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第643回 法定規約
2006年10月31日
前回、曖昧な感じになっていたクッキーとビスケットですが、実は日本では明確な規定が存在します。両者の違いを明確にするために設けられた規定ですが「公正競争規約」の中に、その記載を見る事ができ、制定時にはクッキーの方がビスケットよりも高級品であるという考え方を感じ取る事ができます。
その規約によるとビスケットとは、小麦粉、糖類、食用油脂および食塩を原料とし、必要によりデンプン、乳製品、卵製品、膨張剤、食品添加物の原料を配合し、または、添加したものを混合機、成型機およびビスケットオーブンを使用し製造した食品をいうと定められています。
それに対し、クッキーとは、手作り風の外観を有し、糖分、脂肪分の合計が重量百分比で40%以上のもので、嗜好に応じ、卵、乳製品、ナッツ、乾果、蜂蜜などにより製品の特徴づけをおこなって風味よく焼き上げたものとされ、手作り風の質感に合わせ素材的にも高級感が感じられます。
この公正競争規約が制定された昭和46年当時、日本ではクッキーの方がビスケットより高級品と考えられていたので、安物のビスケットを高級品のクッキーと称して販売する事で混同した消費者に不利益が生じないかという考えが元になっています。あくまでも自主ルールなので、全国ビスケット協会に加盟していなければ従う必要はなく、ある意味、日本独自の文化なのかもしれません。アメリカでは同様の焼き菓子は全てクッキーと呼ばれ、ビスケットというと柔らかく丸いパンを指し、イギリスでは全てがビスケットでクッキーは存在せず、フランスではサブレとなります。語源をたどるとビスケットは、ラテン語の「2度焼く」という意味の言葉ビスコクタムに繋がる事から、クッキーの語源であるケーキも含むオランダ語キークよりも焼き菓子という点からビスケットの方がより的確なのかもしれないと考えてしまいました。
第642回 電子クッキー
2006年10月30日
インターネットでホームページを閲覧する際、そのホームページを運営するサーバーがパソコンに簡単なメモのようなものを書き込む事があります。そのメモのような書き込みは「Cookie(クッキー)」と呼ばれ、よく訪れるホームページの利用情報を管理したり、買い物カゴに利用されたりしています。このCookieの書き込み情報をもとに、クリックしたリンクに形跡が残っていたり、名前の自動入力が行われたりという事が行われ、「Cookieを有効にする」などの記載でその存在を認識する事ができます。
この電子情報メモ、Cookieの語源は、お菓子のクッキーから来ている事は確かなのですが、何故、お菓子のクッキーとなったのかについては諸説があります。Cookieが一定期間の経過と共に消去されていく事から、食べられる一つの小さなかたまりという事で、クッキーとなったという説から、テレビ番組の「セサミストリート」に出てくるマペットの一人、クッキーモンスターが次々とクッキーを食べる様子が、細かな書き込みをサーバーが食べていく様子に似ているという説もあります。
全体的には似ている細かいかたまりですが、それぞれは異なった内容が書かれている事から、おみくじ入りのクッキー、「フォーチュンクッキー」のようだとする説もあります。元々はネットスケープ社によって開発されたシステムですが、同社でも語源については不明とされ、利便性の高さからマイクロソフト社をはじめ、多くのブラウザーに採用されています。現在、世界標準を決めるなどの動きはないのですが、自主的にCookieの規格は定められ、その中には語源の由来を明示する事は行われていないので、相変わらず謎のままとなっています。
語源となった「クッキー」については、ケーキや焼き菓子を意味するオランダ語、「Koek(クーク)」が元になり、「Koek」の小さなものを意味する「Koekje(クーキェ)」が英語表記される際、「Cookie」となったと言います。似ている存在のビスケットとクッキーの違いについては、明確な定義が無いというか、国によって違うという感じで、かなり曖昧になっています。日頃から身近に接しているお菓子ではありますが、周辺にはさまざま曖昧情報が多く、興味深い存在となっています。
第641回 対アナフィラキシー
2006年10月27日
体内に異物が入った際、過剰に反応が出てしまうアレルギー症状の一種で、症状が重篤になるものがアナフィラキシーと呼ばれます。蜂やムカデなどのタンパク質系の生物毒や食品、医薬品などが原因となり、数分から一時間以内に呼吸困難や嘔吐、発疹、腹痛など複数の症状が急速に出るという特徴があります。ピーナツや蕎麦、牛乳、小麦、卵の酷いアレルギーについては、よく聞かされる事ではないでしょうか。
そんなアナフィラキシーの中でも特に血圧が急激に下がって意識を失うなど、重い全身症状を伴う場合は「アナフィラキシーショック」と呼ばれ、最悪の場合は命を落とす事もあります。蜂やムカデに刺されて死亡する事故が起こりますが、毒自体の強度よりもむしろ毒に対するアナフィラキシーショックによるショック死の方が死因となっていると考えられます。
急速に症状が重篤化するアナフィラキシーショックに対抗する薬がエピネフリンと呼ばれるもので、心拍数の増加、血圧の上昇、気管支の拡張などの作用で、アナフィラキシーショックの症状緩和を行います。このエピネフリンは副腎髄質から分泌されるホルモンであり、ストレス反応の中心的役割を果たす物質でもあります。緊張状態で発生する心拍数や血圧の上昇、瞳孔の拡張、血糖値の上昇といった本来は余計な効果を逆手に採ったものといえます。
エピネフリンというとあまり馴染みがありませんが、アドレナリンと言うとすぐに効果がイメージできると思います。このエピネフリンが一刻を争う緊急時に使用できるようにしたのが、エピネフリンの自己注射薬です。太めのペンほどの大きさで、安全キャップを外して太ももなどに押し付ける事で、バネの力で注射針が飛び出し、皮膚内に薬剤が注入される仕組みになっています。米国では25年も前から発売されていましたが、日本でも一昨年から蜂刺されに限り承認され、今年3月には食品や薬剤への適応も認められました。使わないに越した事はありませんが、可能性のある人には安心できる備えとなるのではないでしょうか。
第640回 新マーキング手法
2006年10月26日
ガン細胞の存在を調べる際、腫瘍マーカーという指標が使われる事があります。ガン細胞の活動に伴い発生する特有の物質の有無を調べて、ガン細胞の存在や増殖の度合いを判断する事に用いられる数値ですが、その響きから私の勝手な思い込みですが、どことなく蛍光ペンで印を付ける事のような感じがしてしまいます。ところがこの蛍光ペンでマーキング、最近の研究によって可能となってきています。
現在、CTやMRIなどでガン細胞だけを特別に検出する手段はありません。その意味でも有望な成果といえる今回の研究は、岡山大学の藤原博士らの研究チームによって、ガン細胞の中でのみ増殖し、蛍光タンパクを持つウイルスを作成したところ、ガンの原発巣だけでなく、そこからリンパ節に転移した小さながん細胞の塊も体内で可視化することに成功しました。この技術を用いれば手術によりガンを取り除く際に、転移した病巣も含めて正確に取り除くことが出来、転移を見逃す確率が非常に低くなります。
また、蛍光を持つタンパク質の代わりに、細胞を殺す、細胞の自殺(アポトーシス)を促す機能を持ったタンパク質を送り込んで発現させれば、ガン細胞のみを殺すことが出来ると考えられます。この方法を用いた治療方法の臨床試験が近々始められるそうで、新たな治療法の確立が待たれます。
今回、研究チームが用いた手法は、体内では生殖細胞の他にはガン細胞のみで発現しているテロメラーゼという酵素に着目したもので、ガン細胞はこのテロメラーゼを用いて細胞分裂毎に切れて短くなる遺伝子の端の部分、テロメアを再生して不死の状態を作り出しています。ウイルスは増殖する時に必要なE1遺伝子がテロメラーゼに連動するようになっており、テロメラーゼが発現している細胞でのみ増殖するようになっています。ガン細胞の特徴をうまく利用したものであり、アポトーシスに繋げられれば手術をしなくても治療が行えるようになり、患者の負担を大いに軽減できる事も考えられ、一刻も早い実現化を待ちたいと思っています。
第639回 川鹿
2006年10月25日
夏の暑さが峠を越した頃、渓流や森林の方からきれいな鳴き声が聞こえてきます。その鳴き声がお気に入りで、聞こえてくるたびに苦手な夏がそれほど長くは続かない感じがして、ほっとしながら嬉しくなっていました。物心付くまではその鳴き声の主を虫の仲間と思っていたのですが、後にそれは蛙の仲間、「カジカガエル」のものと知り、意外に思った事があります。
カジカは、「日本釈名」に河鹿は山河にある魚の事で、夜になると鳴いて、その鳴き声が大きいと記され、河の鹿からその名が付けられた事が判ります。鳴き声の特徴から河鹿はカジカガエルの事と思われるのですが、山河にある魚という点からは魚の「カジカ」と考える事もでき、近世までは蛙のカジカと魚にカジカが混同されていた事が伺えます。
漢字でカジカを表記する場合、魚片に秋と書きますが、秋という文字に「しまって細い」「引き絞った」という意味がある事から、中国ではドジョウを指す文字となっています。川底を這うように行動する習性から同一視され、カジカの漢字に「鰍」が当てられるようになったと言われます。
一言で鰍と言った場合、蛙よりも魚の方が思い起こされる事が多いと思います。海で獲れる海水性の鰍と川で獲れる淡水性の鰍、川で生まれ海へと下り、産卵に川へ戻る鮭のような鰍など、生態もバリエーションに富んでいます。食材としては海水性の大型の鰍が主流となり、カサゴ目ケムシカジカ科のケムシカジカ、カサゴ目カジカ科のトゲカジカがよく食されています。特にトゲカジカは鍋物にすると鍋を壊すほどつついて食べてしまう事から、ナベコワシという名で呼ばれるほど美味しいとされます。鍋物や味噌汁にする際は、別にダシを取る必要がないほどよくダシが出る事から、旬を向かえる冬にぴったりの美味しい食材ではなでしょうか。
第638回 不要?必要?
2006年10月24日
スポーツ不要論という考え方があります。運動による身体器官への負荷や酸化ストレス、その他さまざまな要因が身体への障害となり、寿命を短縮する一因となるという説が元になっている考え方です。実際、スポーツが身体に良いとする実験結果が存在する反面、悪いと判断できる実験結果も存在しています。健康法に画一的なものはないとは思うのですが、どちらと判断すべきなのか一度細かく検証してみる必要はあると常々考えてきました。そんなスポーツと身体について、一つの実験結果が発表されていました。
レートオブリビング説という学説があります。生物が生涯に消費できるエネルギー量は一定で、これを超えると健康が損なわれ、死に至るという説です。これまでこの説を否定する証拠はいくつか出されてきましたが、決定的な部分での説得力が弱く、スポーツが寿命を縮める一因となるという考え方に影響を与える学説の一つとなっています。先日バージニアビーチで開催された米国生理学会(APS)で報告された研究結果は、生涯に消費するエネルギー量が増大しても寿命が短縮する心配はないとするもので、レートオブリビング説を否定するものとなっています。
今回の研究はマウス300匹を用い、そのうちの200匹は何世代にもわたって回し車で走ることを好むように品種改良された「ランナーマウス」と呼ばれるもので、100匹には回し車を与え、100匹には与えずに観察が行われています。残る100匹は標準的な研究用マウスで、このマウスにも回し車を与えています。回し車を与えられたランナーマウス群は、ほかの2群に比べて生涯に消費したエネルギー量が25%ほど多くなっています。
レートオブリビング説に基いて考えると、よく運動したマウスほど寿命が短い事になります。ランナーマウスの回し車を与えられた運動群の平均寿命は735日、与えられなかった非運動群は725日という事で、実質的な差は見られていません。また、標準マウス群と非運動ランナーマウス群はエネルギー消費量がほぼ同じなので、平均寿命も同じになるはずですが、標準マウス群の平均寿命は826日と最長寿になっています。この寿命の差は代謝の違いのせいではなく、30世代以上にわたり別々に繁殖されたことによる遺伝的相違など、ほかに何らかの要因があるのではと考えられます。そうした点を考慮に入れて検証すると、エネルギー消費という観点からはスポーツが寿命に悪影響を与える事はなく、適度な運動が免疫機能や心疾患、精神面などで健康にさまざまな恩恵をもたらすと考えられます。
第637回 記憶に関する新発見
2006年10月23日
記憶力というと日常の生活でもその重要性を強く感じてしまいます。年齢と共に衰えるといった思い込みがあるのですが、世界記憶力選手権の上位入賞者をみると、案外年齢の高い人が多い事にも驚かされ、一概に衰えるものとは思えない部分も多くあります。しかし、憶えておいた事が思い出せなかったり、憶えようとしてもなかなかうまくいかなかったりすると、つい年のせいにしてしまいがちになります。
そんな記憶力を増強させるものと言ったら、まず思い浮かぶのは「DHA(ドコサヘキサエン酸)」ではないでしょうか。DHAは神経細胞の接合部分の細胞膜を柔軟にして、細胞同士の繋がりを良くする、記憶の定着を促すという働きがあり、頭を良くする成分として注目を集めた事もあります。同様に神経細胞内の伝達物質の素となるという事で、「レシチン(ホスファチジルコリン)」も頭を良くする成分と言われます。
最近の研究では、高濃度の酸素を吸入することで記憶力が向上する事が明らかにされています。代々木ゼミナールや名古屋工業大学との共同実験でも確認されており、市販の酸素吸入機器などの製品を利用し、生徒77人を対象に英単語の試験を実施、単語を学習させて翌日再試験を行いました。その結果、学習時に通常の大気中と同じ酸素濃度約21%よりも高い濃度の約30%の空気を吸引したグループは、吸わなかったグループに比べ覚えた単語の数が15%ほど多かったそうです。学習後に感じる疲労度も改善したと報告されている事から、受験生の学習効果の向上や、中高年以降の記憶力低下の防止などに利用できる可能性が示唆されています。
また、イチゴをはじめとする果物や野菜に多く含まれるポリフェノールの一種、「フィセチン」を摂取する事で記憶力が向上する事が確認されています。記憶は大脳の奥にある「海馬」という器官に制御されています。海馬に入ってきた情報は「長期増強」と呼ばれる仕組みを通して記憶として定着します。今回の発見は、認知症に効果のある物質を探す過程で、フラボノイドの一種であるフィセチンに注目した事が発端となっています。フラボノイドは強い抗酸化作用があり、老化防止への効果が知られるポリフェノールの代表的な物質でもあります。2個の物体を健康なマウスに記憶させ、24時間後に2個のうち1個を別のものにすり替えて再び見せると、前日、物体を見せる前にフィセチンの水溶液を飲ませたマウスは、すり替えた物体にだけ興味を示し、フィセチンの水溶液を飲まなかったマウスは、どちらの物体にも均一に興味を示して、前日に見たことを忘れていたそうです。マウスは摂取した成分に対し、比較的結果が出やすいという傾向があるため、すぐに人に当てはめる事はできないかもしれませんが、私の記憶力が衰えるまでには製品化される事を期待したいと思ってしまいます。
第636回 黒、青、白?
2006年10月20日
縁起物の食材としておせち料理には欠かせない存在に「くわい」があります。くわいは大きな芽が必ず出るという事で、確かに縁起物という感じがします。幅広の葉が農機具の鍬に似ている事から、鍬芋(クワイモ)と呼ばれ、それが訛ってくわいの名が付いたという説もありますが、室町時代までのくわいは、葉が「じゅんさい」のようにストロー状に丸まっている「烏芋」の事を指していた事を考えると、説得力を失ってしまいます。
くわいと呼ばれる食材は、カヤツリグサ科の烏芋(カラスイモ)とオモダカ科の多年草で水生植物を食用に品種改良した物があります。元々は雑草であったものを食用に改良しているというのは、大根と同じ成り立ちと言えます。オモダカ科のくわいには、白くわい、青くわい、吹田くわいの3種類があり、この中で青くわいが一般的にくわいとして親しまれています。
平安時代に書かれた「和名抄」や室町時代に書かれた「庭訓往来」には「烏芋−久和井」と併記されている事から、それまでのくわいは烏芋(=クロクワイ)であった事が伺えます。江戸時代に入ると「料理物語」や「毛吹草」に「くわいには白と黒の2種類がある」という記載が出てくる事から、この時期には両方が混同されていたようです。その後、「和漢三才図会」では、黒くわいを烏芋、白くわいを「慈姑」と整理しています。この後に今日のくわいがオモダカ科の慈姑を指すようになっていきます。
くわい自体は奈良時代には中国から渡来しており、その当時は「慈仙」と呼ばれていました。烏芋は藺草(ゐぐさ)に似ているので、「食べられる藺」という意味で「くわゐ」になり、それが後にくわいとなったという説の方が自然に思えます。 くわいをひらがなで「くわゐ」と書く事があるのはこの名残と考えられます。漢字で表記する際の「慈姑」は種となる球根の形状が、 慈悲深い姑が子供に乳をあげている姿に似ていることから来ていると言われますが定かではありません。大きな芽が必ず出るという縁起物ですが、小ぶりの物の方が美味とされ、縁起物としては芽が真っ直ぐに伸びている物がありがたがられています。正月が近付くにつれ見かける事が多くなるので、今度しっかり観察してみようと思っています。
第635回 ケモブレイン
2006年10月19日
ガンの化学療法を受けた患者が、後に慢性的な記憶力や注意力の障害に悩まされる事があります。それらの症状は、「ケモブレイン」と呼ばれ、症状が画一的でない事からあまり研究が行われず、患者の思い過ごしによるものではないかとも考えられてきました。しかしこの度、ケモブレインには脳の代謝および血流の変化が関わっているという知見が報告されていました。
ケモブレインに悩まされる元患者の数は多く、米国では肺ガンに次いで死亡原因の多くに上げられる乳ガンにおいて、化学療法を施された患者の25〜80%が後に何らかの記憶障害を訴えていると言います。
今回の研究では、PET(ポジトロンCT)を用いて、5〜10年前に腫瘍摘出術を受けた元乳ガン患者21人の脳を検査し、このうち16人は化学療法を受けており、5例は外科手術のみ、ほかに比較用として乳ガン罹患歴も化学療法を受けた経験もなく、年齢やその他の条件が類似する女性13人についても検査を実施。被験者が約10分間の「短期記憶課題」に取り組む間、脳の血流を観察し、課題終了後に脳の代謝機能も調べています。ケモブレインとの関係について直接脳を調べた研究は、今回が初めての事になります。
その結果、化学療法を施されたグループでは、課題に取り組んでいるときに脳の特定部位で比較的大きな血流の「急増」がみられ、ほかの2つのグループに比べ課題の達成率が113%低いという結果が出ています。。さらに化学療法グループは、課題終了後の前頭葉での脳代謝率が低く、化学療法とホルモン療法を共に受けた患者は、大脳基底核と呼ばれる部位での安静時代謝が約8%低いことも判りました。脳血流の急増は脳活性の高まりを示すものであり、課題を達成する上での負担が大きいことを意味しています。今回の研究では、ケモブレインそのものの存在が確認され、予防や治療へ向けての第一歩が始まったようにも感じられます。ガンの治療を行う事は大切ですが、その後の人生の質を低下させるケモブレインの対策もまた大切な事であり、急務ではないかと思います。
第634回 待望ワクチン
2006年10月18日
将来的には判りませんが、今のところ花粉症とは無縁に過ごせています。体内のアレルゲン蓄積によるものですから、いつまでそう言えるか不安は大いにあります。周りに花粉症の人が多く、苦労話を聞かされるたびにいつまでも無縁でと思ってしまいます。そんな私に朗報と言うべきでしょうか。花粉症ワクチンの研究が進んでいます。
秋の花粉症、ブタクサの花粉による花粉症に悩まされている人は、意外なほど多くいますが、長期効果の期待できるワクチンが数年以内に登場しそうと言います。従来行われてきたアレルギー減感作療法では何年間にもわたる定期的な注射が必要でしたが、新しいワクチンによる治療法は短期間の施療で数年間効果が持続するそうです。
ジョンズ・ホプキンズ大学の喘息アレルギーセンターのクレティコス博士らの研究チームによると、アレルギー反応での主な要因であるヘルパーT細胞による炎症に注目し、炎症の原因となる「Th2」の作用を停止させる細菌由来のDNA配列を見つけ、ブタクサ花粉細胞の一部にこの配列を付けたワクチンを開発しました。ワクチンがTH2の反応を抑えることにより、くしゃみや涙目の原因となるIgE抗体の生成も抑えられたそうです。これまでの免疫反応を抑えるというアレルギーの薬物療法が、アレルギーに繋がるすべてを標的とする大雑把なものであったのが、このワクチンは標的を狙い撃ちする特異性が高く、少ない副作用で大きな効果が得られるという理想的なものといわれます。
ブタクサ花粉アレルギーのある23〜60歳の被験者25人を対象に臨床試験を実施し、ブタクサ花粉の飛散シーズン前に、14人に新しいワクチン、残りの11 人に偽の薬をそれぞれ1週間おきに計6回注射した後、鼻水、くしゃみ、涙目などの症状について詳細に追跡しています。その結果、ワクチン群では花粉シーズン中のアレルギー症状に60%の減少がみられ、さらに翌年、ワクチンの追加がなくても引き続き症状の軽減がみられたそうです。ブタクサ以外の花粉アレルギーには効果がみられなかった事から、このワクチンの特異性の高さがわかるとクレティコス氏は述べています。回りの花粉症の方を見る度に心待ちにしたいと思ってしまいます。
第633回 流行周期
2006年10月17日
ウィルス性の感染症などの場合、患者の発生数を定点観測する事で概ねの流行傾向を予測する事ができます。特にインフルエンザやおたふく風邪、風疹など、定期的な流行を繰り返す感染症に関しては、年間を通して患者数の推移などが観察されています。それによると、今年から来年にかけて「おたふく風邪(流行性耳下腺炎)」の流行が懸念されています。
医療機関から報告されたおたふく風邪の患者数が、9月末の時点で16万3678人に達し、前年の同じ時期の患者数、約13万5000人を大きく上回り、2002年以降最多となっている事が今月15日、国立感染症研究所のまとめで明らかになっています。
おたふく風邪は、感染者のくしゃみやせきなどのしぶきに含まれるムンプスウィルスが原因となり、数年の周期で大きな流行を繰り返すと言われます。感染症研究所では、今年が流行のピークになると見て、注意を呼びかけています。感染している人には近付かず、感染が疑われる場合は学校や幼稚園へ行かない事。手洗いをまめに行い、タオルの共用も避ける事が基本となり、免疫力をしっかりと高めておくために身体を冷さず、良質なタンパク質を摂っておく事も大切です。
これまで多かった年は2001年の25万5千人で、その後、18万8千人、8万5千人と年毎に低下しましたが、2004年には12万8千人と増加に転じ、翌年には18万8千人と増えています。今年はそれを上回る事が確実視され、ピークを迎えるのではと見られています。かつておたふく風邪の流行は3、4年周期と見られていましたが、3種混合ワクチンの導入以降周期の延長が見られていました。3種混合ワクチンの投与が廃止されてからは元の周期に戻りつつあるという事で、今年の流行が懸念されています。充分、気を付けたいものです。
第632回 指先判断
2006年10月16日
身体のある部分を見て、その他の何かを判断する・・・代表的なところでは手相がそうでしょうか。手相は統計学的な部分も含まれ、歴史的なさまざまなデータの蓄積が結論を導き出しているようにも思えるのですが、身体の形状を含めた各部の発達にはホルモン等の影響が少なからず関係している事から考えると、ある程度の関連付けはできるように思えます。
先日、薬指の長い女性は、そうでない女性に比べて運動能力が高いという研究結果が発表されていました。研究にあたったスペクター博士は、関節炎の遺伝に関する研究資料として、指のレントゲン写真を撮影した双子の被験者の記録を保持していました。この記録を利用して今回の仮説を検証しています。指の長さを測定した後、一卵性双生児と二卵性双生児との比較を行い、さらに被験者に12種目のスポーツについての実績を聞き取り調査したところ、特にランニング、サッカーおよびテニスで、薬指の長さが長い女性ほど高い実績を収めていることが明らかになってきました。
また、一卵性双生児で指の長さが類似していたことから、指の長さは主に遺伝によるものという結論を導き出し、環境による影響は極めて小さいという可能性も示唆しています。これは指の長さのパターンは、胎内でのテストステロン濃度が原因とするこれまでの仮説に反する結論となります。こうした結果に関する詳細な原因については、いまのところ不明とされていますが、今回のデータから身体のある部分に注目することでほかの部分のことがわかるという例がほかにも多数存在する可能性が考えられると言います。
これまで運動能力に関しては、生後一定の期間にどれだけ動き回ったかに影響されると聞かされていましたが、薬指の長さからの関連付けのように遺伝的要因が大きく関わっているというのであれば、生後間もない子供に無理に動き回らせるというリスクを犯させる必要がなくなります。今回判った事はあくまでも傾向といった程度の事で絶対的な事ではないので、アスリートを目指す人は指の長さを気にするより努力を続けないといけないのかもしれません。
第631回 違法栽培
2006年10月13日
その植物は年に3回も収穫する事ができ、そのため成長する事にたくさんの二酸化炭素を消費します。収穫された実は細かく挽く事で香ばしい粉としてパンなどの材料となり、実を絞って得られる油はディーゼルエンジンの車を走らせる燃料となります。大きく育つ茎からは加工に適した長い繊維を採る事ができ、繊維を細かくすると高級な絹の、大きくすると頑丈な麻に似た質感の繊維を得る事ができ、葉からはさまざまな病気に対抗する力を高めてくれる成分を得る事ができます。そんな役に立つ植物が存在しています。
アサ科の一年草で古くから栽培されていた歴史があります。その植物の名は「大麻」、葉を乾燥させた物はマリファナと呼ばれ、個人では勝手に栽培する事はおろか所持する事自体、法律で厳しく処罰される対象となります。葉や花に含まれるTHC(テトラヒドロカンナビノール)には陶酔作用があり、栽培していた農家では葉や花に接しているうちに起こる軽い陶酔状態を「麻酔い」と呼んで嫌っていたと言います。この麻酔いの状態を強力にするため、THCを含む樹脂分を集めたり葉を乾燥させてタバコのように吸引したりという事が行われ、大麻を麻薬の一種に加える事となっています。
麻薬としての印象が強く、犯罪植物という感じがしてしまう大麻ですが、その有用性から栽培に関しての見直しの論議が世界各地で起こってきています。大麻の長くしなやかな繊維は、紙を作る事にも適しており、木材に比べ4分の1の面積で必要なパルプが作る事ができ、建材に使用した場合、コンクリート以上の強度を出す事ができると言います。それ以上に薬効に優れた面があり、眼圧の低下を促す事ができる事から、眼圧上昇による視神経の損傷を未然に防いだり、うつ病、不眠症、癲癇、喘息などの症状を緩和させる働きもあるとされています。
最近の研究では、難病である多発性硬化症の治療や、末期のエイズ患者の食欲増進やガンの化学療法に伴う吐気などの緩和に役立つとして製剤化されています。新たに神経伝達物質であるアセチルコリンの減少を抑えたり、記憶力の低下の原因となる特殊なタンパク質の生成を抑える働きがある可能性が発見され、アルツハイマー病を防ぐ働きが、これまでのどの薬剤よりも強力であるとされてきています。この新たな発見によって、アルツハイマー患者に対する効果的な治療法が確立されれば、大麻の評価は大きく変わってくるのではないかと考えられます。地球温暖化問題や食糧危機、石油の枯渇など幅広い問題の解決にも役立つ植物だけに、再評価が進む事を期待しています。
第630回 刈り買い売り?
2006年10月12日
実りの秋を迎え、稲穂が色付いてきています。既に早い田畑では刈り入れを済ませ、昔ながらの刈り干しにした姿に深まる秋を感じてしまいます。そんな稲に関した言葉ですが、「青田買い」という言葉をあまり聞かなくなったように思えます。企業が早めに人材を確保するために、早期に学生達に求人活動を行い、内定を出してしまう事を指した言葉でしたが、最近の就職戦線の不況が表れているのでしょうか。
早期内定は意味合いから言って、「青田買い」が正しいと思うのですが、しばしば「青田刈り」と混同されてしまい、誤用されている事があります。青田買いは、まだ稲が充分に実っていない青々とした田を青田と言いますが、青田の状態で収穫量を想定し、先物買いをする事を指しています。まだ卒業もしていない人材を、将来を見越して確保しておく意味として考える事ができます。
それに対し青田刈りは、青田の状態で稲が実っていないのに刈り取る事を指し、戦国時代の戦法の一つとして使われていました。当時は兵力のほとんどが専業の侍ではなく、農業との兼業でもあったので、一旦籠城されてしまった際、周囲の青田を刈り取る事で将来の食料不安や経済的な不安を煽り、動揺を誘うというものです。これを就職に当てはめてしまうと、優秀な人材の卒業を待たずに退学させて雇い入れる事になってしまいます。
似たような言葉に「青田売り」というものがあり、言葉だけを見ていると「青田買い」の反対の意味で、早期内定者の募集に来ている企業に自分を売り込む事にも思えてしまいますが、この青田売りはあまり良い意味ではありません。青田売りは、農家が経済的な困窮から稲穂が実る前に売りに出してしまう事、または収穫を見越して先売りする事を指しています。最近の使い方としては、宅地や土地を工事の完了前に売りに出すという不動産用語となっていますが、開発許可が下りる前や建築確認が取れた後でなければ違法行為となっています。その意味では公共工事に絡んで、新聞紙面で見かける事の多い言葉となりそうな気がします。青田に関係したよく似た言葉ですが、それぞれ大きく意味が異なり、興味深いものがあります。
第629回 巻繊?建長?
2006年10月11日
朝晩に肌寒さを感じるようになると、身体を温めてくれる料理が恋しくなってきます。鍋物や具沢山の汁物など、ぐつぐつと煮立った音だけでも温かそうな感じがして、食指が動いてしまいます。細切りにした素材と豆腐によって作られる「けんちん汁」は、そんな温かい料理の代表格の一つとして、これからの季節のお薦めの一品ではないでしょうか。
けんちん汁は漢字表記では、「巻繊汁」または「建長汁」と書かれ、けんちんの名の由来によって表記が分かれています。前者は中国、後者は日本にその由来がある事になっているのですが、現在のところどちらかといえば中国由来説が有力となっています。中国の普茶料理が日本語化したもので、「繊」を「ちん」と読むのは唐音読みとされています。
本来「巻繊」とは細く繊切りにした具材を、何らかの素材で巻いた物を指し、大根やゴボウ、ニンジン、豆腐などを細く切りにして油で炒めた物を、湯葉や薄焼き卵で巻いて、揚げたり蒸したりした料理を指しています。中国から伝えられた卓袱料理の捲繊(巻煎)も同様に細切りにした具材と崩した豆腐を油で炒め、湯葉や油揚げで巻いています。豆腐を主材として細切りにした具材を油で炒め、ダシをはった物をけんちんが主体となった汁物として名付けられたという訳です。
それに対し建長説では、鎌倉の建長寺で残り物の野菜を細く刻んで煮込み、葛粉でとろみを付けた質素な料理が作られていました。質素ではありますが栄養があり、簡単に作れて身体が温まる事から一般家庭にも広がり、建長寺の名を採って「建長寺汁」と呼ばれていたものが「建長汁」となり、後に訛って「けんちん汁」となったとされています。しかし、この説では豆腐を崩して炒める事や、「ちん」という中国読みと思える音が入る事から有力視はされていません。最初にけんちん汁の名前を聞いた際、人のあだ名からきた名前のように感じたのですが、それはまったく違うみたいです。
第628回 琥珀の液体
2006年10月10日
最近、環境問題というと二酸化炭素による地球温暖化が真っ先に思い浮かびますが、少し前になると酸性雨も世界的な環境問題となっていました。酸性雨は、化石燃料などを燃焼した際に出る硫黄酸化物や窒素酸化物が反応し、大気中で硫酸や硝酸となって雨に取り込まれて酸性度が高くなってしまったもので、酸性にあまり抵抗力のない樹木や建造物、湖沼の生物など世界的に広い地域で影響が出ています。
10年ほど前の事ですが、そんな酸性雨の影響を受けたものとして、カナダの楓の木が話題となっていた事が思い出されます。カナダの国民は楓の樹液から採れるメイプルシロップが大好きと言われ、楓の木を大切に思ってい事は、金貨の模様として使われている事からも伺う事ができます。
メープルシロップは、旬の時期である早春の2週間ほどの間に採れるサトウカエデの樹液を煮詰めてできた天然の甘味料で、カナダ産のものが世界の生産量の85%を占めています。独特の柔らかな風味で、砂糖やハチミツに比べてカロリーが低く、カリウムやカルシウムなどのミネラル分が豊富という特徴があります。透明な琥珀色のハチミツのような粘度を持つ液体で、パンケーキに添えられているのをよく見かけます。日本ではお菓子の材料としてのイメージが強いのですが、カナダでは調味料の一環としても使われ、卵やベーコンを使った料理や、肉類の煮込みに使ったりもするそうです。
メイプルシロップそのものを煮詰めて雪の上にまき、冷えて固まりかけてきたところを木の棒で巻き取る飴菓子、「タフィー」もカナダの冬ならではの人気のお菓子となっています。法令で透明度を基準としたグレードが5つに分けられているそうで、一番絞りにあたる色が薄い透明度75%の「エキストラライト」から最後に採れる透明度27%の「ダーク」まで、それぞれ香りや味わいが楽しめるようになっています。日本国内では中間のミディアムがほとんどとの事ですが、愛好者が増えるにつれダークやその前のアンバーなどの需要が増えてきていると言います。最近特にメイプルシロップ味のお菓子が発売されていますが、酸性雨を浴びた楓の木からは透明感のある樹液が採れないと現地の方が話していました。大自然の美味しい贈物なだけに、これからも安心して収穫できる事を望みたいと思います。
第627回 トランス排除
2006年10月06日
トランス脂肪酸・・・天然の状態ではごく微量しか存在しませんが、油脂を加熱したり水素添加反応などによって分子構造が変化してできる脂肪酸です。最近急速に知名度を上げ、健康に対する影響が懸念されてきています。特に悪玉コレステロールを増やす事から、血液に関連した疾患には注意が必要とされ、心臓病が死亡原因のトップにくる米国ではトランス脂肪酸への警戒を強まっています。そうした流れの一環として、このほどニューヨーク市衛生当局は、市内の飲食業者を対象にトランス脂肪酸の使用を禁じる措置を検討している事を明らかにしています。
トランス脂肪酸については、今年の1月からFDA(米国食品医薬品局)が食品に含まれるトランス脂肪酸量の表示を義務付けています。天然のトランス脂肪酸が食材中に含まれている事もあれば、油脂を加熱する過程で変化してトランス脂肪酸の状態になってしまう事、油脂を加工してトランス脂肪酸の状態にして利用している事もあります。トランス脂肪酸というと馴染みがありませんが、マーガリンやショートニングと言えば日常的に使われている物です。
今回の提案では、市内2万4600店の飲食店すべてにトランス脂肪酸を含む食材の使用を禁止するというもので、立ち入り検査で店内にトランス脂肪酸を含む食材が見つかれば罰金の対象となります。ただし、牛肉や乳製品に含まれる天然のトランス脂肪酸は除外されるそうで、市衛生委員会による承認は12月以降になる見通しと言われています。これに対し、ニューヨーク州飲食店組合は、一般の台所で使われている合法的な材料を禁止しようとするのは行き過ぎとして反論し、各店舗で従来の調理法を変え、棚の食品をすべて調べなければならなくなり、混乱を招くことは必至と訴えています。
ニューヨーク州衛生局側は、トランス脂肪は危険かつ不必要な成分であり、なくなっても嘆く人はいないとした上で、より健康的な油に切り替えることは簡単にできるはずだと主張しています。同様の規制はすでにシカゴでも提案され、やはり行き過ぎという批判を浴びています。現在、年間収入2000万ドル以上の大手チェーンのみを対象とする案で検討が進められているそうですが、難しい事のようにも思えます。しかし、店でマーガリンやショートニングを使わないようにする。または使うか使わないか選択の余地を与える事は、それほど難しい事ではないはずです。マーガリンがバターに変わる事で、若干の値上げの必要が出たり、揚げ物やお菓子にショートニングを使わない事で、食感が少し悪くなる事は考えられますが、できる事からはじめていく、それが健康の基本ではないでしょうか。
第626回 方向性危惧
2006年10月05日
最近、急速に発展している分野にアルツハイマー病の治療があります。病気の発症に関するメカニズムや傾向、病気の進行を止めるものなど、さまざまなアプローチが試みられています。そんなアルツハイマー病の治療法の一環として、脳内に蓄積するアミロイド−βと呼ばれるタンパク質の形成に関わるβ−セレクターゼという酵素の働きを阻害するというものがあります。
β−セレクターゼは、アミロイド−βの形成に重要な役割をしていると言われ、不活性化させる事ができればβ−アミロイドの形成ができなくなり、病状の進行を止められるのではないかと考えられ、不活性化させる薬剤を開発しようという研究が続けられてきています。
ところが最近になってβ−セレクターゼは、神経細胞を覆い保護する髄鞘(ずいしょう)の形成にも関与しており、β−セクレターゼの作用を阻害すると生涯にわたる神経損傷を引き起こす可能性があるという事が判ってきました。髄鞘は単に神経細胞を覆い、保護しているだけでなく、髄鞘がある事で高度な伝達が可能となり、髄鞘が損傷すると、神経伝達自体ができなくなってしまいます。
第625回 焦げ危険
2006年10月04日
米国での事ですが、先日大手ファーストフードチェーンを相手にある訴訟が提起されていました。メニューの焼いた鶏肉から発ガン物質が検出されたとの事で、会員数6000人の医師が作る「責任ある医療のための医師委員会」が危険性の表示を求めるという内容で、カリフォルニア州地裁への提訴となっています。
訴状によるとカリフォルニア州に店舗がある大手全国チェーン7社のファーストフード店で販売されているメニューで、鶏肉を焼いた物や鶏肉を含むサラダなど100点を外部の検査機関で分析したところ、全ての商品から発ガン物質が検出されたそうです。発ガン物質の名はヘテロサイクリックアミン。肉や魚を調理する際に発生し、焦げの部分が身体に悪いと言われる原因物質となっています。
ヘテロサイクリックアミンは、肉や魚などのタンパク質を多く含む食材を加熱調理する際の形成される物質で、特に熱を受けた場所である「焦げ」の部分に多く含まれているとされます。ガンに繋がる変異原性は非常に強力とされ、代表的な発ガン物質であるアフラトキシンやベンゾピレンなどにも匹敵すると言われます。
ヘテロサイクリックアミンはラットやサルでは発ガン性を示す事が指摘されていますが、人に関しては直接ガンの原因となるかについては明らかにされていません。疫学調査では焦げを多く摂取する事で、発ガンのリスクが高くなる事が指摘されていますので、何らかの因果関係がある事が考えられますが、一日にどのくらいの量を摂る事が発ガンのリスクを高めるのかという評価についても明らかにされていません。焦げた部分が多い魚の皮には、より多くのヘテロサイクリックアミンが含まれると言いますが、人によって魚の焼き方に違いがあり、焼く際の熱のかけ方も違いがある事から、推定する事自体難しい感じがします。ヘテロサイクリックアミンに関しては、大根に含まれる酵素が毒性を下げるというレポートもあるので、食べ方も絡んでくると非常に判断が難しくなるのではないでしょうか。今後の訴訟の流れを注目したいと思っています。
第624回 脈拍不要
2006年10月03日
最近、腕時計をほぼ同じ時期に購入したためか、相次いで電池が切れて止まってしまっています。手持ちの数個をそれぞれ服やその日の気分に合わせて使い分けていたのですが、一つが止まっても他があると思っていたのに、相次いで止まってしまうと意外と不便なものです。そうした手持ちの時計の中で、特にお気に入りの物がありました。心臓のペースメーカーの技術を応用とした物という事で、異常なほど長い電池寿命を誇るというのが特徴でした。
体内に埋め込む人工臓器は基本的に電気を動力源とするのですが、身体への負担を考えると電池交換などを頻繁に行う事は避けるべき事でもあります。そのために必要となるのが装置の小型化と省電力化ですが、作業動作などによってはそれが難しく、今後の重要なテーマとなっている場合も多々有ります。
先日、そんな人工臓器のテーマに新たな一歩となりそうな機器の開発が報告されていました。完全埋め込み型の人工心臓なのですが、これまでの物とは大きく異なり、脈を打たないというのです。その人工心臓は本物の心臓のように脈を打つ事で容積を変え、心室にあたる血液チャンバーと弁によって血液を送り出すのではなく、回転するモーターによって血液を送り出すシステムを備えています。これまでは脈を作り出すためにポンプを用いる事が欠かせない事だったのですが、それをモーターで血液を送り出すのであれば装置を小型化できる事や、消費電力を小さく設定する事ができます。構造も単純になる事で部品点数も少なくなるというメリットもあります。
現在、脈拍がなくなる事で毛細血管に血液が行き渡り難くなり、組織が損傷を受けるのではないかという意見と、連続的な動きは必要ないとする意見が真っ向から対立しているそうですが、今のところデータ的には問題ないと言われています。一回の脈動で全身へと血液を送り出す事には、かなり大きなエネルギーを必要とする事が考えられ、脈動しないという事はそれだけで省エネルギーという事は理解できます。稼動部分へのストレスも小さくなるので、機器の部品寿命も長くなる事も考えられ、部品点数が少なくなる事は故障のリスクも小さくなり、回転モーターは稼動実績も多く、データも多い事から機器としては、非常に優れた機構だと思えます。人の脈がなくなるという事は、非常に奇異な事ではありますが、優れた内容だけに実用化されればと思ってしまいます。
第623回 有望な新療法
2006年10月02日
睡眠時無呼吸症候群はその名の通り就寝中に呼吸が止まり、睡眠の質を著しく低下させる症状ですが、その存在が知られている割には自覚症状が低い疾患の一つではないでしょうか。軽度のものであれば累積疲労の一環と思われがちで、症状がある程度進んでも無気力に併せ日中に耐え難い眠気をおよぼす事から、もしかしたらという疑いを持ちながら気合や根性で何とかと思ってしまう事も多いと思います。単純に眠気だけの問題ではなく、その他のさまざまな疾患への発展も考えられる事から、症状の把握、適切な治療を行いたいものです。
睡眠時の無呼吸に関する治療は、最近徐々に新たな治療法が確立されつつありますが、これまでは持続陽圧呼吸治療(CPAP)と呼ばれる治療法か外科手術の2種類しかありませんでした。CPAPは治療を正確に継続する事の難しさ、外科手術には効果の持続性という面で大きな欠点があります。今回新たに開発された治療法は、ポリエステルの小さな棒状の治療器具を軟口蓋に挿入するするというもので、身体への負担の少ない治療法として注目されています。
新たな治療法は「ピラー・プロシージャー」と呼ばれるもので、既に軽度から中等度の睡眠時無呼吸の症状を示す男性16名、女性6名を対象に施療を行い、17例でいびきの低減、日中の眠気、低呼吸指数など著しい改善が見られたそうで、効果は15ヶ月を経過しても継続していると言います。施術自体は局所麻酔によって最小限の痛みで済み、すぐに通常の生活に戻れるそうで、気になる異物感についても1〜2週間程度で消えるそうです。
効果自体は挿入した棒状の器具によるものではなく、棒の周囲に形成される瘢痕組織によるものなので、時間が経つほど効果が高まり、治療の成果が発揮されてくると言います。これまでの外科手術と比べて費用的に安価である事や、症状の状態に合わせて他の治療法との併用も可能なので、重症例での効果という点ではまだ充分な臨床例が少なく、有用性の証明ができていないそうですが、経済的、身体的負担の少なさや効果の継続性など、多くのメリットを持っている治療法だけに、一刻も早く一般化する事を願いたいと思います。
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