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第300回 お椀と茶碗
2005年05月31日
和食の器は、用途や料理、季節や素材に合わせられるように多くの種類が存在しています。そんな和食の器の中で汁物を盛り付ける器としてお椀があり、形状、大きさはほぼ同じ物なのですが、ご飯を盛り付ける物は茶碗が使われます。日本人として生活していると、ほとんど同じ物に見えてしまう両者の役割が入れ替わる事には、何らかの違和感を感じると思います。
茶碗はご飯を盛り付ける専用の器ですが、なぜ専用性を高く持ちながら「ご飯椀」ではなく、茶碗と呼ばれているのでしょうか。茶碗の歴史の中に答えがあります。茶碗は、平安時代に中国から入ってきました。当初は仏器として禅僧が持ち帰った物で、薬の一種とされていたお茶を飲む器として使われました。
鎌倉時代に入ると、禅僧を中心に茶道が広まり、茶器として茶碗が用いられるようになりました。当時、お茶自体が高価な物で、ごく一部の上流階級の間での流行でしたが、茶器がもてはやされるようになり、器としての市民権を得るようになりました。
その後、室町時代になると「茶碗」は、磁器の代名詞のように言われるようになります。当時は中国から磁器を大量に輸入していましたが、茶碗が最も多かった事から、磁器そのものを茶碗と呼ぶようになっていました。ちょうど現在でも焼物を「瀬戸物」と呼ぶ事に似ています。汁物やご飯を盛り付ける器は木製のお椀が主流でしたが、江戸時代に入ると国産の磁器が大量生産されるようになり、汁物と区別する意味からもご飯には磁器が使われ、使用頻度の高さから茶碗というとご飯茶碗を指すようになります。ご飯用としての専用性が高まってから、現在のような軽くて薄く、広口の朝顔形の物に変化しました。今では、茶碗というとご飯。お茶は湯呑みでしょうか。
第299回 青いみかん
2005年05月30日
みかんは子供の頃から馴染みのある果物でした。季節になると、食卓の片隅に置かれている事もあり、冬の目印ともなっています。秋には早生の物が出回り始めるので、運動会の頃に緑色がまだらになったみかんを見かけていたためか、まだ青いみかんを見ると、運動会を連想してしまいます。そんな早生みかんなのですが、勝手な思い込みなので酸味が強いような気がして、食わず嫌いの一つとなっています。酸味が強い場合は、生活の知恵として表面を焼くというものがありますが、そこまでしなくてもと思ってしまい、いまだに食べない状態が続いています。
みかんをはじめとする柑橘類は、2千万年〜3千万年前のインド東北部、アッサム地方に発生したと言われます。アジア大陸東南部に広く分布し、多くは中国原産。栽培されたのは、5千年ほど前と言われているので、かなり古い付き合いとなっています。原産地の中国では、もともとは現在のような甘いみかんは存在せず、日本に伝えられた後に、偶然できたものと考えられているので、こたつでみかんというのは、日本独自の純国産スタイルと言えます。
かつては、みかんは薬用と考えられていました。漢方原料として皮は、今日でも使われています。中国でも2千年前に書かれた薬学の専門書「神農本草経」には、咳や痰、咽喉痛、食欲不振、腹部膨満感などの治療薬とされています。特に日本では、青い未熟なみかんを、「九丸(くまる)」と呼び、肺や胃腸といった五臓六腑を活発にして、下痢を止めるとして扱われていました。
そんな未熟な青いみかんに、花粉症、アトピー性皮膚炎、気管支喘息、蕁麻疹といったアレルギー性疾患の治癒に効果が上がる事が発見されました。完熟したみかんには、期待したほどの効果が得られない事から、青いみかん独自の効能と考えられます。みかんに含まれる抗アレルギー作用を持つ成分としては、「ヘスペリジン」と「ナリルチン」がありますが、完熟度に応じて変化する成分としては、ヘスペリジンが知られています。ヘスペリジンは未熟な頃に多く、8月を過ぎると3分の1に減り、12月を過ぎて完熟すると痕跡程度にまで減少してしまいます。そうした性質から、青いみかんの価値の高さが伺えますが、やはり美味しくなさそうという思いは残ってしまいます。
第298回 もう一苦労
2005年05月27日
日常目にする行為の中で、明らかに健康を害しているものというと、喫煙ではないでしょうか。喫煙は健康管理の上で、肥満、偏食などと並んで、できるだけ早期に改めた方が良い習慣とされます。健康診断の後や税法の改正で値上げされると、それを機に禁煙を始めるという声を多く聞かされます。しかし、単純にタバコを吸う習慣を止める、健康を維持するにはそれだけでは済まされない事が判ってきました。
タバコを止めると肥ると言われます。禁煙する事で、口の中のニコチン臭が消え、味覚が鋭敏になる事から、食べ物がそれまでより美味しく感じられ、食べ過ぎてしまう傾向ができ、タバコを咥えておくという習慣がなくなった事から、口寂しさが出てしまう事も、食べ物を口に運ぶ機会の増加に繋がります。更に、ニコチンの作用で余分にエネルギーが消費されていた事がなくなるので、肥りやすい状態になる事も肥満に拍車をかけてしまいます。
喫煙を止めた際、体重が増加すると男性の場合、1kgあたり肺の機能が11.5ml低下し、女性の場合、1kgあたり3.7ml低下する事が明らかになっています。その傾向は年齢が高くなるほど大きく、喫煙の経験がない人が肥った場合よりも、喫煙を行っている人の方が、影響が大きく、直接的な影響が出るという結果も得られています。
体重が増えたとしても、そのわずかな悪影響よりも、禁煙によって得られる様々な有益性の方が大きいと研究者は指摘していますが、禁煙した上にダイエットにまで取り組まないといけないのでは、禁煙への意欲も高まらないかもしれません。しかし、健康を考えての事だけに、禁煙を志す人には頑張ってもらうしかないと、陰ながら応援したいと思っています。
第297回 ヴァーチャルリハビリ
2005年05月26日
VR=ヴァーチャルリアリティ(仮想現実感)は、昨今のゲームの主流的位置を占め、さほど目新しさを感じるものではなくなってきています。そんなVRゲームが、脳卒中生存者のリハビリに適している事が、米国ハンプトン大学理学療法科のヨウ助教授の研究によって明らかにされていました。医学誌ストローク5月号に掲載されたレポートでは、VRゲームが歩行能力や脳の障害領域の機能改善に大きく貢献すると報告されています。
ヨウ助教授によると1年以上前に脳卒中を患った患者を対象とした小規模試験で、身体の片側に後遺症の障害が残る患者10名を対象に、5名に1ヶ月にわたり、週5日、1日1時間の市販のコンピューターゲームを行ってもらい、残る5名にはなにもしない常態で行われました。
その結果、ゲームを行ったグループでは、15メートルの歩行能力が23%向上し、何もしなかったグループでは5%の改善に留まり、階段を上がる能力はゲームを行ったグループが17%以上も回復した事に対し、行っていないグループでは、ほとんど改善されていない状態でした。また、訓練実施後、脳の障害を受けた領域では、100%ではないものの機能改善が求められたそうです。
実際に従来の脳卒中リハビリテーション治療に、独自に開発したVRゲームを追加し、慢性的脳卒中後遺症患者の機能改善を行っている米国ラトガース大学コンピューター工学のバーディー教授は、「複数の施設での小規模な試験で、VRによる脳卒中後遺症の機能回復に望みを与える結果が示されている。大規模な多施設対照試験が実現されれば、これまでの結果を実際に裏付ける事ができる」としています。コンピューターゲームに興じていると、脳の前頭前野の血行が少なくなり、脳の感情面での発達が阻害されると一部機関から弊害説が唱えられていますが、接し方次第では、脳機能の改善に役立つ事が示唆され、興味深い報告ではないかと思っています。
第296回 煮る
2005年05月25日
和食は日本文化の複雑さというか微妙なニュアンスの大切さを反映して、ちょっとした言葉の違いでも別なものを指している事があります。調理方法や、それによって出来上がる料理にもわずかな違いで呼び方が変わってしまう事があり、それらをあらかじめ理解しておく必要があります。素材の持ち味を活かす工夫を大切にしているためです。
和食では、素材の持ち味を活かす事、そして用途に見合った仕上がりが求められます。そのため、最も基本的な「煮る」という調理法によって作られる料理も、煮物、煮しめ、含め煮、煮付けと、複数の呼び名が存在しています。素材を水や出し汁に入れて加熱する、それだけの事に、どのような違いがあるのでしょうか。
鍋の水や出し汁、調味液に素材を入れて加熱する事によって、素材が軟らかくなったり、内容成分が消化吸収できる状態になり、味が染み込んで美味しくなる。それが煮るという調理ですが、そうした料理の総称を煮物と言います。そうした煮物の中で、煮汁がなくなるまでしっかりと煮込んだもの、それが煮しめで、根菜類やこんにゃく、竹輪などの素材が中心となり、日持ちを良くする意味もあります。
含め煮は、含ませ煮、煮含めとも言い、素材の持ち味や色合いを活かした料理になります。煮汁の味や旨味をたっぷりと素材に染み込ませる調理方法で、比較的多めの煮汁を使います。それに対し煮付けは、最初から煮汁を少なめにし、煮ながら味を付ける調理方法を指します。甘味、辛味、両味で使われ、仕上げに煮汁を少し残し、こってりとした味付けに煮上げられます。魚の煮物などに使われ、日常の惣菜向きと言われます。煮る、一つの調理法にもこれだけのバリエーションがあり、和食の奥深さを感じさせてくれます。
第295回 堅い豆腐
2005年05月24日
豆腐の角に頭を...と昔から言われるように、豆腐は柔らかい物の代表的な存在でもあります。仏教の影響から獣肉の摂取を禁じていた日本では、豆腐は貴重なタンパク源であり、広く普及し、各地で親しまれてきた食品でもあります。それだけに加工法も多数存在し、加工法によっては、かなり堅い物があって、角にぶつかると、それなりに痛いものがあります。
日本各地に堅くしっかりとした作りの豆腐が伝えられ、総称して堅豆腐と呼ばれています。堅豆腐は通常の豆腐より水分が少なく、重量も倍以上あります。主に豪雪地帯や離島などの交通の便が悪い地域に多く、貴重なタンパク質の補給源となっていました。通常の豆腐との製法の違いは、豆乳の段階で濃度を濃くする事と、必ず苦汁を使う事。箱型で固める時、かなりの重量と時間をかけて、しっかりと水分を抜く事です。そうして水分量が少なくなる事から、日持ちが良くなり、保存食として使われる物もあります。
代表的な堅豆腐としては、石川県白峰村の石豆腐、富山県五箇山村の岩豆腐、熊本県五木地方の五木豆腐、長崎県五島列島の潮豆腐、沖縄の島豆腐などが有名です。変わったところでは、山形県月山、岩根沢地方に伝わる六浄豆腐は、豆腐の回りに塩を塗り、日干しにした黄白色をした乾燥豆腐です。別名精進節と言い、鰹節と同じように薄く削ったり、水で戻して使います。
また、岐阜県母袋地方に伝えられた燻り豆腐は、大豆を大量に使い、水分をしっかりと搾り出して堅く仕上げるという堅豆腐の基本に忠実に作ったものを、燻製にして保存性を高めるという特徴があります。味噌に漬け込んで味付けをし、より保存性が高まるようにする事もあり、堅豆腐に求められるタンパク質の供給源、保存性という特徴を高めた物と言えます。堅いという特徴も、山が多い日本の地形に、安全に持ち運べるという点で適うものだったのかもしれません。
第294回 メロンって?
2005年05月23日
自他共に認めるパン好きですが、許せない存在が一つ。メロン風味のメロンパンです。「メロンの果肉○○%使用」という表示のある物や、メロンの有名産地の名前が付いた物を見かけます。その度に「土手焼き」に土手は入っていないし、「兜焼き」に兜は入っていないというのに、なぜメロンパンだけメロンを入れたがるのだろうと考えてしまいます。
パン生地表面にビスケットの生地を被せ、格子状の模様を付けてメロンパンは焼き上げられます。カリっとした表面と、ふんわりとした引きのある中身、ビスケット生地の上品な甘さが特徴です。懐かしい菓子パンとして、最近人気が少しでた感のメロンパンですが、実は、その成り立ちには謎の部分があります。
メロンパンの歴史は古く、大正時代にはすでに販売されていたと言います。メロンの名の由来に関しては諸説があり、当時、ビスケット生地に硬めに泡立てた卵白、メレンゲを配合していた事からそれが名前に繋がり、メレンゲがなまってメロンとなったという説と、焼き上がった表面にできるひび割れが、マスクメロンのひび割れに似ていたために付けられたという説。当時、アメリカから輸入された高級果物のメロンが高嶺の花とされていましたので、それに似せて人気にあやかったという説もあります。
スペインやメキシコにもメロンパンに酷似したパンが存在し、そちらの方が歴史的にも古いと言われるので、メロンパンの正式なルーツは海外にある可能性があります。その場合、メロンに似せて作られたという説は、根拠が怪しくなってきます。関西では、メロンパンの事をサンライズ、コッペパンなどと呼ぶ事もあり、別な白あん入りの楕円形のパンをメロンパンという地域もあります。何気なく接している菓子パンのメロンパンには、海外にも繋がる謎が隠されていると知ったところで、店頭での接し方には何も変化はなさそうですね。
第293回 尾、匹、本、頭?
2005年05月20日
以前、アメリカ人の方から突然、「魚がいます、何びきでしょう?」というなぞなぞを出された事があります。判らないと答えると、「正解は3びきです」。彼曰く、数を表す「匹」は、「ひき」と読む場合、2ひき、4ひき、7ひき。「ぴき」の場合、1ぴき、6ぴきと複数存在するが、「びき」の場合、3びきのみだからという事でした。「13びきは?」と思いましたが、とりあえず笑って済ませました。
魚を数える単位は、匹以外にも複数あります。尾や本という数え方は、日常生活の中でも耳にする事があります。実は、この魚の数え方に関する単位、商取引上の慣習として使われてきたものが多く、特別な決まりはないと言います。また、時代によっても変化するので、かなり複雑になっていて、正式ではないだけに使い方に困ってしまう事もあります。
一般的に匹と数えるのは、全体的に共通した事です。尾ヒレの付いた小型の魚の場合、匹と同じように尾という数え方もします。マグロやカツオなどの大型の魚の場合、尾よりも本という数え方が多く用いられ、魚ではありませんが、水棲の哺乳類イルカや鯨の場合、頭が用いられます。
また、タコやイカなどの軟体動物は、広い意味での貝類として扱われてきたので、杯または盃を当てて、ばいと呼びます。これは貝を音読みしたばいからきていると言われます。特殊な例では、鯉に限り折(おり)という数え方が使われます。白魚やサヨリなどの繊細な魚は、箸で挟んで数えた事から条、または筋と書いてすじと数え、20条集まると樗蒲と書いて、ちょぼと数えます。同じ魚でも干物になると、10枚束ねた物を1連と数えたり、100個を意味する足で数えたりもします。そうした複雑さは、魚食と日本人の関係の深さを表しているように思えますが、知っているからといって、スーパーでは使えないようなどことなく寂しいものを感じてしまいます。
第292回 フランスパンの種類
2005年05月19日
フランスパン・・・私の中で、絶対にその日のうちに食べてしまわなければ、価値が失われてしまう食品の一つになっています。フランスパンは、パリっと香ばしいクラスト(皮)とふんわりとしたクラム(中身)が大切です。時間が経つとクラストが湿気り、クラムが固くなって、美味しさが半減してしまいます。小麦粉、水、塩、酵母だけで焼き上げられる素朴なパンだけに、味の劣化が露骨に出てしまうのです。
通常、フランスパンと言うとバゲットを指します。しかし、パン屋には同じような質感のパンが多く存在します。通称、「フランス粉」と呼ばれる強力粉と中力粉の中間にあたる粉を使い、あとは水と塩、酵母だけで作るパンは多くの種類があります。実はフランスパンには、多くの種類が存在し、それらは厳密に規格が定められています。
フランスパンの種類は、パン生地の状態や焼き上がった時の重量、形状、クープと呼ばれる表面に入れる切込みの本数などで、細かく分けられています。代表的なバゲットは、棒という意味を持ち、生地重量350g、焼き上げ重量270g程度、長さは68cm、クープは8本と定められています。同じ形状でも生地重量650g、焼き上げが500g、クープ5本ではパリジャンと呼ばれ、もっと大きな物では、生地850g、焼き上げ690g程度、長さ55cm、クープ3本で、1kgという意味のドゥーリーブルという物があります。
変わったところでは、バゲットと同じ重量で、直径20cmの円形、クロスしたクープを持つボールという名のブール。麦の穂の意味のエピなどがあり、バタール(中間)、フルート(フルート)、フィセル(紐)などの種類があります。こうした厳密な規定は、12〜13世紀頃、フランス国家が物価安定策として、穀物価格の変動に沿ったパンの公定価格を決め、重量や大きさ、製造に関する工程を細かく決めた事に由来します。現在は、本国フランスでも価格統制はありませんが、そうした名残は色濃く残されています。遠く離れた日本では、まるで関係ない話かもしれませんが、今度クープの数でもチェックしてみようかと思っています。
第291回 魚卵の呼び名
2005年05月18日
コレステロール、プリン体、健康管理の上で気になる要素が多いのですが、美味しさに負けてしまいそうになるのが魚の卵ではないでしょうか。魚卵は、さまざまな加工や調理を施され、幅広く使われている食材でもあります。そうした関係から、魚卵に関する呼び名は数多く存在しています。
大きく分けると、魚卵は「真子」と「白子」という呼び方があります。真子は粒々の形状で、魚の卵巣を指し、白子は粒がなく、白く軟らかい精巣を指します。最もよく知られた魚卵、イクラは真子にあたり、鮭の卵巣を加工した物になります。よく似た物に筋子がありますが、どちらも同じ鮭の卵巣で、筋子は鮭の腹の中にある卵巣を塩漬けにした物、イクラは成熟した卵巣から一粒ずつ取り出し、塩蔵した物を指し、同じ鮭の卵巣でも加工法によって異なる扱いを受けている事になります。
廉価版の寿司ネタにおいて、イクラのように使われている小さな粒は、トビウオ卵巣で、そのまま「トビ子」と呼ばれています。イクラ風に扱うためか、オレンジや赤に着色されている事が多く、黄みを強めにして数の子のように使われる事もあります。当の数の子はニシンの卵巣で、最近はニシンの漁獲量の低下から、希少な食材となりつつあります。イクラの代替としては、鮭に近い鱒の卵巣を用いる事があり、こちらは「マス子」と呼ばれているようです。
おにぎりやスパゲティで使われるタラコは、スケトウダラの卵巣で、加工法の違いで明太子とも呼ばれ、地方によっては色合いからもみじ子と呼ばれる事もあります。紛らわしい物では、シシャモの卵巣を着色して味付けした物をエビ子と呼び、形状が藤の花に似ている事から、タコの卵は海藤花(かいとうげ)と呼ばれます。高価な魚卵となると、ボラの卵巣を塩漬けにして加工したからすみや、チョウザメの卵のキャビアがあります。もっとも、安価なキャビアはランプフィッシュの卵に着色した物があるので、注意が必要です。そうやって見ると、魚卵の世界も深いものがあります。
第290回 さかなって?
2005年05月17日
以前、漁業関係者のフォーラムに参加させていただいた際、「魚食栄えて、漁業廃る」という言葉が、現場関係者から出されていた事が非常に印象的でした。確かに健康志向やグルメブームの影響もあって、魚料理の出番は多くなっていると思いますが、特定の魚種に人気が集中し、それ以外の魚はほとんど好まれない状態になっています。
また、漁業人口は減少しているのに、漁獲高は横ばいを続けるという奇妙な現象もあるそうです。その背景には、漁船の高出力化、魚群探知機等、機材の発達といった漁業の効率化もあるそうです。しかし、高出力化は船の燃費を低下させ、経費の増大に繋がり、発達した最新の機材は先行投資という負担を強いる結果になり、漁業現場の将来を危惧する声も聞かされていました。もう少し不人気魚種にも注目してやらなければと思っています。
魚と言う字は、その姿から成り立ったと言われますが、「うお」「ぎょ」「さかな」と三種類の読み方があります。もともとさかなという言葉は「酒菜」と書き、文字通りお酒のつまみを意味していました。そのため、室町時代までは、酒菜というと塩、スモモ、味噌などを指していました。江戸時代に入ると、食材の流通も整えられ、酒のつまみに魚が食される事が増えてきました。その頃から、酒菜といえば魚肉を指すようになり、魚肉の事をさかなと呼ぶようになりました。
魚類全般は、当初「いを」と呼ばれていましたが、やがて「うを」となり、「うお」と言うようになりました。しかし、うおでは、発音的に不安定な母音の連続となる事から、さかなと呼ばれるようになったと考えられます。最近、イワシの漁獲低下が心配されていますが、海洋学者によると自然界では個体数の上下は珍しい事ではなく、イワシが減少すると代わりにアジが増えるそうです。イワシを利用する流れはできていますが、アジを産業的に利用土壌がない事が、安価な魚資源の供給という点で問題となっているそうです。特定魚種に偏重せず、幅広く付き合っていきたいものです。
第289回 使い酒
2005年05月16日
使い酒・・・料理に使われる酒の事です。料理に使われる酒は、含まれるアミノ酸や有機酸が旨味を出す事に重要な意味を持つため、醸造酒である事が多く、よほどの事がない限り蒸留酒が使われる事はありません。和食の調味料から日本酒を外す事はできません。しかも少量ではなく、意外と多くの量を料理の中で用います。それだけ重要な位置を日本酒は占めていて、調理の際に使う量の多さから「酒を提供しているのでは」と、和食の店に税務署から問い合わせが入る事もあると言います。
最も多くの酒を使う料理は、鍋物ではないでしょうか。中でも「すっぽん鍋」は、大量の酒を使う鍋として知られ、「すっぽん仕立て」と銘打たれた料理は、同じように酒を大量に使う調理法となっています。酒の効果の一つとして臭みを消すという働きがあるので、すっぽんの臭みを消すには良い取り合わせとなっているのかもしれません。
他にも酒には、旨味や甘味を増幅したり、素材を柔らかくする働きがあります。浸透圧を調整して味の染み込みを良くし、しょうゆや味噌といった他の調味料のくせを和らげる。味をまろやかにしたり、香りに膨らみを持たせたりという多彩な働きを持っています。みりんの代用として酒を使う事はできますが、逆は辛いものがあり、酒の代用は他の調味料では務まりません。
以前、イタリア料理を美味しく作るコツとして、意外に感じるほど多めにワインを使うと聞かされた事があるのですが、同じように肉や魚を使った料理には、日本酒を多めに使うと美味しく仕上げる事ができます。調理時間が短いものや、素材に含まれるタンパク質が固くなるとl困るものでは、事前に加熱してアルコールを飛ばす「煮切る」という作業を必要としますが、鍋物などの調理時間が長いものでは、そのまま使う事ができます。銘柄にこだわるというのも一興ですが、必要なのは有機酸やアミノ酸なので、高価な銘柄であっても美味しさにはそれほど影響しなので、その分の予算は、素材に使った方が良いようです。
第288回 酸味
2005年05月13日
基本的な味覚の中で、酸味、苦味は微妙な位置付けを持っています。本能的に口にした物の安全性を、味や香りによって評価しますが、酸味は腐敗の可能性を持ち、苦味は毒物の可能性を持っていると判断されてしまいます。そのため、身体の抵抗力が充分に発達していない子供の場合、大人よりも過敏に反応し、酸っぱい物、苦い物が食べられない事があります。子供の頃、苦手だった食べ物が大人になると平気になるというのは、そうした毒物の察知機能が成長によって抵抗力が上がり、緩やかになる事も大きく関係しています。
そんな酸味の中心となる調味料、「食酢」は、最近調味料の粋を超え、健康効果の評価が高くなってきています。各種のアミノ酸を多く含む事から、ダイエット、疲労回復などに良い働きを持つと考えられ、生活習慣病の予防的な意味から日常的に飲用したり、数種の食酢を常備する家庭も増えてきています。
酢はだし汁や香辛料と合せる事によって、料理に使う塩分を減らす事ができ、原料によって左右されますが、カリウムも多く含んでいるので、ナトリウムの排出にも役に立ちます。食品の塩分が少ないと胃酸の分泌が弱まり、食欲が減退する事がありますが、酢はその際の胃酸の分泌を助けてくれるので、食欲を回復してくれます。夏場の食欲が無い時期を、酸味を利かせた料理で乗り切るのは、生活の知恵として行われてきました。
また、酸味はストレスとの関わりが大きい味覚でもあります。個人差はありますが、ストレスがかかると酸味の感じ方が弱くなってしまいます。体内に蓄積した疲労というストレスの回復には、アミノ酸が不可欠であり、酸味の感じ方を弱くする事で、より多くのアミノ酸を摂取しようとする身体機能の一環と考える事ができます。妊婦が酸っぱい物を欲しがるのも、妊娠によるストレスに対抗するために、安全な酸味である柑橘類を本能的に求めると考えると、納得がいくものがあります。ストレスが多い、疲れが抜けないという方は、毎日の食事に酢を取り入れましょう。
第287回 かいせき?
2005年05月12日
無国籍風創作懐石・・・実は大嫌いな言葉です。個人的な経験に基づく勝手な思い込みですが、安直に懐石料理を模して付加価値を付けただけで、正式な懐石料理に基づいて新たな工夫や食材を採用したものには出会った試しがありません。
「かいせき」と名の付く料理は、懐石と会席が考えられます。響きが同じあので、混同される事が多いのですが、両者には明確な違いがあります。懐石料理は茶会の際に振舞われる食事の事で、修行中の空腹を温めた石を懐に入れる事で紛らわすという事がありますが、それと同程度に空腹を紛らわす軽い食事という意味があります。お茶をいただく前の腹ごしらえという事で、正式な食事作法とされる本膳料理の膳組の形が取られます。膳の上の器は3点で、後に出される煮物椀や焼き物鉢は膳の外に置くというのが、正式なスタイルとなります。
それに対し会席料理は、江戸時代後期以降、宴会料理として本膳料理や懐石料理を元に発達してきました。用いる器や膳の組み方に決まりは無く、料理店ごとにさまざまな趣向が凝らされます。懐石との最大の違いは、懐石が空腹を紛らわすためにご飯が中心となる事に対し、会席は場を盛り上げるお酒が主体となります。最初の膳に先付けや突出しといった肴が添えられ、お箸の上に酒盃が置かれる事から、料理に手を付ける前にお酒をいただく事になります。
会席料理では、献立は5、7、9品で、お酒に合う料理が中心となり、最後にご飯と味噌汁、香の物が出され、それらは品数のうちには入れられません。このように同じ響きの「かいせき」料理でも、スタイルや目的、料理の構成への考え方が大きく異なります。特に懐石は茶会の作法も関係する事から、厳密に決まり事が定められます。創作だからといって、そうした決まり事をないがしろにしてはいけないのでは、そう考えてしまいます。
第286回 ポンって?
2005年05月11日
橙(だいだい)や酢橘(すだち)の絞り汁に日本酒、みりん、醤油やだしを加えた物。鍋物の季節に限らず、年間を通して活躍する調味料・・・「ポン酢醤油」は、広く普及したサッパリ系の基礎調味料ではないでしょうか。そんなポン酢醤油は、昭和30年以前はほとんど知られる事がなく、料亭で出される程度の普及でしかありませんでした。
そんなポン酢醤油が広く普及したきっかけは、某大手食酢メーカーの社長が接待で出された「博多水炊き」に添えられた調味料に感銘を受けた事によります。しかし、発売当初は食酢メーカーの本社がある関東では、鍋といえば既に味付けがされたものが主流で、ポン酢醤油は必要とされませんでした。市場へ屋台を引き、水炊きを振舞って普及に努める日々が続いたそうです。
その後、さまざまな料理への応用が提案され、今日の普及に繋がるのですが、このポン酢醤油、ポン酢に醤油を加えた物という事は、容易に想像つくのですが、謎の言葉、「ポン」とは何を指しているのでしょうか?実は、ポン自体が単体で意味があるのではなく、ポン酢として一体となって語源に繋がります。オランダ語で、柑橘類の果汁を意味する言葉に「Pons(ポンス)」という単語があります。そのポンスが語源となり、ポン・ス=酢とかけてポン酢になったと言われています。
もともとポンスは、ヒンドゥー語で5つを意味する「Panc」に由来しています。ブランデーやラム酒に、さまざまな材料を混ぜ合わせて振舞われる飲み物のベースに、柑橘類の果汁が使われていた事から、ポンスは柑橘類の果汁を指すようになり、ポン酢へと繋がります。インドからヨーロッパへ、そして日本へと移りながら姿を変化させたポン酢、実は冷蔵庫で忘れ去られる食品の上位ランクに入っています。用途が広い調味料だけに、開封後はお早めにとお薦めしたくなってしまいます。
第285回 検証、食べ合わせ
2005年05月10日
フライパンに油を引き、よく熱してベーコンを炒めます。ベーコンから油が出るので、最初の油は少なめにするか、脂身の加減では必要ない場合もあります。手早くベーコンをカリカリに炒めたら、ホウレン草を加え、炒めて塩、コショウで味を整えたらできあがり。手早くできて、栄養価が高く、トーストやスクランブルエッグと合せると、見栄えのよい朝食に仕上がります。ところが、このベーコンとホウレン草の取り合わせ、あまり良いコンビではないと言われてしまうのを、ご存知でしたか?
ホウレン草のアクには硝酸が含まれています。またベーコンにも、食品添加物として亜硝酸ナトリウムが含まれています。硝酸は体内で亜硝酸へと変化し、亜硝酸とベーコンにも多く含まれるタンパク質が反応すると、発ガン性がある物質に変化してしまいます。また亜硝酸は体内で窒素と結合すると、赤血球に害を与える亜硝酸性窒素に変わり、血液中のヘモグロビンと結合して呼吸困難を引き起こすメトヘモグロビン血症に繋がる事があります。
さらにベーコンにはリン酸塩を含まれており、リンを多量に摂取する事は、鉄分の吸収やカルシウム減少を引き起こしてしまいます。ホウレン草は鉄分が多く、鉄分の摂取を目的として選ばれる事もあるので、その利点を台無しにしてしまう可能性があるという訳です。
そうした理由から、ベーコンとホウレン草の食べ合わせが良くないとされてしまうのですが、程度問題という部分が大きく存在しています。ホウレン草の硝酸は、軽く下茹でしてしまうと問題ない状態になり、亜硝酸の変化に関しても、一緒にビタミンCを摂る事で、危険性を大きく下げる事ができます。リンの摂取に関しても、一定量は体内に必要であり、ベーコンから弊害が出る量を摂ってしまうというのは、考えにくい事です。逆にホウレン草に含まれるビタミンAやβカロチン、ルテインなどの脂溶性成分は、油で炒める事によって吸収が良くなります。ベーコンの気になる脂分も、ホウレン草の食物繊維が排出しやすい状態を作り出してくれます。そう考えると、この取り合わせ、決して悪くはないと思います。一緒にサラダやオレンジジュースを摂る事をお薦めして、この取り合わせは○という結論にしたいと思います。
第284回 麹
2005年05月09日
最近人気の発酵菌といえば、黒麹ではないでしょうか。黒酢や芋焼酎のブームで使われ、さまざまな発酵食品への応用も試みられています。そんな黒麹の陰に隠れて、目立たない存在となっていたものに紅麹があります。紅麹は、文字通り鮮やかな紅色を発色する麹菌です。実はこの紅麹、醸造関連では目立たなくても、機能性素材としては大きな注目を集めてきています。
紅麹は、中国で血液の循環を促したり、胃腸の働き活発にする生薬として扱われ、薬用としての効果が認められてきました。発酵食品や醸造にも用いられ、伝統食の素材としても根付いています。日本でも沖縄に「豆腐よう」という、豆腐を発酵させた紅色の食品があります。若干のアルコールを産出する事から、独特の風味を持ち紅酒、老酒の原料として使用されるのが、最も一般的な利用例かもしれません。
紅麹で最も注目されている成分は、「モナコリンK」と呼ばれるもので、体内でコレステロールが合成される事を抑制する働きがあります。モナコリンKの働きは、単にコレステロール値を下げるだけではなく、悪玉視されているLDLコレステロールのみを減らし、善玉と呼ばれるHDLコレステロールには影響を与えないという、優れた特徴を持っています。
米国では医薬品や健康食品を管理するFDAと食品メーカーとの訴訟の結果、FDAの勝訴によって紅麹は、コレステロール値を改善する医薬品として認定されています。また、GABA(γ−アミノ酪酸)を含んでいる事から、血圧を低下させる働きや腎機能、肝機能を活性化させ、肥満を緩和させる働きも期待でき、生活習慣病の方にはお薦めの素材と考える事ができます。それだけ幅広い効能を持ちながら、食品としての安全性を供えている事は、健康素材として非常に優れた点ではないでしょうか。今後、さらに研究が進められる事を期待したいと思っています。
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