が、熊本の崇城大学工学部の上岡龍一教授(応用生命科学)によって発見されました。
上岡教授は、自らが開発した人工脂質膜リボソームを用い、リボソームに反応するガン細胞の細胞膜上のタンパク質を特定し、リボソームが細胞壁に蓄積する状態を作り出してやると、細胞内のアポトーシスを引き起こす酵素が活性化する事を発見しました。正常な細胞には、このリボソームは反応しないため、副作用の心配もないという事です。リボソームというと、おたまじゃくしの尻尾が無くなる際、アポトーシスを起させる物質として知られていますが、ガン細胞に対しても有効に作用するところが興味深く感じられます。有効で安全な治療に繋がる可能性を秘めた発見ですので、早い実用化を期待したいと思っています。
第191回 冬至の湯
2004年12月09日
暖冬と言われながらも、お風呂が嬉しい季節になりました。最近では、さまざまな入浴剤が販売されていますので、いろんなお風呂のバリエーションがあると思います。そんな中にあって、自然の物をそのままお風呂に入れ、入浴剤として用いる例は、端午の節句の菖蒲と冬至の柚子が一般的ではないでしょうか。特に柚子は冬至に限らず、冬場に用いられる事が多いように感じています。
柚子湯は、身体が温まる効果が大きいとされています。実際、柚子自体には、発汗、解熱、疲労回復といった効能が知られています。果実に含まれるビタミンCやクエン酸などが、体内の疲労物質を分解する働きを持ち、柑橘系の香りには、独自の癒し効果が期待できます。
柑橘類の中にあって、柚子の香りは芳香性において他の柑橘類よりも優れています。黄色い皮の下、白いスポンジ状の皮に含まれるヘスペリジンやピネン、シトラール、リモネンなどの精油成分が、柚子の強い芳香を構成しています。そうした精油成分は、単に香りを演出するだけでなく、リモネンのように角質を溶かして皮膚を柔らかく、艶やかにしたり、ヘスペリジンのように毛細血管を強くしたりという効能も持ち合わせています。
拡張した血管を収縮させるために働くノルアドレナリンの分泌量を計測し、血管の拡張状況を観察するという興味深い実験が行われた事があります。その実験によると、ノルアドレナリンの量は、何も入れないさら湯と柚子湯では、約4倍もの分泌量の差があり、いかに柚子湯が身体を温めてくれるかが伺えました。冬至は、「一陽来復」の日とされ、極まった陰から陽が生じる日とされ、この日から春が始まります。悪い事が続いた後、良い兆しが出始める事にもかけられたらしく、「いちようらいふく」と唱えながら柚子湯に入浴すると、縁起が良いとされます。身近にひどい冷え性の人がいるので、今度薦めてみなければと思っています。
第190回 大地のヒーリング
2004年12月08日
寒くなってくると、というより年間を通し人気の癒しスポットに温泉があります。ゆっくり休暇を取って温泉でのんびり、回りが温泉だらけという環境に生活する私でも、思わず憧れてしまう事です。昔から湯治という伝統を持つ日本人にとって、温泉とは、心を休め身体を癒すものとしての概念が強く根付いています。実際、各家庭で沸かすお風呂より、何らかの効能が体感できる話は多く聞かされます。
一般家庭のお風呂と温泉との違いは、そのお湯に溶け込んだ、各種の成分において大きく異なります。温泉は、地中深く染み入った地下水が、地上では考えられないような高温、高圧に曝されながら長い年月をかけて地表に湧き出してきます。そのため、通常ではありえないような状態で、さまざまな成分が溶け込んでいます。それが温泉の不思議な力となっていると言われます。
炭酸泉は、血行を促進する効果が強く、重曹泉は、肌を滑らかにする美人湯としての効果、食塩泉は、汗の蒸散を防ぐので、いつまでも温感が続くという効果を持っています。そうした温泉を蒸気として吸入したり、直接飲用しても効能があるといわれます。それ以外にも、温泉地の視覚的効果にはじまり、嗅覚、聴覚、お湯への触覚、温泉水の味覚など、五感を刺激する効果が身体の活性化に繋がると考えられます。
また、最近の研究では、静水圧として、かなりの水圧が身体にかかる事から、内臓が圧迫されて横隔膜が押し上げられ、呼吸回数が上昇する事や、足に溜まった血液やリンパ液が押し戻されて心臓へと戻る事で、心臓の働きが活発化する事などが考えられ、繰り返し入浴する事で、水圧という負荷が断続的にかけられ、全身へのマッサージ効果を発生させます。浮力がかかる事も、体重で圧迫されていた部位の負荷を軽減させ、その部分への血行を促進して治癒力を向上させる事も考えられます。全身と心のメンテナンスを含め、この冬、湯治などいかがでしょうか。
第189回 新判定法
2004年12月07日
日本人には、カルシウムが足りない。どこかで聞いたようなコピーです。実際、日常の食生活では、カルシウムは不足しがちで、イライラを抑えたり、身体を活性化するには充分ではないと言われます。また、骨を形成するという点でも充分ではないため、努めてカルシウムを摂取する方も多いと思います。
骨というとカルシウムがすぐに連想されますが、カルシウムのみでは骨の状態を維持、改善する事はできません。骨の材料となるその他の成分、マグネシウムやコラーゲン、カルシウムの吸収を妨げるとして敬遠されるリンも骨を形成する材料となっています。それらがバランスよく摂取され、骨を作るのに必要なビタミンDやK、材料となる栄養素の吸収に関わるホルモンがあって、はじめて骨は良い状態を確保する事ができるのです。
そうした骨に関わる栄養成分は、日常の食事を適切な内容にする事によって、バランスを取り、良い状態にする事は可能ですが、ホルモンだけは食によって左右する事ができません。そのため、体内のホルモンバランスが何らかの理由によって崩れてしまうと、骨を正しく維持する事ができなくなり、骨から成分が抜け出し、スポンジのような状態、いわゆる骨粗鬆症になってしまいます。かつては、ホルモンの分泌が滞る高齢者の症状とされてきましたが、最近では、無理なダイエットによって若年層にも増えてきています。
従来、骨粗鬆症の判定は、腰椎や大腿骨から骨密度の判定を行っていましたが、自覚症状に乏しいため、積極的に検査を受ける例は、非常に少なくなっていました。高齢者の骨粗鬆症による骨折は、寝たきりになる最大の原因の一つとも考えられます。今回、広島大学病院歯科放射線科の田口明講師らの研究によって、歯科治療の際に撮影される歯や顎部のパノラマX線写真を使い、骨粗鬆症の判定が可能との発表がされていました。体重の変化によって骨粗鬆症を早期発見する検査方法もありましたが、今回の判定方法は、それをはるかに上回る精度だといわれます。歯科検診の際にでも検査を行ってもらい、早期発見する事によって骨折等を未然に防ぐ有力な判定方法となる事を期待しています。
第188回 パーマにご注意
2004年12月06日
わずかな違いでも、顔の印象は大きく左右されてしまう事があります。特に眉の形状は、簡単に印象や表情を大きく変えてしまえるポイントの一つではないでしょうか。その眉の下、睫毛も目の表情を変えるには、有効なポイントです。特にメイクに目力が求められるようになってからは、重要視する方も増えたように思われます。
従来、睫毛のメイクは、ビューラーと呼ばれる器具を使い、睫毛を挟み込んでカールさせていましたが、より手軽にという事で、睫毛パーマをかける方も増えてきました。しっかりとカールされた睫毛は、目を大きく、睫毛自体も長く見せる効果があります。しかし、この睫毛へのパーマで、さまざまなトラブルが発生し、昨年度、東京都の国民生活センターへ持ち込まれた被害相談の件数だけでも49件にのぼるそうです。
睫毛へのパーマは、小さなカーラーに睫毛を巻き付け、粘着性の高いパーマ液を用いて行われています。ところが、そのパーマ液に頭髪以外では使用できない、通常のパーマ液を使用している例が多いそうです。通常のパーマ液では、粘着性が低いために液垂れが起こりやすく、瞼に垂れたり、最悪の場合、目の中に流れ込んだりする可能性があります。実際、瞼の腫れや、角膜の3分の2が剥がれ、しばらく視力が回復しなかった例も報告されています。
また、パーマを行う際は、アルカリ性の液と酸性の液を交互に使いますが、その間の洗浄がきちんと行われていない事から、中和作用が起こり、うまくパーマがかからないために、やり直し作業が繰り返し行われ、睫毛自体が抜け落ちるというケースも起こっています。ビューラー自体は、それほど時間や手間がかかるものではありませんが、睫毛の根元からカールさせようとして、瞼を挟んでしまった経験を持つ方も多いと思います。しかし、どちらかと言えば、そちらの方が安全な気がしているのは、私だけでしょうか。
第187回 どちらが優先?
2004年12月03日
年の瀬も押し迫り、今年も残り少なくなってきました。クリスマスや忘年会、その他、さまざまな催し物のお陰で、鶏肉の需要が増える時期でもあります。鶏肉は高タンパク低脂肪と、ヘルシーな食肉として扱われます。実際は、鶏肉全体から見ると、脂肪分が牛や豚より特別少ないという事はないのですが、料理として出される際は、脂肪分が少ない状態になっています。
鶏肉の特徴として、脂肪分が牛や豚のように筋肉の中にまで入り込んだ、いわゆる「霜降り」の状態にならず、皮の下に集中するため、下ごしらえの段階で取り除いたり、調理中に落ちたりしてしまうために、結果的に低脂肪の状態になってしまいます。特に脂が少ない「ささ身」の部分だと、脂肪の量は、牛や豚に比べ、8分の1程度と極めて少なくなっています。
高タンパク低脂肪と、ダイエットをはじめ美容食という感じがする鶏肉ですが、もう一つのメリットとして、非常に多くのコラーゲンを含んでいます。コラーゲンというと、皮膚や髪に限らず、爪、眼球、関節といった全身を形作り、免疫力も向上させるという重要な栄養素です。特に皮に多く含まれる事から、皮の比率が多い「手羽先」は、コラーゲンを大量に摂取する事ができる食材となっています。
しかし、皮に付随するのが、あの黄色くブヨブヨとした脂肪分です。美容や健康のためにコラーゲンを摂取したいが、脂肪が多くなるのは困る。そんな時は、どうすれば良いのでしょう?皮をよく加熱する事で、脂肪分をある程度落とす事ができます。実は鶏の脂肪は、コレステロールの上昇には繋がらない不飽和脂肪酸が多く、生活習慣病が心配な方でも、安心して食べる事ができます。霜降り肉と比べて脂分の分離がしやすい性質を持っているので、よく加熱して脂を落とし、残った脂肪分はあまり神経質にならず美味しくいただけば、ヘルシーな食材として幅広い料理に使う事ができます。
第186回 つなぎに見る地域色
2004年12月02日
どちらかといえば好きな方なのですが、ここのところ麺類を食べていないという事を、ふと思い出してしまいました。当地熊本は、全国的にラーメンが有名な土地柄であり、麺類といえるのかという若干の疑問はありますが、郷土料理の一つとして「だご汁」もあります。最近、さまざまな機能性食材を練り込んだ新たな麺が登場していますが、やはり麺というと頭に浮かぶのは、小麦粉、または蕎麦粉を使った麺ではないでしょうか。
穀物を粉に挽いて練り上げ、細い線状に仕上げる事を、麺を打つと表現します。その中で、蕎麦を打つ事だけは、愛好家の間で蕎麦道と呼ばれています。確かに、蕎麦を打つ事は、小麦粉を使った麺を打つよりもグルテンによる粘りが期待できない分、難しい事が考えられます。蕎麦粉だけで作られる十割蕎麦、もしくは生粉打ち蕎麦は、粘りが少ない分、麺を太くして長さを確保するか、細く短い形状になってしまいます。
打ち上がった麺は、ザルに上げて、流水でぬめりを取ります。そうした工程を考えると、蕎麦粉だけで作られた麺は、切れて短くなってしまう可能性がある事や、打つ際に伸ばしにくいという一面もあります。そのため、小麦粉を混ぜるなどして、麺の質感を改善します。それが「つなぎ」と呼ばれるものですが、蕎麦に対するつなぎは地域によって変化があり、興味深いものとなっています。
小麦粉以外に自然薯(山芋)を用いる例は、今日では広く見られますが、鹿児島をはじめとした南九州が発祥と言われています。蕎麦の本場でもある信州では、オヤマボクチ(山ごぼう)の葉を乾燥させたものが使われ、長い繊維が切れにくい麺を作ってくれるとされます。新潟では、海藻の一種であるフノリを煮溶かしたものが使われ、歯切れの良い艶やかな麺を作り出しています。津軽地方では、大豆の汁である呉汁が使われ、大豆の甘味が加わったコシの強い麺に仕上げられます。自分で蕎麦を打つ愛好家の方も増えているそうですが、つなぎを違えて試してみるのはいかがでしょうか。
第185回 伝統食?(後編)
2004年12月01日
このコラムをはじめて、一つの話題が前後編に分かれたのはこれが初めてです。それだけハンバーグって、奥が深い料理なのでしょうか。前編では、ハンバーグの発祥が、タタール人の生活の知恵による硬い馬肉のミンチ化というところにまで話しが進みました。モンゴル人のヨーロッパ侵攻の頃ですから、13世紀の事となります。ところが、それより遥かに古い時代に、すでにハンバーグは存在していました。6000年以上も昔、この日本においての事です。
6000年前、縄文時代の事になります。最近の研究で、縄文人は当初考えられていたよりも、はるかに多彩で豊かな食文化を持っていた事が判ってきました。1999年に長野県の大崎遺跡から、直径3cm程度の小さな炭化物が発見されています。科学的な分析の結果、卵や木の実を練り合わせた形跡がある事から、研究者の間では「縄文クッキー」と呼ばれています。
同種の出土品は、同じ縄文時代の遺跡からも見つかっており、山形県の押出遺跡からの出土品には、鹿や猪の肉が使われ、野鳥の卵が練り込まれていたそうです。ミンチと卵を練り合わせ、しかも形は少々いびつですが小判形。つなぎのパン粉やナツメグ、オレガノは入っていませんが、こうなると完全にハンバーグです。
その後、縄文、弥生と同種の食文化は継承された事と思われますが、奈良、平安時代に入ると仏教思想の影響もあり、急速に獣肉を食す習慣が廃れてしまい、縄文人のハンバーグの存在も忘れ去られてします。日本人が獣肉を食す事を再開したのは、明治維新以降の事となり、ハンバーグは縄文食の復刻ではなく、西洋料理として輸入される形で入ってきます。途中で廃れてしまわなければ、今頃は伝統料理の一つとなり、イズモステーキやキョウトステーキの名が世界に広まっていたかもしれませんが、残念ながら洋食メニューのハンバーグというのが、今日の正式な姿となっています。
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