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第520回 嫌煙権利
2006年04月28日
レストランで食事をしていると、隣の席に座っていた既に食事を終えた3人組に店の人が飲み物の追加がないか聞きにきました。メンバーが一人足りない事に気付いたのか、何気なく「もう一方はどうされました?」と店の人が聞くと、「あの人は外へ行きました。タバコを吸いたくて我慢できなくなったみたいですから」という答えが返ってきて、その場が軽い笑いに包まれていました。
カリフォルニア州では、早くから公の場所での喫煙が禁止されています。そのため、レストラン内での喫煙が行えないので、食後の一服が外へ行ってという事になってしまっていました。当時、そんな州法の存在がかなり先進的な事のように思えていたのですが、カリフォルニア州のカラバサス市で新たに制定された条例では、更に規定が厳しくなり、屋外でも原則的に喫煙を禁止する事となっています。
カリフォルニア州の南部に位置するカラバサス市では、歩道や公園など、公共の場所では屋外であっても喫煙を原則的に禁止する市条例を施行する事となりましたが、CNNテレビではこの新たな条例を、全米で最も厳しい禁煙条例とし、喫煙の自由も認めるべきだとの意見もあるとしています。しかし、カラバサス市のグローブマン市長は、「きれいな空気を呼吸する権利はあるが、喫煙の権利はない」と厳しい姿勢を表明しています。
市側の発表によると、条例に違反した場合、最高で500ドル(約5万8000円)の罰金が科されるとしています。カリフォルニア州の州法によって、公共の屋内施設では既に禁煙となっているので、カラバサス市の愛煙家は、自宅などの私的な場所、喫煙が許された場所であるホテルやショッピングモールの喫煙エリアなど、条例の例外規定の範囲内とされる場所以外での喫煙ができなくなっています。カリフォルニア州では嫌煙運動が盛んで、サンタモニカ市でも海岸での喫煙を禁止するなど、屋外でも喫煙を規制する動きが広まってきています。今回のカラバサス市の条例は、そうした動きの中でも先進的な立場をとったものと考えられ、健康のためには、禁煙は好ましい事ではありますが、少々気の毒な感じがする厳しい条例ではあります。
第519回 液晶眼鏡
2006年04月27日
最近、急速に技術が進歩し、日常生活に溶け込んできた物と言えば液晶ではないでしょうか。単純な表示物から、高輝度のバックライトを備えた物まで。テレビ画面もブラウン管から液晶へと変わってきています。そんな液晶に関して新たな応用技術が開発され、今後の展開が期待されています。眼鏡のレンズとして使う事で、遠近両用レンズとして有効利用が可能というのです。
現在、遠視や近眼用の眼鏡として、部分ごとに集光力が異なる二焦点や三焦点の眼鏡が利用されていますが、今回、新たに開発された液晶レンズは液晶の性質を利用し、光路の変化に応じて自動的に焦点が変化させる事ができるという事です。本原理は液晶テレビなどと同じで、液晶分子に電流を流すことによって液晶に変化を加えるものですが、これをレンズの異なる領域で行い、電圧によってレンズの集光力に変化を持たせて焦点の切り替えを行います。
レンズの構造としては、同心円状に並ぶ小さな透明の電極によって液晶層の屈折力を調節するというもので、液晶の特徴でもある低い電圧で作動し、1秒にも満たない短い時間で焦点を切り替えることができるとされています。安全策も考慮されており、不意の電池切れなどで電力が切れても、レンズは集光力をもたない形態に戻るだけなので、運転中などに使用していて、途中で急に電池が切れたり、何らかの障害によって回路が停止しても安全だという事です。
今回のレンズ開発は、アリゾナ大学光科学助教授のリー博士が中心となり、バージニア州のピクセルオプティクス社との産学協同研究によって行われましたが、製品化については3年ほどの時間で可能になると考えられています。今のところピクセルオプティクス社からは、このレンズの開発および販売についてのコメントは得られていないそうですが、発売されれば境目もなく、遠近の焦点変更に不具合を生じない便利な眼鏡の登場となります。早い製品化を期待したいものです。
第518回 臨死体験?
2006年04月26日
現在の科学が万能で、すべてその中の知識で説明が付けられるとは当然思っていませんし、逆に非科学的な出来事に対して大いに興味があります。しかし、そんな不思議な出来事を経験した事はまったくなく、むしろそうした事には鈍感な方だと思っています。それだけに、そうした記事は思わず読んでしまうのですが、中には事象自体の存在が信用しがたいものである事が含まれている事も否定できない事ではあります。
これまで多くの例が報告されていますが、臨死体験は体験者の属する環境、特に宗教観の影響が色濃く反映される事から、身体機能の一部または複数が関連した生理現象の誤解が含まれているように思えます。そんな考えを肯定してくれるかのような研究結果が、先日医学誌の「ニューロジー」において発表されていました。
米ケンタッキー大学のネルソン博士を中心とした研究で、臨死体験を持つ人は、睡眠と覚醒の調節機構が通常とは異なる場合が多いことが明らかにされています。まず、ネルソン博士は臨死体験の定義を、命を脅かすような心臓発作、交通事故などの出来事の際に、肉体から離脱した感じ、異常な覚醒感、強い光を見る、強力な幸福感を感じたなどの体験を一つ、もしくは複数の感覚を覚える事とし、臨死体験を持つ55例と、同じ年齢、性別で臨死体験をした事のない55例とを比較しました。その結果、臨死体験を持つ人は、睡眠と覚醒状態との境界が明確に制御されておらず、正常な覚醒意識の途中に就寝中、眼球が急速に運動するレム睡眠の状態が割り込みやすいという傾向を見出しています。このレム睡眠が割り込み状態になると、目が覚めているのに体が動かない、急に脚の筋肉が脱力する、眠る直前や目覚めた直後に他の人には聞こえない音が聞こえるなどの症状がみられると言われます。
ネルソン博士の研究では、臨死体験者の約60%がレム睡眠状態の割り込みがあると報告しているのに対し、臨死体験のない人では24%程度に留まっているとされます。この結果を受けてネルソン博士は、レム状態の割り込みが臨死体験の一端を担っていることを示唆するものとし、臨死体験をする人の覚醒系には、レム割り込みが起こりやすい傾向があると思われると述べています。金縛り、幽体離脱、幻聴などの説明にも繋がり、興味深いものではありますが、味気ない感じがするのは私だけでしょうか。
第517回 賛否両論破砕術
2006年04月25日
体外衝撃波結石破砕術・・・文字通り身体の外からの衝撃波によって、体内にできた結石を破砕する治療法です。身体を傷付ける必要がない事や、手軽に行える事などから、多くの結石患者は外科手術よりも、この体外衝撃波結石破砕術を選ぶと言われます。複数の衝撃波を、ちょうど患部で交差するようにして、患部のみで衝撃波の効力が最大限に発揮されるようにしているので、関係ない臓器や衝撃波の通り道となる組織が傷付けられる事はありません。
この体外衝撃波結石破砕術をめぐって、興味深い論争が展開されています。事の起こりは医学誌「ジャーナル オブ ユーロロジー」の4月号に掲載された論文で、体外衝撃波結石破砕術を受けた患者は、他の治療を受けた患者に比べ、その後数十年間での糖尿病発症率が約4倍、高血圧リスクが約50%高いという報告を行っています。
米国立衛生研究所の予測では、70歳までに男性の10%、女性の5%が腎結石を発症すると考えられており、米国でこれまでに約100万人が体外衝撃波結石破砕術による治療を受けているとされています。今回の研究は、1985年に衝撃波治療を受けた患者630人にアンケートを送付して、投薬などをはじめとする他の治療方法で腎結石を治療した患者とのその後の生活に関する状況を比較しています。それによると、結石破砕術を受けた患者のうち回答を得られた中の約60%に、糖尿病および高血圧の発症率増大が認められたと言います。
米国泌尿器科協会の会長、モスカ博士は、今回の研究は過去の結果のみを調査しただけの研究であり、このような研究は往々にして疑わしいと否定的な姿勢を表明し、体外衝撃波結石破砕術は1985年当時からは大きく変わっているため、現在この治療を受ける患者にこの結果はあてはめられないとしています。また、今回は自己申告のアンケートを利用しているが、実際に対面で質問したり、検診を行ったりすれば異なる結果が得られるはずだとも指摘しています。結石破砕治療がインスリンを産生する膵臓に通常の状態であれば影響することはない点も、今回の研究結果が疑わしい理由として挙げ、現時点では結石破砕術の利用を止めるつもりはないと付け加えています。それに対し、今回の研究の著者であるクランベック博士も、この結果が決定的なものではないと認めており、この報告後も博士が勤務するメイヨークリニックでの体外衝撃波結石破砕術利用に変化はなく、出力の最も高いHM3型結石破砕装置が現在も用いられていると述べ、ほとんどの患者は、長期的なリスクの可能性を知らされた上でも、外科手術などの治療よりも衝撃波治療を選ぶとしています。互いに一理ある感じですが、患者の利益に関わる事なので、一刻も早い結論がほしいと思ってしまいました。
第516回 カフェインの新効能
2006年04月24日
カフェインはコーヒー、紅茶、日本茶、ココア、チョコレートなど、苦味を感じる事のある食品に広く含まれ、日常的に接する成分でもあります。よく知られた効能としては、眠気や疲労感を軽減し、気分がすっきりし快活になる、集中力を向上させて仕事などの能率が上げるというものがあり、また、多量のカフェインを恒常的に摂取すると副腎への刺激が高まり、ノルアドレナリンとアドレナリンを放出させて全身を興奮状態にし、基礎代謝を10%程度高めてしまう事や、腎臓を刺激して尿量を増加させるのでむくみがとれるなどとして、カフェインによるダイエットも提唱されていました。
カフェインは蓄積された脂肪に働きかけ分解を促進し、血中に脂肪酸として放出させる働きがある事から、脂肪燃焼を助ける働きがあるとも言われますが、運動しなければ脂肪酸は再び脂肪物質の中に戻ってしまうので、どちらかと言うとダイエッターよりもアスリート向けの成分という言い方もされます。しかし、体内の三大栄養素の一つである脂肪の燃焼に関わる事は、その他の別な効能へと繋がっている事が、新たな研究によって明らかにされてきました。
磯博康大阪大学教授を中心とした文部科学省研究班の大規模調査によると、1日に日本茶を6杯以上かコーヒーを3杯以上飲む人は、ほとんど飲まない人に比べ、生活習慣病として発症する事が多い2型糖尿病にかかるリスクが3、4割下がり、太った人で特に効果が大きい事が判ったとされています。この研究は、88年から90年にかけて、全国の40〜65歳の男女1万7413人に飲食習慣などに関する聞き取り調査という形で行われ、5年間の追跡調査の結果、日本茶を飲む量を「1週間に1杯以下」と答えた2030人では約3.2%にあたる64人が2型糖尿病を発症したが、「毎日6杯以上」と答えた3835人では約2.3%の88人に留まったそうです。年齢や飲酒量などを考慮して分析すると「1日6杯以上」は「週1杯以下」に比べ発症リスクが33%低かったと考えられ、歴然とした差が生じています。
コーヒーに関しても、同様の調査で「日に3杯以上」飲む事で、「1週間に1杯以下」と答えた人より発症リスクが42%も低かったという結果が得られ、共通の成分が発症リスクの低下に役立っている事が考えられます。銘柄や入れ方などによって程度の差が生じてしまいますが、一杯のコーヒーに含まれるカフェイン量を153ミリグラム、日本茶が含まれるカフェイン量を30ミリグラムと仮定してとして計算すると、1日に305ミリグラム以上のカフェインをとる人は、97ミリグラム未満に比べリスクが33%低く、特に体脂肪の比率が高い、BMI(体格指数)25以上の肥満者では51%もリスクが下がったという事になります。カフェインは刺激物でもありますので、効能を期待して無理に多量を摂取する必要はありませんが、嗜好品として上手に接すればより健康的に役立つ事が裏付けられた事になります。
第515回 牛乳余り
2006年04月21日
先日、1リットルのパックで100万本分、1000トンもの牛乳が廃棄処分にされたというニュースが報じられていました。高カロリーというイメージが強く、ダイエットブームに逆行する事や、最近のイソフラボンブームに乗って需要を伸ばし続ける豆乳、一段落した感じはありますが同じくブームが続くミネラルウオーターに押され、消費量が減り続けている事が直接の理由とされますが、毎日牛乳を飲むという人が17年ぶりに4割以下になっているという実情が根底にはあります。
牛乳は工業製品とは異なり、余剰が出たからといってすぐに生産を中止する事はできません。搾乳を行わなければ良いという問題ではなく、勝手な都合で搾乳を停止する事は乳房炎などの病気に繋がってしまいます。昨年の夏の猛暑で牧草の生育が良好だった事も生産過剰を助長し、飲料として余った牛乳を加工処理する工場がフル稼働しても追いつかない状況が続いてしまっていると言います。
牛乳は飲料として消費されなかった場合、脱脂粉乳やバターなどの乳製品に加工されます。現在、一日500トン以上の牛乳が全国の工場で加工されていますが、脱脂粉乳からの加工品のうち56%を占める加工乳が12年前の食中毒事件以降、消費が減少したままで、昨年は事件当時の70%程度しか消費されていません。バターも生産量の30%に当たるパンへの需要が13年から前年割れを続け、在庫が増え続けている状況が続いています。脱脂粉乳とバターを合わせた在庫は、一月現在で11万トンと適正とされる在庫数の2.5カ月分をはるかに上回る6カ月分に膨らんでいるそうです。
これから暖かくなるにつれて、乳量が増加する傾向がある事や、春休み、ゴールデンウィーク、夏休みなど、大口の消費が見込める学校給食が休みになる機会が増える事も、更に事態を悪化させる可能性があります。一頃のような牛乳信仰という状況は不必要かもしれませんが、できる事ならば食料は無駄にしたくないものです。新たな消費拡大を願っています。
第514回 寝る子は...。
2006年04月20日
健康の秘訣はと言われると、睡眠、栄養、運動がまず基本ではないでしょうか。中でも睡眠は、昨今の快眠グッズの売れ行きの伸びから見ても関心の高さを伺う事ができます。昔から「寝る子は育つ」と言われますが、実際、各種のホルモン代謝や身体の補修改善機能は就寝中に行われるものも多く、睡眠の質の高さは健康に直接影響している事も判ってきています。
必要な睡眠時間については、個人差がある程度存在する事が考えられますが、睡眠不足と判断される一日5時間以下の睡眠の場合、高血圧のリスクが高まるという弊害が出る事が新たに判明しました。米国で32〜59歳の4800人を対象に、約10年にわたる追跡調査の結果を元に研究が行われ、7〜8時間程度の睡眠を取る人の高血圧発症率が12%であったのに対し、5時間以下の人の場合では24%と2倍の率の発症であった事が確認されています。
コロンビア大学メールマン公衆衛生学部精神医学疫学研究員のギャングウィッシュ博士は、今回の結果に関する分析として、睡眠を取ることで心拍数が低下し、1日のかなりの時間、血圧を降下させることができるが、睡眠時間の短い人は血圧および心拍数の24時間平均が高くなってしまい、これが心血管系の負担を大きくする原因となるとしています。
充分な睡眠を摂る事の重要性を再確認するような研究結果ですが、この研究ではさらに、睡眠時間が5時間以下の人は運動量が少なくなる傾向があり、肥満度を示すBMIも付随的に高くなる傾向がある事も示唆しています。また、糖尿病やうつ病も多くみられ、日中の眠気を訴える事も多いという結果も得られています。眠っている間は、身体は休息状態で何もしていないように思われがちですが、翌朝リフレッシュされた状態に整えるためにかなりのエネルギーが費やされ、それによって身体、精神共に活動的になります。5時間以下に該当する身としては、これから充分気を付けたいと思います。
第513回 毒古今
2006年04月19日
花の形が錦や金襴などで鳳凰の頭をかたどった被り物である舞楽の襲装束、「鳥兜」に似ている事から、そのままトリカブトと呼ばれる植物があります。トリカブトという呼び名はキンポウゲ科の多年草で、トリカブト属の植物を総称する事もあれば、中国原産で園芸用に栽培されるハナトリカブトのみを指す場合があります。芽吹きの頃には特徴的な花もなく、姿が似通っている事から、山菜と間違えた中毒事故がよく起こります。トリカブトの根は漢方薬として用いられていますが、毒性が強いため「修治」という減毒加工を行って使っています。
トリカブトの根からは多くのジテルペンアルカロイドが分離されていますが、中でもアコニチンやメスアコニチンの毒性は極めて強く、2〜5mgもあれば人を死に至らしめる事ができるとされます。トリカブトの名前が使われるようになったのは江戸時代からの事で、それ以前は「烏頭(うづ)」「付子(ぶし、ぶす)」と呼ばれていました。中国から入ってきた言葉を、そのまま音読みしたもので、最初にできる根塊がカラスの頭部に似ていることから烏頭、その脇にできる若い根塊を、「付いた子」という意味から「付子」となったと言います。
トリカブトの毒性については、かなり大げさにですが古典「付子(ぶす)」の中で語られ、食すのはもちろん、臭いをかいでも死に至り、見ても付子が置かれている方から吹いてきた風に当っても死んでしまうとされています。実際のトリカブトにはそこまでの毒性はありませんが、その当時存在していた最強の毒素は、フグの毒として有名なテトロドトキシンでしょうか。テトロドトキシンはトリカブトのアコニチンの約30倍ほどの強さがあるとされます。
自然界に存在する毒素以外も含むとなると、最強とされるのはダイオキシンです。データによってさまざまな違いが存在しますが、概ね1gもあれば10000人を死に至らしめるとされ、かなり強力な毒素である事が伺えます。データによる致死量の差が生じるのは、ダイオキシンが青酸カリなどのように摂取後すぐに死に至らず、長い時間をかけて死に至るという特徴があるためです。また、ダイオキシンの怖ろしさは、致死量よりも遥かに少ない量で身体に弊害をもたらす慢性毒としての一面を持つ事で、発ガン性や催奇形性などが知られています。更にホルモンを撹乱する環境ホルモンとして、信じがたいほど微量で作用する事も知られ、まさにその風下にいる事も危険と言う事ができます。トリカブトを怖れていた頃の方が、遥かに幸せだったというところでしょうか。
第512回 鉢?音?
2006年04月18日
ご飯茶碗よりも深く大きめで、厚みがある陶製の食器、またはご飯の上におかずを乗せた料理というと、お馴染みの「丼(どんぶり)」の事です。丼物は比較的手軽にとれる食事として、その器となる丼は多めに盛り付けた食事を食べやすくしてくれます。主食であるご飯とおかずを一度にとれる便利さに加え、さまざまな応用が利く事からバリエーションは増え続け、和洋中を問わず多くの丼物が存在しています。
そんな丼の語源は、江戸時代に器に一杯の盛り切り料理を出す店があり、「慳貪屋(けんどんや)」と呼ばれていました。そこで使われていた食器の「鉢」が慳貪を振舞う鉢という事で、「慳貪振り鉢(けんどんぶりばち)」と呼ばれ、それが略されて「どんぶり鉢」になったとされています。慳貪には、「けちで欲深い」という意味があるそうですが、慳貪屋で出される物はけちな物という意味を込めたのか、「慳貪めし」や「慳貪そば」という呼ばれ方をしていました。それを運ぶものは「慳貪箱」であり、関連する物にことごとくその名が付けられている事からも、あまり良い印象のものではなかった事が伺えます。
今日でも八丈島の方言で、丼鉢の事を「けんどん」と呼ぶ事があり、慳貪語源説を裏付けています。しかし、同時期に同じ言葉が別な物にも使われていた事が知られており、そこからは別な解釈をする事ができます。更紗(さらさ)や緞子(どんす)などで作った大きな袋は「どんぶり」と呼ばれ、職人の腹掛けの前に付いている大きめの物入れも同じく「どんぶり」と呼ばれます。両者の共通点は、大きめの無造作に物を放り込む袋という点です。
このどんぶりと呼ばれる大袋の存在は、慳貪語源説を怪しくし、どんぶりの語源は「慳貪振り鉢」の略ではなく、物を無造作に放り込むという事を、水に物を無造作に投げ込んだ際に発される音によって表した「どんぶり」によるもので、「どぼん」「どぶん」などと同じ、物が水中に落ちる擬音語が語源となった事を感じさせてくれます。漢字で書くどんぶり、「丼(たん)」は井戸を表す「井(せい)」の本字とされ、字面から井戸の中に物を投げ込んだ音を表す字として用いられています。大袋「どんぶり」と擬音語の漢字「丼」から考えると、擬音語言説が正しいように思えます。
第511回 新たな弊害発見
2006年04月17日
喫煙の弊害はさまざま言われていますが、中でも喫煙者のそばにいる事で結果的に喫煙による弊害を被る受動喫煙は、喫煙者よりも多くの害を広範囲にもたらすものとして知られてきています。喫煙はタバコの葉を燃焼させる事によって発生させた煙を、フィルターを介して吸引します。フィルターでろ過される事によって、多くの有害成分が除去されるのですが、受動喫煙はフィルターを介しない、タバコの先端部より立ち上る直接的な煙が含まれる事から、より有害と考えられています。
そんな受動喫煙に新たな弊害の可能性が示唆されていました。しかも、直接吸入に関係する肺や気管支とは無関係な糖尿病のリスクを増大させるというのです。米アラバマ大学医学部のヒューストン博士を中心とした研究チームによると、米国人の男女4500人を対象に15年の追跡研究を行った結果、喫煙者は糖尿病の前兆とされる耐糖能低下の発症リスクが最も高く22%と分析されましたが、喫煙経験はないが受動喫煙に曝されている人の場合、17%に耐糖能低下が認められ、喫煙していたがやめた人の14%よりも多かったとされます。全く喫煙しない人では12%なので、約1.5倍ほども糖尿病を発症するリスクが高いと考える事ができます。
受動喫煙に関する認定については、自己申告とニコチンが体内で分解された際に発生する代謝物「コチニン」の血中濃度との二通りの方法で評価を行い、今回の研究を観察研究として厳密な対照群を設定してはいませんが、年齢や体重など耐糖能低下に関係する因子についてはできる限り考慮しています。喫煙者の場合、喫煙数と耐糖能低下の発症率に直接的な関連性がみられ、1日の喫煙本数×喫煙年数によって算定される喫煙指数が、200増加するごとに耐糖能低下の発症リスクが18%増大したという結論も得られています。
受動喫煙で問題とされる煙は、吸引による燃焼温度の上昇がないため、これまでに喫煙の弊害理由として研究されてきた煙とは、発生に関する条件が異なっている事が考えられます。構造的に吸引していない時は、充分な酸素も供給されていない状態でもあるので、化学的条件は大きく異なる事から、これまで意識されてこなかった成分が、糖に対する機能を掌る膵臓を攻撃している事も考えられます。これからの研究が待たれますが、受動的に煙を吸わされる事は、これまでにしてほしいものです。
第510回 眠りませんか?
2006年04月14日
冬眠・・・冬は大好きな季節で、楽しみたいと思いながら慢性的な寝不足の身としては、少々憧れてしまう響きの言葉です。一年の4分の1を、ただひたすら眠っていられれば、どれだけ爽やかな目覚めが訪れるのだろうと考えてしまいますが、実際の冬眠は私達が日常行っている睡眠とは、大きく異なるメカニズムによって維持されています。
冬眠中の哺乳類は、体温が大きく低下し、数度にまで下がっています。この状態で細菌や発ガン物質から守られ、脳や心臓のように通常では大量の酸素やエネルギーを消費する器官も酸素やエネルギー源をほとんど消費せずに眠っています。冬眠する動物は冬眠しない近縁種の動物に比べて、数倍も長生きすることも判っており、冬眠中の動物には、非常に強力な体を守る仕組みが機能している事が考えられます。
三菱化学生命科学研究所の研究チームによる研究の結果、冬眠に連動して変動する新たな因子がシマリスを用いた研究の過程で発見され、冬眠特異的タンパク質を略した HPと名付けました。HPは脳によって調整されている冬眠リズムによってその量が制御され、血液中から脳内に移行することによってホルモンとして働き、冬眠を司っているとされます。HPの血液中の濃度を測定すると冬眠に入る直前から濃度が低下し、冬眠している間はずっと低い濃度のまま保たれ、冬眠が冷める直前から濃度が上昇する事が判っています。脳の中のHP濃度を測定したところ血液中とはちょうど逆で、冬眠に入る直前から脳の中のHPが増加し、冬眠終了前に急速に濃度が低下しています。脳にHPが作用することによって冬眠の開始、終了が決定されているようです。また、HPが脳の中に大量にあるときには、体温が数度に低下するという本来ならば危険な状態でもシマリスは死ななかったと言います。
今回の研究を受けて、冬眠のメカニズムは、脳で1年間の寒暖のリズムが生み出され、その情報に基付いて肝臓でHPの生産を制御され、HPは脳内に取り込まれて脳に作用することによって、全身を冬眠に入る状態に変化させているのではないかと考えられます。冬眠中は免疫力は高まりますが、水分が補給されない事から血液が極端に少なくなって濃度も上がり、栄養が補給されない事から、非常に血液としては悪い状態になります。体内の各臓器にはダメージを与えかねない状態ではありますが、冬眠中の動物は健康に保たれています。今後、更に研究が進む事で、より良く臓器を健全に保つ工夫が発見できるのではと期待されていますが、これまでは冬眠が行われる年一回しか研究の機会が得られず、進めにくい研究分野とされてきました。今回のHPの発見は、年間を通して研究を行う事ができるので、それだけでも大きな成果という事ができます。憧れの冬眠ですが4ヶ月も眠っていたら社会復帰は難しそうで、冬眠休暇の法制度が整えられるまではやはり憧れのままなのかもしれません。
第509回 検証、沢庵
2006年04月13日
和食の片隅に小皿に盛られた二切れの沢庵漬けが添えられています。日常的な風景ではありますが、この二切れという沢庵漬けの数には、実は重要な意味が込められています。この二切れという数量が定着したのは江戸時代、武家が社会の中心となっていた頃の事。一切れでは、「ひときれ(人、切れ)」となり、三切れでは、「みきれ(身、切れ)」となって極めて縁起が悪いとされたため、無難な二切れとなったそうです。
干した大根を糠に漬け込んで作られる「沢庵漬け」は、日本中で広く食されている漬物で、たくわん、たくあんと呼ばれ親しまれています。本来の色は薄い褐色ですが、ウコンやクチナシなどの天然色素や黄色四号などの合成色素によって、鮮やかな黄色に着色された物の方がよく知られているようにも思われます。この沢庵漬け、その名前から想像できるように沢庵和尚が考案した物と思われていますが、それは誤りとされています。沢庵和尚が活躍した江戸初期よりもはるかに古い時代、平安時代にはすでに大根を干して糠に漬ける食べ物が存在していたからです。
この沢庵漬けの語源に関しては諸説があり、どれもそれなりに捨てがたいものがります。語呂から考えられる説としては、「貯え漬け(たくわえつけ)」から変化したという説があり、確かに漬物という食品の保存性の高さを考えると納得のいくものがあります。また、西日本では糠に塩を加えて漬け込んだものを、「純粋な」という意味から「じゃくあん」と呼ぶ事があり、じゃくあん→たくあんと変じたという説もあります。万一に備えた食料備蓄を考え、沢庵和尚が漬物を奨励したとする説や、沢庵和尚の墓石が漬物石に似ているためとする、あくまでも沢庵和尚に関連させる説も事も根強く存在しています。
平安時代に糠漬けが存在する事は、沢庵和尚の考案説を否定するものではありますが、糠が一般に普及したのは江戸時代の初期であったため、その普及に沢庵和尚が関与した事は可能性があり、沢庵和尚が全くの無関係とは言えない部分はあります。じゃくあん説も有力に思えますが、たくあんという呼び名は主に関東を中心としていた事から、「壷漬け」、「百本漬け」という言葉の方が西日本では普及していた事を考えると、決め手に欠ける感じがしてしまいます。沢庵和尚に関しては、興味深い昔話が残されており、それによると沢庵和尚が三代将軍家光の「何か美味しい物が食べたい」という問いかけに、「とても美味しい物をご馳走します」と言って招待します。家光はよろこんで沢庵和尚を訪ねますが、いつまで待っても食事らしきものが出てきません。あまりの空腹に苛立った家光に湯漬けと漬物がふるまわれ、家光はその美味しさにいたく感銘を受けます。沢庵和尚は「空腹こそが最上の調味料」と伝えたかったようですが、その際、家光は漬物について「これは貯え漬けあらず、以後、これを沢庵漬けと言うべし」と言って、その美味しさを称えたと言います。でき過ぎた話のような気はしますが、面白いので私はこれを本命視しています。
第508回 配置保護
2006年04月12日
丸薬や粉薬、生薬を中心に全国を渡り歩き、薬の販売を行う。そんな姿をたまに時代劇などで見かけてしまう「富山の薬売り」は、日本の伝統的移動販売ではないでしょうか。今日でもその伝統は受け継がれ、配置薬という形で多くの家庭や事業所に浸透しています。通院するほどでもないちょっとした症状の対処に、箱を開けていろいろと薬を物色する事は、多くの方が経験している事だと思います。
そんな配置薬も最近の景気の低迷を受け、コスト削減という意味合いからの顧客数減少や、遅くまで営業を行う量販店などの競合の登場、派手なコマーシャルや有名タレントを使った大手製薬メーカーの販売攻勢に押され、かつての勢いを失いつつあると言われます。中には配置した薬を入替える時間を使い、配置薬以外の商品を販売するなど、地域に密着した活動で売上を伸ばしている例もあるそうですが、順風満帆とは言いがたいのは確かなようです。
現在、審議が行われている薬事法の改正では、そうした配置薬業者をめぐり意見が分かれています。国会に提出された薬事法の改正案では、薬の販売業者に対し、副作用の知識などを問う試験制度の導入を盛り込まれています。副作用による事故が増えている事から、販売現場での適切な知識が求められるという趣旨からなのですが、この試験制度に関して、「既に従事している配置販売業者」は免除とされています。「長年続いている伝統産業を守るため」という厚生労働省側の業者保護の観点からだと言われ、この免除の存在が改正薬事法の雲行きを怪しいものとしています。
配置薬業者には、薬事法で定められた270成分の薬に限定して販売が認められていますが、試験制度はなく、ある意味誰でも販売を行う事ができます。厚生労働省では、風邪薬や解熱鎮痛薬などについて副作用報告があり、皮膚障害や肝障害などの被害が出ていたそうですが、「副作用は確かにゼロではないが、極めて限られている」としています。改正案では、一般的に販売が行われる薬を副作用の危険度に応じて3種類に分類し、最も危険度が高いAグループは薬剤師しか販売できず、残るグループは、薬の副作用や関連法令の知識などに関する都道府県実施の試験に合格することを求めています。従来業者の免除を認める事は、改正案を骨抜きにする可能性があり、消費者保護、業者保護という双方の観点から意見が分かれています。安全の確保こそが第一ですが、できれば伝統産業も守ってほしい気はします。
第507回 百薬の長への疑問
2006年04月11日
適度な飲酒は健康に良い影響を与えます・・・既に定説となっている事です。健康な高齢者の方に健康の秘訣を伺うと、高い比率で「晩酌」という回答が出される事や、最近知られるようになってきた血栓を溶かすというアルコールの効用、酒類に含まれる素材由来の成分や、発酵によって生じたさまざまな成分が有効に作用すると考えられる事、ストレスを緩和してくれる事など、酒は百薬の長という考え方には異論はないように思えます。
過去に行われてきた多くの研究もそうした飲酒の有用な一面を裏付け、特に心疾患に関しての効果は数々の研究によって確認されてきていました。しかし、最近になってそうした多くの研究に不備があったのではないかという疑問が出されていました。飲酒しない人の多くが、健康の衰えや虚弱体質、薬の服用、障害などの理由で禁酒をしている、飲酒を断念せざるをえない状態にあるのではなかったのかという、研究対象としての的確性に関する事が疑問視されています。
心疾患をはじめとするあらゆる原因の死亡と、日常的な飲酒との関係を調べた過去の54の研究を再度分析した結果、長期間飲酒をしていない人、飲酒の習慣がないと判断される人のみを非飲酒群としていたのは54研究中7例のみであったと見られ、その7例では、非飲酒群と適度な飲酒をする群との間に死亡リスクの差は認められなかったという結論が得られています。
適度な飲酒は血液の粘度を下げるなど、冠動脈を中心とした心疾患を予防すると広く信じられていますが、その事がアルコールに関する規定や医師の患者への指導に大きく影響していると考えられます。過去の研究結果に手落ちが存在する可能性が出てくると、飲酒の習慣がない人に健康のためと称して軽度の飲酒を薦める事は、何の根拠もない事となってしまいます。今回の研究では、これまでの研究で正しく実施されたものが少なすぎるため、軽度の飲酒が健康によいという考えを否定する結論にまでには至っていないとされますが、少なくとも飲めないのに飲酒を行う必要性がない事は明らかにされたような気がします。
第506回 番組注意
2006年04月10日
日常の生活の中で繰り返し行われている事、生活習慣が及ぼす健康への影響は、生活習慣病という言葉に象徴されるように無視できないものがあります。睡眠や摂取する栄養素、偏食による栄養の偏りや欠乏などは直接的に健康への影響が連想されますが、それ以外の事でも少なからず影響を与えています。先日、ニューヨーク市立大学のフォーゲル博士によって、明確な因果関係は不明とされていましたが、日頃見るテレビ番組と健康に関する影響が報告されていました。
今回のフォーゲル博士による研究は、ボルチモア在住の70〜79歳の女性を対象に、ニュース、メロドラマ、コメディ、クイズなど日頃見ている14種類のテレビ番組の中から好みのものを選択してもらい、記憶力、意思決定力などの認知的技能を評価するテストを中心に行われています。その結果として、メロドラマやトークショーをよく見る高齢女性は、認知障害を生じやすいことが示唆されていました。
主な結果としてはトークショーをよく見る女性には、トークショーを好まない女性よりも長期的な記憶障害が7.3倍多くみられ、メロドラマをよく見る女性には、そうではない女性に比べ注意力障害が13.5倍多くみられたそうです。テレビ番組が認知能力を改善することを示す証拠は認められなかったそうなので、今回明らかにされてはいませんが、何らかの関連性がある事は確実視されています。
テレビにはストレスが緩和されるという利点も挙げられてはいますが、今回の研究が示している事は、高齢者が一方的に情報が提供されるだけの番組を通し、情報に対し受動的になってしまうという頭を使わないようなテレビの見方をする事は、認知力の低下に繋がる可能性がある事です。最近、テレビゲームなどによって脳が部分的に不活性な状態になる「ゲーム脳」が話題となっていましたが、同様の状態が起こっている事は充分に考えられます。トークショーというと、昼の定番として健康情報を取り上げたものが好まれていますが、できればより健康的に接していきたいものです。
第505回 春緑
2006年04月07日
年中お菓子好きに変わりはないのですが、春は和菓子に目が行ってしまいます。特に生和菓子、大福や餅菓子の類に強く惹かれてしまう傾向があるのですが、春らしい色彩には季節の雰囲気も手伝って、見ているだけで気持ちが明るくなってきてしまいます。春を象徴するという事で桜やヨモギを使って、色合いと風味を活かした物も良いのですが、若草をイメージさせる明るい黄緑も春らしさが感じさせてくれる色ではないでしょうか。
そんな春の黄緑を演出するには、抹茶を粉末にした物がよく使われていますが、つやのある鮮やかな色合いの枝豆を潰して餡にした物も、春らしい黄緑の演出にはぴったりかもしれません。枝豆を潰し、味を整えて餅に絡めた「ずんだ餅」は、春らしい黄緑と穀物の風味を活かしたおやつと言えます。そんな「ずんだ餅」、東北地方が発祥の地なのですが、名前の由来に関しては諸説があり、それぞれがそれなりの根拠を持っています。
時代的には伊達政宗公の頃まで遡るらしいのですが、正宗公に実りはじめていた大豆(枝豆)を潰して味を付け、餅にかけて献上した人物「甚太」の名を取って「じんた餅」、後に訛って「ずんだ餅」となったという説があります。一見安直に見えますが、地域によっては「じんだ餅」と呼ぶ事があるので、それなりに説得力を感じてしまいます。正宗公というと、合戦の際、陣地で茹でた枝豆を陣太刀でたたいて潰したというエピソードから、「陣太刀餅」、後に「じんだち餅」、「じんだ餅」「ずんだ餅」と変化したという説もあります。私的には、陣太刀の鞘の端には錆びやすい鉄製の金具が付けられている事から、茹でた大豆をたたく事に使う事は考えにくく、根拠としては弱い感じがします。
また糠味噌や味噌で魚を漬けた物を「糂汰(じんだ)」と呼び、それに見立てたという説もありますが、この説は最も少数派らしく、ほとんど紹介されませんが、青大豆の和え物をそう呼ぶ事から、完全に的外れとは思えないものがあります。最も有力な説としては、豆をたたいて潰す事から、「豆打(ずだ)」が元になったというものがあります。すり鉢を使って餡の状態にしますが、最初はたたいて豆を潰す事からそう呼ばれ、後に訛って「ずんだ」となったという訳です。名前の由来にありがちな昔話としては、「甚太」説を支持したいのですが、主流は「豆打」説となっています。民間に伝承されてきた素朴な食べ物なので、由来ははっきりしない方がそれらしくて良いのかもしれません。
第504回 最古の治療跡
2006年04月06日
生物には何らかの疾患を自ら回復する「自己治癒力」が備わっています。その自己治癒力が及ばないものとして、「虫歯」は意外と身近な疾患ではないでしょうか。歯科は内科や外科とは雰囲気が若干異なる事もあり、虫歯自体が疾患として捉えられない傾向がありますが、虫歯菌(ミュータンス菌)によるれっきとした感染症です。
最近、治療法の進歩から数種類の抗菌剤を使った「削らない」治療法が普及されつつありますが、やはり治療の主流はドリルを用いて患部を削り取るというものが行われています。虫歯は、カルシウムを含む象牙質の基質が溶けてなくなっているため、冷たい飲み物などが歯髄を刺激し、歯に沁みるという症状や、さらに進行すれば象牙質に穴が開き、歯髄への細菌感染による歯髄炎を引き起こす事があります。歯髄炎はひどい痛みを伴うため、虫歯が怖れられる原因ともなっています。
歯髄炎の経験や、虫歯の治療の際、ドリルによって歯髄の神経を刺激された人にとって、歯科で使われるドリルの音は条件反射的恐怖を感じる対象となっているのではないでしょうか。そんなドリルによる治療跡が、9000年も前に行われていた事を示す人骨がパキスタンの遺跡から発見されました。これまで歯科ドリルの痕跡と思われるものは、5000年前のものが最古とされていましたので、今回の発見によって歯科の歴史は一気に4000年も遡った事になります。
今回の発見は、米カンザス州のカンザス大学とフランスのポワティエ大学の人類学共同研究チームによるもので、パキスタン西部のバルチスタン州の墓地で、9000年前にまで遡る人骨から精巧な歯科ドリルの痕跡がある歯を見つけたというものです。9体の人骨から11本の歯科ドリルの痕跡がある歯が発見され、歯科ドリルが虫歯治療のために使われたと推定されています。火打ち石でできた固く鋭利な刃先が使われ、小さな弓を使う事によって刃先に回転を与え、患部を削り取る穴を開けたと考えられ、その技術力は非常に高度なもので、現代の歯科医を凌ぐほどとまで見られています。装飾や呪術的な意味合いも考えられましたが、見えにくい位置の施療が行われている事や、一部の歯の治療跡に虫歯の痕跡が見られる事から、治療が目的であった事が確実視されています。古代の人々もドリルの音には恐怖を感じたのでしょうか...?
第503回 懸念的中
2006年04月05日
動物性タンパクとあまり縁がないため、ベジタリアンと思われがちですが、それほど強力に意識している訳ではありません。ベジタリアンとされる人達の中には、かなり厳格な人もいて、わずかでも動物由来の成分が含まれていると全く受け付けないという事で、食品選びが大変と思ってしまいます。そんな徹底したベジタリアンの方や、中性脂肪、コレステロールが気になる方、ダイエット中の方のために「Quorn(クォーン)」は販売されています。
非動物性のタンパクというと大豆がすぐに思い浮かびますが、クォーンはキノコの近縁から作られるマイコプロテインと呼ばれるタンパク質で、脂肪分が少なく、食物繊維が豊富。食感や味は近いものがありますが、本物の肉よりはるかにヘルシーとされます。また、クォーン1gを作るには、肉1gを作るエネルギーのわずか5分の1ほどしか必要としない事や、工場でクォーンを製造する方が大農場で大豆を育てるより環境に優しいという点からも、未来型の食材という捉え方をする事もできます。
マイコプロテインを作る菌糸体は1960年代、栄養学者によって人類が世界的なタンパク質不足に直面しかかっていると考えられていた時代に発見されました。後にタンパク質不足は間違いと判ったのですが、その間にタンパク質に関する研究は、大きく前進しています。マイコプロテイン生成菌が持つ特性は栄養学者たちの興味を大いにかきたてましたが、大量生産する方法を見つけるにはしばらくの時間を要し、クォーンのメーカーであるマーロウフーズ社によって発酵させる事が最良の方法である事が突き止められています。
FDAはマイコプロテイン生成菌を充分食用に適するものとみなし、クォーンを「おおむね安全と認められる」食品に分類して認可を与えていますが、一部の科学者たちの間では、マイコプロテインは充分なテストを経ておらず、一般に広まればアレルギー反応を示す人が続出するかもしれないとの懸念が抱かれています。また、マーロウフーズ社ではマイコプロテイン生成菌をキノコの近縁としていますが、菌ではあるがキノコではなく、どちらかといえばカビに近いとして、表示自体が不当なものとした批判も出され、最低限クォーンが何なのかを消費者に知らせるべきとする主張も出されていました。そんな中で広げられたクォーンの販売は、消費者からのクレームによって岐路を迎えています。懸念されていたアレルギー反応が確認され、中には死に繋がる可能性もある重度のアレルギー症状であるアナフラキシーショックも発生しています。消費者団体からは、市場からの回収も求められ、新たなタンパク源への懸念も広がってきています。環境保護の観点からその物が得られるまでに要するエネルギーや、二酸化炭素の排出量など、さまざまな観点からの評価が必要となりますが、優れた製品であっただけに、充分な安全性の確認や情報開示が行われていなかった事、そして今回のアレルギー発生は残念な事でもあります。もっとも「カビから作られた代用肉」では食べる気がしませんが...。
第502回 詐欺?
2006年04月04日
アダルトサイトの利用料金と称して、未払い金の請求と振込み先、支払期日が記入されたメールが突然届き、期日中に振込みを行わないと法的措置の実施が明記されている・・・いわゆる「振り込め詐欺」の典型的な手口です。最近では広く知られてきた事や、相談窓口の設置などで被害の発生は減少してきているのではないでしょうか。一部には手口が巧妙化し、小額訴訟制度を悪用して無視できないものまで登場したようですが、多くの場合は無視していれば事は収まってしまいます。
突然似たような内容ではありますが、学術的な根拠を匂わせた記載や、正式な手続きである事を示す弁護士のサイン、数百万円の請求書が送付されてきたとしたら...。今、各地の農家に対しそうした「恐喝状」とあだ名される書状が送付されています。送り主は某超大手バイオ企業。所有する特許権への侵害の排除に関する措置として送られてくるのですが、ほとんどの農家は身に憶えのない事だといいます。
変異性の高い菜種などの作物の場合、農家の中には独自に交配を行って、自分の土地により良く適合し、収量を少しでも多くして品質も向上させるような工夫を行っている物があります。そうした交配は指摘される特許権の侵害とは関係なく、問題とされるのはバイオ企業が開発した遺伝子組換え作物を無断で栽培している事に関してです。当然身に憶えがなく、それ以上に苦労して交配した自慢の品種にケチを付けられた形になり、農家としても正式な調査で身の潔白を証明したいと考え、分析が行われます。その結果、バイオ企業の主張通り作物から特有の組換え遺伝子が発見されてしまいます...。
自らの品種に自信を持ち、それ以外の作物を栽培した事さえない農家ですが、それだけでは充分ではありません。風や虫によって遺伝子組換えを行われた作物の花粉が運ばれ、知らず知らずのうちに交配が行われていたのです。農家の側でも突然、大切に育ててきた作物を組換え遺伝子によって汚染されたとして、対抗措置は取っていますが、大企業相手の為、訴訟の旗色はあまり芳しいものではないと言われます。日本では遺伝子組換え作物の商業栽培は行われていませんが、やがて栽培が行われるようになると、こうした「恐喝状」の送付が横行する可能性も充分に考えられます。訴訟は一審で農家側の敗訴が告げられ、今後が注目されています。食の安全、それ以上に生態系全体の安全を揺るがす可能性を秘めた事でもありますので、今後も無視できない問題ではないでしょうか。
第501回 調理いろいろ
2006年04月03日
最近、物産館などで黒米や赤米を見る機会が増えました。原種に近い米という事で、古代の食卓に思いを馳せる雰囲気もあるのですが、何より一緒に白米と炊いた際の色合いのおもしろさが特徴ではないでしょうか。日本人にとって米という存在は、単に主食の穀物としてだけでなく、文化そのものに深く関わっていると言っても過言ではありません。通貨としても用いられ、国や大名の勢力を測る指標という存在でもありました。現代の私達には、気が付けば身近にあった物という感じで、意外と米に関する事は知らない事が多くあります。
本格的な米作がはじめられた弥生時代、米は煮るという調理方法が採られていました。奈良時代の初めには、土鍋で煮た水分の少ない固めの粥が食べられるようになり、固めに煮た粥という事で「固粥(かたかゆ)」と呼ばれています。この固粥が今日の米のご飯の原形と考えられます。奈良時代も終りを迎える頃には、さらに水分が少なくなった「姫飯(ひめいい)」が登場し、より現在の形に近付きます。後に羽釜が登場する事によって「煮る」ではなく「炊く」に調理方法が進化し、水分の多い粥は、「汁粥」と呼ばれてご飯とは別の系統として発展を遂げる事となります。
米の食べ方に関して、平安時代の貴族社会には「屯食」と呼ばれる物があり、貴族の宴会の際などに屋敷で働く人々にふるまわれました。源氏物語にも、様子が登場しますが、同時に「屯食」は鳥の卵の形をしていたことから「鳥の子」とも呼ばれ、携帯に便利な事から兵糧食としても用いられました。やがて屯食はその作り方から、宮中の女官の間で「おにぎり」と呼ばれるようになり、今日に至っています。
江戸時代の文化文政年間(1804〜1830年)、芝居小屋で温かいご飯にうなぎの蒲焼きを埋めたものが、ご飯とおかずをひとつに盛った簡便さと、味の良さから当時の庶民の人気を集めたといいます。これが丼物の始まりとされ、最初の丼物は「うな丼」であったとされます。丼物のルーツとなるのは、実はもっと古く、室町時代に流行した「芳飯(ほうはん)」であると言われます。ご飯の上に味付けした具をのせた飾り飯のことで、当時の上流階級の食べ物でした。見た目の美しさと手軽さがうけて、もてなし料理としてふるまわれましたが、この芳飯、もともとはお寺の料理で、野菜や乾物を細かく切って味をつけ、陰陽五行説に基づいて白、黄、赤、緑、黒と五色の具を白いご飯の上に美しく飾って、すまし汁をかけて食べたとされます。時代はかなり後になりますが、奄美大島の郷土料理、「鶏飯(けいはん)」に非常に似ていて、食の連続性を感じてしまいます。日頃、何気なく接している米の食べ方にも、興味深い歴史があるものです。
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