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第663回 フッ素危機
2006年11月30日
ペットとして飼われているカナリアは、空気の状態に極めて敏感で回りの空気の状態が悪化すると、すぐに死んでしまいます。キッチンで調理をしていたらペットのカナリアが突然死んでしまい、原因を探っても思い当たる事がない・・・それが事の始まりでした。後に判る事ですが、キッチンでのカナリアの突然死に共通する事、それは新しいフライパンを使い始めたという事でした。新しいフライパンは、焦げ付きを防ぐためのフッ素樹脂加工がされています。
フッ素樹脂加工されたフライパンは焦げ付きがほとんどない事から、調理がしやすく、余分な油が必要ない事からヘルシーな調理ができる便利な物として、急速に普及しています。発売当初はフッ素樹脂コートの耐久性が低く、硬い調理器具や研磨作用のあるスポンジなどで簡単に傷が付いてしまうという事が多かったのですが、最近では強度も上がり、手軽に使える必需品となっているのではないでしょうか。
キッチンでのカナリアの突然死は、手軽で身近な物となっていたフッ素樹脂加工の安全性に疑問を投げかけるものとなり、後に高温になったフッ素樹脂が分解されてガスが発生し、それを吸引する事で起こるポリマー風邪と呼ばれる症状へと繋がります。食品を調理している際は、フッ素樹脂が分解する温度までは達しないので安全とされていましたが、食品が入らない余熱の状態で数分もあれば350度を超える高温になる事が明らかになっています。その間にさまざまな有機フッ素化合物が発生し、発ガン性が指摘されているテトラフルオロエチレンやトリフルオロ酢酸、そして問題視されてきているパーフルオロオクタン酸(POFA)が発生します。
最近、急速に普及が進むIH(電磁調理器)は、ガスコンロよりも急速に加熱し、より高温になる事からフッ素樹脂の危険性をより高める可能性があります。また、フライパンに限らずフッ素樹脂加工は、缶詰や清涼飲料水などの缶の腐食防止、耐油紙などにも使われ、日常的な食を通して接する機会も少なくない事が伺えます。フッ素樹脂由来のPOFAは非常に分解性が低く、環境中への蓄積が懸念され、実際、人の血液中からも高い頻度で見つかっています。フッ素樹脂加工のフライパンを高温にする事の危険性の認識は徐々に広まってきてはいますが、ファーストフードなどの容器や包装紙に使われている耐油紙を電子レンジで加熱した際の危険性などは、まだ細かな検証が行われていない状態です。便利さの陰に隠れた危険、充分な注意が必要ではないでしょうか。
第662回 食と予防
2006年11月29日
最近、車で移動する際、ラジオを聴いている事が多いので、乳ガンの早期発見を目的としたマンモグラフィー検診を呼びかけるラジオCMをよく耳にします。日本でも乳ガンの患者は増える傾向にありますが、米国の比でない事は統計上の数字からも明らかになっています。日本を含むアジア系の女性の乳ガンの発症率は、米国の女性の4分の1から7分の1とされ、さまざまな要因が研究されています。
アジア系の女性と米国の女性の乳ガン発症リスクの違いには、単純に遺伝的な要因を上げる事ができますが、アジア系の女性が米国へ移住すると3世代程度で発症率が同じになってしまうというデータがあります。その事実から考えられる事は、生活様式や食事内容、地域的環境要因などが関係しているという事ではないでしょうか。
先日、そうした発ガンリスクについての聞き取り調査が行われ、食に関する興味深いデータが得られていました。調査は対象となる女性に、近隣にアジア系の人が多く住むか、アジア系の食料品店で買い物をしているか、アジアの新聞を読むかなどといった生活様式に関する各因子について問診を行っています。その中で大豆を多く食べるという食習慣が、発ガンのリスクを下げる重要な因子となる可能性が高いとされています。
幼少期に週平均2食以上大豆を食べているという多食グループは、週平均4分の1食という少食グループに比べ、乳ガンの発症リスクが58%も低く、思春期および成人後の大豆摂取量が多いグループでも25%もリスクが低かったという結果が得られています。大豆が乳ガンの発症リスクを下げる仕組みについては、正確には判らないとされていますが、動物モデルでは大豆のイソフラボンが女性ホルモンのエストロゲンに似た作用をし、若年期にイソフラボンに触れる事で組織の発達に変化が生じて発ガンの感受性が低くなるという事が示されています。食と病とは密接な関わりがある事は、経験的に広く知られてきた事でもあります。健康の第一歩、食を大切にしましょう。
第661回 普通のチョコ効果
2006年11月28日
チョコレート、特に原料となるカカオには、さまざまなポリフェノールが含まれ、それらの抗酸化作用が多くの健康効果に繋がっているという研究結果は、すでに広く知られています。店頭でも健康効果を表示したカカオ分の多いチョコレートが販売され、チョコレートによる健康習慣という提案もメーカー側から出されているほどで、より健康効果を確実にするためにカカオ分の多いチョコレートも販売されています。
チョコレートに含まれるカカオ分が多くなると、チョコレートの食感は引きがないパリパリとしたものになり、コクもなくなってしまいます。渋味も強くなり、美味しさは半減してしまう感じがするのですが、健康と並び立つにはミルク分や糖分控えめでリッチな味からは遠のいてしまうのかもしれません。渋い味はポリフェノールの特徴の一つでもあり、身体に良い物は口に・・・というところでしょうか。
これまでチョコレートの健康効果について研究したデータは、通常ではありえない量を摂取して2〜4時間以内に評価を行ったものがほとんどで、実際に食べるレベルでは本当の効果という点では疑問があるのではという意見もありました。先日、偶然にその疑問への答えが出されていました。家族に若年性冠動脈性心疾患の病歴がある高リスク者を対象に行われた血小板とアスピリンに関する研究の中で、決められた運動内容、禁煙、血小板の活性に影響を与える可能性のある食物の排除を行う事を義務付けられていた対象者が、指示に反して禁止食物に含まれていたチョコレートを食べていた事が判明しました。
本来であればそれらの対象者は、不適合という事で選任をやり直し、再度研究を行うという事になるのですが、せっかくなので血小板が凝集するのにかかる時間について、チョコレートを食べていないグループとの比較を行う事となりました。その結果、チョコレートを食べたグループでは血液凝固にかかる時間が平均で130秒であったのに対し、食べていないグループでは約123秒で、血小板活性によって生じる老廃物を調べた検査でも、チョコレートを食べたグループの尿には、老廃物の量が顕著に低く、血小板活性が低くなっている事が明らかになったそうです。12時間も前に食べた少量のチョコレートが、血小板の機能に影響していたという事で、日常レベルのチョコレート摂取でも、血液の粘りを少なくし、血液凝固による心疾患のリスクを軽減する事が示された事になります。無理に渋い物を選ばず、美味しい物を適度に摂りましょう。
第660回 アレルギー対処法
2006年11月27日
幼稚園の頃、毎週木曜日になると何故か母親に持たされたパンを持参して登園していました。後に聞かされたのですが、パンの昼食が支給される木曜の午後になると体調が悪くなるらしく、幼稚園の保母さんと母親が話し合った結果、木曜に幼稚園から支給されていたサンドイッチの卵サラダへのアレルギーではないかという事になり、木曜は私だけが昼食のパンを持参する事になったらしいのです。
後に成長し、アレルギーを克服したのか、今一つ不明な状態ではありますが、症状が悪化する事はなく、卵とは普通に接する事ができています。卵のアレルギーに関しては、卵白アルブミン、オボムコイド、リゾチウムが主要アレルゲンとされています。卵白アルブミンは熱によって容易に壊れてアレルゲンとしての働きを失うので、私のようにゆで卵によってアレルギーが出る場合は、熱に強い耐熱性タンパク質のオボムコイドがアレルゲンとなっている可能性が高いと考えられます。
先日、米国デューク大学とアーカンソー大学の共同研究チームが、卵アレルギーの子供に対する効果的な治療法を開発したと発表していました。粉末にした卵を毎日少量与え続け、徐々に量を増やしながら2年間続けたところ、ほとんどの子供がゆで卵2個を食べてもアレルギー反応を示さなくなったと言います。アレルギー治療に関しては、一旦除去食によって症状を改善させ、特定されたアレルゲンを徐々に与えるという事は、経験的に行われた事でもあります。
加熱して凝固した卵白を粉砕して水で洗い、オボムコイドを除去した「加熱脱オボムコイド卵白」粉末を徐々に摂取させる事で、卵に対するアレルギー体質を持ったマウスの症状が改善され、加熱脱オボムコイド卵白クッキーを1ヶ月食べる事で、半数の人のアレルギー症状が起こりにくくなったという研究結果は、すでに一年以上前に日本の大手マヨネーズメーカーを中心とした研究チームによって報告されています。今回の発表は、その意味では目新しいものではないのかもしれませんが、アレルギーを抱える人の悩みを解消する手立てとなる事を再確認したものとも言え、歓迎すべきものではないかと思っています。
第659回 初期治療
2006年11月24日
風邪のシーズンを迎え、インフルエンザの流行とその予防への関心が高まってしまいます。インフルエンザはウィルスの感染症であり、抗生物質などが効かない事や急激に熱や節々の痛みなどのさまざまな不快な症状が発生する事から、いかに感染しないか、感染してしまったらいかに早く治すかが重要になってきます。かつてはインフルエンザに対抗する有効な薬剤がなかった事から、自己治癒力を高める民間療法的な事が治癒への手立てとなっていましたが、タミフル、リレンザといった抗ウィルス薬が開発され、2001年2月に保険適応となってからはインフルエンザにへの対処方も変わってきました。
タミフル(リン酸オセルタミビル製剤)はA型、B型のインフルエンザウィルスに有効とされる世界初の経口抗インフルエンザウィルス製剤で、飲用する事でウィルスの増殖を抑制する事ができます。リレンザ(ザナミビル)はA型とB型のインフルエンザウィルスに有効なドライパウダーで、吸入する事でタミフルと同様にウィルスの増殖を抑制してくれます。いずれもC型のインフルエンザウィルスや細菌感染による風邪症候群、その他のウィルス性風邪症候群には効果がなく、A型、B型に関してもすべての不快な症状を抑えるものではなく、発熱期間や治癒に要する時間の短縮が行われるというものです。
ウィルスの増殖を抑制するものである事から初期に摂取する事が大切とされ、感染から36時間以内に摂取する事が望ましいとされます。症状が出ている、ウィルスが増殖してしまっている状態での摂取ではあまり意味がないとも言えます。インフルエンザウィルスの潜伏期間の事を考えると、自覚症状が出てからでは遅いと考えられ、家族や身近な人に感染者が発生した段階で摂取しておくといった予防策という発想も出てしまいます。実際、そう言って処方する医師の話も聞かされた事があります。しかし、そうして安易に処方されるタミフルに対し、服用後の異常行動という副作用の問題が懸念されてきています。
先日、タミフルの服用後に幻覚やうわごとなどの異常行動が報告されている事に関して、FDA(米国食料医薬品局)は「服用と異常行動との関係は否定できない」として、製薬会社に注意を喚起する表示を求めた事を発表していました。FDAやAP通信によると昨年8月から今年の7月までに報告された異常行動は死亡例3件を含む103件とされ、このうち95例はタミフルの消費量が最も多い日本からのものとされます。95例中の3分の2は17歳未満とされ、詳細な因果関係は不明とされていますが、今後も消費量が増え続ければ異常行動も増え続ける可能性があるとして注意が促されています。日本では発売以来、既に2450万回の処方が確認され、世界一のタミフル消費国となっています。人口が2倍以上の米国の4倍と言われるので、一人あたりの少量としては8倍という事になり、いかに処方が安易に行われているかが判ります。タミフルは発熱などの症状を緩和するが、薬には副作用の恐れもありリスクと効果を考えなければならない。タミフルの効果は発症してから約48時間以内で、それ以上経過してからではあまり効果はない。インフルエンザかもしれないという程度で安易に服用するのは勧められないという意見もあり、死に至る異常行動も報告されている事から服用には、慎重な注意が必要と思います。
第658回 効能強化菌
2006年11月22日
かつては「畑の肉」と呼ばれ、栄養豊富な食品として知られた大豆は、最近ではイソフラボンの効果で健康食品としての一面が広く知られる事となっています。イソフラボンは大豆、特に胚芽の部分に多く含まれるフラボノイドの一種で、体内で女性ホルモンのエストロゲンに似た働きを持つ成分とされ、エストロゲンの不足が関係すると考えられる骨粗鬆症や更年期障害などの症状緩和に役立つとされます。
ダイゼインやゲニステインをはじめ15種類の成分が大豆イソフラボンとして確認されています。最近、一日あたりの摂取上限が定められた事からも、イソフラボンのホルモン様体としての働きが伺える事と思います。エストロゲンの分泌は年齢と共に低下する事から、それを補う意味で大豆製品を日常生活に取り入れる方も増えているのではないでしょうか。
エストロゲンの不足によるホルモンバランスの崩れが原因となる更年期障害は、女性を中心にほとんどの人が経験する事とされながら、人によって症状の出かたや時期が異なる事から、食品によって予防できれば理想的な事と考えられます。その意図から大豆製品が愛用されている例も多いのですが、実際には効果が感じられないという意見も多く聞かれます。大豆由来で更年期障害の症状を緩和する働きを持つ成分として、「エクオール」の存在が注目されていますが、その生成能力に大きな違いがある事が効果の出かたに関わっています。
エクオールは大豆イソフラボンの一つであるダイゼインが腸内で分解される事によってでき、更年期症状の改善や乳ガンの予防に役立つとされています。ダイゼインの分解には腸内細菌の存在が不可欠なのですが、ダイゼインからエクオールを生成する能力を持つ乳酸菌は、日本人の約5割、欧米人では約7割の人がこのエクオール生成菌を持たないとされ、ダイゼインの効能を発揮できない状態にあると言われます。最近、このエクオール生成菌を体内より取り出し、培養する技術が確立された事から、大豆イソフラボンとセットで摂取する事や大豆からダイゼインを取り出し、生成菌によってエクオールを作り出してもらえば、これまで効能が感じられなかった人やアレルギーによって大豆が摂取できない人でも効能が得られる事になります。今後の実用化を楽しみにしたいと思っています。
第657回 簡単予防
2006年11月21日
今年はいつまでも暖かい気候が続いているのですが、さすがに年末が近付くにつれ寒さが増してくるのではと思っています。急速に寒くなる事で一気に増えてくるのが、風邪ではないでしょうか。最近は年中見られますが、冬場に風邪が多くなる理由としては、季節風の影響やウィルスを運びやすい乾いた空気、寒さに対応するため体温を維持する事に体力を消耗する、体温が少し下がる事で免疫力も下がりやすいなどが考えられます。
風邪をひくと発熱したり、節々の痛み、食欲不振、せきやくしゃみなどさまざまな症状が見られます。通常手にする風邪薬の多くはそれらに対抗するための対症療法が中心となり、原因であるウィルスへの対処は、体内の免疫力が中心となります。そのため風邪に対抗する最も有効な手段といえば、免疫力を高めておく事が第一と考えられます。
先日、そんな免疫力に関して非常に興味深い研究結果が発表されていました。米国カーネギーメロン大学の研究チームによると、明るい性格の人は風邪をひきにくい傾向があるそうです。風邪のウィルス感染と精神状態との関係を調査するため、健康な成人193人を対象に研究を実施し、本人の性格の特徴や自覚している精神状態を質問、回答に応じてグループ分けを行いました。比較的おおらかな性格のグループは「プラス感情型」、気分が沈みがちで緊張や敵意を強く持つ傾向のある人のグループは「マイナス感情型」と分けた上で、対象者全員に風邪のウィルスや風邪に似た症状を引き起こすインフルエンザウィルスを混入させた点鼻剤を投与し、その後の6日間にわたって喉の痛みや筋肉痛、せきやくしゃみ、鼻づまりなどの風邪に関する自覚症状を報告してもらいました。
その結果として、プラス感情型のグループは感染率が平均より低い事が判明し、感染した場合でも自覚症状が予想された基準より軽い傾向があり、マイナス感情型のグループでは感染率が平均を上回る事はなかったそうですが、症状が出た事で沈みこんでしまったそうです。全体的な傾向からプラス感情型の人はウィルスに対する免疫反応に違いがある事が伺え、病気を楽観視する傾向もあったそうです。普段マイナス感情型に属すべき人でも楽しく過せば風邪を予防できるのかという疑問は残るそうですが、性格は簡単に変わるものではないという定説に対し、最近の研究で感情の傾向が決して不変ではないとの報告もされています。ガン告知を期に趣味に生きる事にし、末期ガンを克服した話は多く聞かされます。免疫力と楽しさは密接に関わっているのかもしれません。
第656回 恐水狂犬
2006年11月20日
先日、厚生労働省より京都市在住の60歳代の男性がフィリピンで犬に咬まれ、帰国後国内で狂犬病を発症したという発表が行われていました。男性は意識不明の重体という事で、極めて致死率の高い病気だけに経過が大いに心配されます。感染が国外であっても、国内で狂犬病が発症するのは36年ぶりという事で、過去の脅威が蘇ってきた感じがしますが、狂犬病は人から人へは感染しないため、感染の拡大に関する心配はありません。
日本では狂犬病予防法という法律によって飼犬へのワクチン接種が行われるようになってからは、狂犬病の発症はほとんど見られなくなり、それほど怖い病気であるという認識はないというのが実情ではないでしょうか。映画の中では狂犬病に侵された大型犬が恐怖を撒き散らすというパニック映画も存在しましたが、犬が凶暴になるという事以外、あまり症状などについての詳しい知識は持ち合わせてはいないと言えます。
そんな狂犬病ですが、WHO(世界保健機関)のまとめによると04年の一年間だけで世界中で5万5000人の死亡者が出たと推定され、発病後の有効な治療法はいまだ確立されておらず、咬まれた直後か事前にワクチンを接種して発症を予防するしか狂犬病から身を守る方法はなく、発症した場合の致死率はほぼ100%と言われています。
感染してからの潜伏期間は通常1〜3ヶ月とされ、長い例では7年という事も報告されています。狂犬病ウィルスが咬まれた傷から唾液を介して進入し、神経系を移動して脳神経組織に到達してから発症するため、咬まれた場所と脳との距離にも関係していると考えられます。風邪に似た症状が初期症状として知られ、急性期には不安感や水を恐れるという症状が見られる事から恐水病と呼ばれる事もあります。脳神経組織から唾液腺に移動したウィルスは、喉の筋肉を麻痺させ、唾液を飲み込む事ができなくした上で興奮性や精神錯乱などの神経症状を起こさせ、やがて昏睡期に至り、呼吸障害によって死亡するとされます。ウィルス自体はそれほど強いものではないので、万が一咬まれた場合は、傷口を石けんなどでよく洗い、エタノールなどの消毒薬でよく消毒する事で大半が死滅すると言われ、その後、すぐに一定回数のワクチンを接種する事が必要と言われます。ワクチン接種の法令化によって狂犬病を封じ込めたのは、日本に限っての稀な事であるため、海外では充分な注意が必要です。
第655回 ペプチド?
2006年11月17日
最近、コラーゲンに関連した製品を見かけます。コラーゲンというと美容というキーワードがすぐに思い浮かんでしまうのですが、コラーゲンは身体の組織を作る素になる物質だけに、美容のみに限らずさまざまな点で役に立ち、身体にとって不可欠な物質と言えます。よく言われるようになってきた事としては、関節の再生に役立ったり、激しい運動をした際、疲労回復や筋力の増強に役立つ、免疫力を上げるなどで、コラーゲンの状態を示す言葉としてペプチドというのも耳にします。
コラーゲンは動物の体内でもっとも多く存在する繊維状タンパクで、人の全タンパク質量の約30%を占めるとされ、皮膚や筋肉、内臓、骨、関節、目、髪など、あらゆる組織の細胞を繋ぎとめる働きをしています。特に皮膚の真皮層では90%以上がコラーゲンで占められている事から、美容には欠かせない物質として化粧品をはじめ食品、飲料などにも使われています。体重の約16%がタンパク質とされ、その30%がコラーゲンで占められるので、全体から見ると体重の5%がコラーゲンという事になり、いかに重要な成分であるかが解ります。
コラーゲンには水分を保持する働きもあり、3本の鎖のようなの繊維がらせん状に絡まった特殊な構造から、バネのような伸縮性を持つので、皮膚の老化防止、関節の補修、繰返し伸び縮みを繰り返す事で傷んだ筋繊維の補修に使われ、コラーゲンで補修された筋繊維は同時に補強も行われるので太く成長する事となり、筋肉量の増加にも繋がります。また、免疫細胞の中で重要な役割を持つマクロファージはコラーゲンを好み、コラーゲンを得る事でマクロファージの働きは飛躍的に向上するといわれています。
そのコラーゲンに付属してペプチドという言葉があるのですが、このペプチド、タンパク質が体内でアミノ酸にまで分解される過程でできる中間物質の事で、アミノ酸の分子が複数個結合した状態を指します。タンパク質はそのまま吸収されるという事はまく、アミノ酸にまで分解されて体内に取り込まれるのですが、実際にはその前段階のペプチドの状態でも吸収される事があります。ペプチドの形で体内に吸収されるという事は、アミノ酸の分子が数個分一度に取り込まれるので、吸収が早く効率がよいと言う事ができます。最近ではそうした効率の良さからペプチド化されたタンパク質は、消化機能が未熟な乳幼児のミルクにも利用されています。これから乾燥や風邪が気になるシーズンだけに、効率よく摂取したいものではないでしょうか。
第654回 糖質分類
2006年11月16日
スーパーなどで砂糖の売り場に行くと、幾種類かの砂糖を見かける事ができます。一般的な白砂糖から素朴な感じの黒砂糖、透明感がきれいなグラニュー糖や煮物などに重宝する三温糖。こだわって使い分けてみるのも面白いと思ってしまいます。多くの場合、サトウキビの絞り汁からはじまり、それをどう精製、加工するかで砂糖の種類は大きく分けて10種類ほどになります。
砂糖は製法によって含蜜糖と分蜜糖に大別され、最も一般的に使われているのが上白糖と呼ばれる白い砂糖で、サトウキビの絞り汁から甘味成分のショ糖を取り出し、精製した物になります。結晶が細かく、しっとりした質感を持っています。上白糖よりも結晶が大きくなるとグラニュー糖となり、くせのない淡白な甘さから、甘味のみを加える事に使われます。さらに結晶が大きくなると白双糖(しろざらとう)となるのですが、一般的に家庭での使用は少ないと言われます。
上白糖のような質感を持っていますが、黒砂糖に近い色合いを持つ三温糖は、上白糖やグラニュー糖を取った残りの蜜をさらに煮詰めて作られるもので、加熱を繰り返した結果としてカラメル化が進み、褐色に色付いています。特有の風味とコクがあり、甘さも強く感じるので、煮物や佃煮に使う他、健康志向で上白糖の代わりに使う家庭もあります。同じような色合いで、グラニュー糖よりも結晶が大きい中双糖(ちゅうざらとう)は、表面にカラメルをかける事で独特の風味と色を出しています。
グラニュー糖に圧力を加え結晶の粒同士を固めると角砂糖になり、1個あたりの重量が決まっているので料理やお菓子作りに便利に使用できます。また、結晶その物を大きく成長させると透き通った氷のように見える事から氷砂糖と呼ばれる物になり、溶けるのに時間がかかる事から果実酒を作る事に適した砂糖とされます。工業的には溶かす手間が省ける事から、液状の砂糖である液糖が使われ、黒砂糖と同じ含蜜糖でありながら、研ぎと呼ばれる精製工程を繰返し、非常に小さな結晶にした日本独自の和三盆も一般的ではありませんが、砂糖の仲間として知られています。最近ではサトウダイコンから取れるてん菜糖も並んでいるので、いろいろと使い分けてみたいという欲求にかられてしまいます。
第653回 再生化合物
2006年11月15日
すでに故人となられましたが、映画「スーパーマン」で主役を演じられたクリストファー・リーブ氏は、スーパーマンに相応しい長身で筋肉質の身体の持ち主で、映画のヒットもあって見るからにスーパーマンを連想させる人物でした。それが趣味の乗馬の最中、落馬によって脊髄を損傷し、首から下が麻痺するという大変な災難に見舞われてしまいました。
それから闘病生活が始まるのですが、当時注目されていた治療法は、体細胞の大本となるES細胞を用いて、損傷した神経を再生させるというものでした。しかし、彼が住む米国では、ES細胞を使った治療行為や研究が禁止されたため、その撤回をめぐって社会活動を展開し、リハビリを続ける傍ら妻のディナと共にクリストファーアンドディナ・リーブ麻痺資源センターを設立しています。そんな彼の活動はいまだ実らず、ES細胞による治療は許可されていない状態が続いています。
少々違和感があるかもしれませんが、動物の身体は電気仕掛けで動いていると言っても過言ではありません。脳が発した電気信号を神経が全身に伝え、それによって筋肉をはじめさまざまな器官の動きが制御されています。神経細胞に回復不可能な損傷が生じると、脳からの電気信号を伝える事ができなくなり、麻痺した状態になってしまいます。脊髄内の神経細胞は一度切れると再生しないために、さまざまな細胞に変化できるES細胞によって補正する事が脊椎損傷の治療法として考えられていました。
今回、慶応義塾大学の岡野教授率いる研究チームによる発見は、損傷した脊髄の神経機能を再生させる化合物という事で、脊髄損傷の根本的な治療はまだ難しいとしながらも、将来の治療薬開発に繋がる大きな成果として注目されています。動物の体内には、神経細胞が再生する事を阻むセマフォリン3Aと呼ばれるタンパク質が存在しています。胎児期に神経が不必要な部分に伸びないように制御しているのですが、脊髄が損傷した場合でもこのセマフォリン3Aが作用して神経の再生を阻害していると考えられています。土壌の真菌から発見されたSM216289と呼ばれる化合物には、セマフォリン3Aの作用を抑制する事が知られ、岡野教授らはSM21689を用いてセマフォリン3Aを抑制し、神経の再生を確認しています。SM216289だけでは完全な運動機能の回復には至らないかもしれないとはしていますが、新たな治療法の確立には確実に繋がる研究成果ではないかと考えられ、リーブ氏にも知らせてやりたかったと思ってしまいます。
第652回 どんぐりの木?
2006年11月14日
子供の頃、雑木林の中を歩いていてどんぐりを拾って集めていた事があります。当時、近所で手に入るどんぐりは細長い形の物で、大きめの丸いどんぐりが手に入ると、珍しい物が手に入ったような気がして嬉しくなっていた事が思い出されます。丸いどんぐり、細長いどんぐり...、同じどんぐりと呼ばれるのに、大きく形が違う。あまり気にしなかった事ですが、実はどんぐりとは一つの木の実を指すものではなく、いくつかの種類を総称したものとなっています。
栗に似た艶のある質感と、ハカマと呼ばれるお椀状の殻斗(かくと)に支えられているという共通した特徴がある以外は、形状、大きさはさまざまに異なっています。ハカマが取れた姿こそ栗に似ていますが、味はまるで違い、サポニンやタンニンといった苦味、渋味をそなえているので、とても食用とは考えにくい味がします。
民芸品や伝統的なおもちゃにはどんぐりを用いたものがあり、食料としてでなく子供のおもちゃとしての印象が強いどんぐりですが、古代の人々にとっては大切な食料でもありました。もちろん古代の人々にとっても苦味、渋味は歓迎できるものではなかったので、まず煮る事、そして水にさらす事でアクをとり、食用に適した形にどんぐりを加工していました。
どんぐりは多くのデンプンを含んでいます。どんぐりを乾燥させ、粉に挽いて水に繰返しさらす事でデンプンを分離する事ができます。それを集めて団子にした物が古代の人々の食料となっていたらしく、どんぐりの語源は団子を作る栗、「団子栗」が後にどんぐりと呼ばれるようになったと言います。今日でもアク抜きした挽き割りどんぐりをご飯に混ぜた長崎の対馬地方の郷土料理「どんぐりご飯」や、アク抜きしたどんぐりにきな粉と砂糖をまぶした岩手の「どんぐり菓子」、どんぐりのデンプンを使った葛餅のような物は、高知の「かしきり」や九州の「樫の実こんにゃく」という形で伝えられています。渋味、苦味をうまく活かしたものとして、スライスしたどんぐりをローストして煮出した「どんぐりコーヒー」も美味と言われます。最近は入手が困難になりつつあるのかもしれませんが、試してみるのも一興のように思えてしまいます。
第651回 カプセルカメラ
2006年11月13日
某市立病院の事ですが、健康診断に行こうとした際、来院した人が相次いで気分が悪くなると言って脅された事があります。原因は胃を検査するための「胃カメラ」で、ベテランの顔と新人の腕を持つ検査技師の方の不適切な操作によって、午前中に検査を終え、午後は普通に仕事に就く予定の人の多くが早退を余儀なくされたと聞かされた事があります。
かつて胃カメラは、かなりの苦痛を伴う検査として知られていました。最近ではカメラ自体の小型化や性能の向上、麻酔技術の発達によって、以前ほどの苦痛は無くなったと言います。CCD(電荷結合素子)カメラやLED(発光ダイオード)光源、デジタル解像技術などの発達によってカメラがどんどん小型化していく事は、容易に想像できます。
そんな小型化技術の一環として、薬の錠剤などのように飲み込む事で使う国産初のカプセル型内視鏡の製造販売承認が、年内を目途に厚生労働省に申請が出されています。カメラなどのメーカーとして知られたオリンパスの子会社であるオリンパスメディカルシステムズによるもので、早ければ2008年にも承認が取得され、発売が可能となるそうです。
このカプセル型のカメラは長さ2.6cm、幅1.1cm程度のプラスティック製カプセルに、CCDカメラと光源となるLED、取得した情報を送信する無線送信装置を内蔵したもので、飲み込んだ後、体内をゆっくりと移動しながら画像を撮影、送信する事となります。画像を逐一送信する機能はあるのですが、無線による操作はできないという事なので、通常であれば飲み込んだ次の日には仕事を終えて、体外へと排出される事になります。これまで検査に用いられてきた胃カメラなどのチューブ型内視鏡が届きにくい小腸の検査に有効とされ、既に臨床試験は終えていると言います。検査がより的確に負担無くできるという事で、発売を楽しみにしたい技術ではあるのですが、回収や再利用など、あまり考えたくない事も素朴な疑問として残ってしまいました。
第650回 下戸大名
2006年11月10日
歴史小説や軍記物を読んでいると、主人公や武勇で知られる人物は酒に強いというイメージで描かれています。物語中で酒宴が行われていても、酔って失態を演じる場面はなく、どれだけ豪快に飲んでいても何か事が起こると、すぐに真顔に戻る姿は定番のように出てきます。そんな歴史小説の中で不動の人気を誇る織田信長も、酒好きとして描かれています。
信長公というと、酒宴が進み、ほどよく酔ったところで得意の敦盛を口ずさみながら舞うという姿や、浅井長政らの頭蓋骨に金箔を貼ったものを杯として飲んだり、飲めない明智光秀に脇差を突き付けて大酒を飲ませたというエピソードが有名ですが、実は酒を飲まない人だったという説があります。若い頃、酒の飲み方が判らず、かなりの量を飲んで悪酔いし、以降酒を飲まなくなったと言われ、歴史上のイメージとかけ離れた一面となっています。
信長公について信頼できる資料を多く残したとされる宣教師ルイス・フロイスによると、「酒は飲まず、食を節し、人の取扱いはきわめて率直」としています。甘党であったとも言われ、フロイスからフラスコに入れた金平糖をもらって喜ぶ姿も記録されています。茶道への傾倒も新たな権威、価値観の創出という目的もあった事が言えますが、着眼のきっかけには酒が飲めないゆえにという考え方もできます。
後に明智光秀によって討たれる信長公ですが、酒を強要し、恥をかかせた事が原因とも、飲めない事から光秀が酒宴を中座した事を酷く叱った事が原因とも言われ、酒と信長公の生涯は深い関わりがあるように感じてしまいますが、さまざま文書の中から感じられる姿は、度々酒宴を催し、自らは飲まなくても人に飲ませて楽しんでいるというのが実情のようです。少なくとも脇差を突き付けての強要や頭蓋骨の杯は、江戸時代に入ってからの創作が元になっており、家康公の温厚な人柄を際立たせる目的があったと考えられ、事実無根のように思えます。酒好きではありませんでしたが、好奇心は人一倍旺盛なので、ワインを最初に飲んだというエピソードはありえる事のように思えます。バナナを食べた最初の日本人という事も合わせ、戦国の革命児は食の世界でも革新者であったと言えます。
第649回 顔面移植
2006年11月09日
顔を移植して別人となる・・・SFやスパイ小説などの題材となりそうな話ですが、実際には難しい問題が多くあります。しかし、昨今の移植技術の向上から、まったく不可能な事ではなく、今のところ全面ではなく一部に限られていますが、施術例も既に数例報告されています。もちろん移植手術以外に回復の方法がないほど、顔面に損傷を受けた場合に限られ、手術後も他人ではなく本人のままで生活しています。
世界初となった部分的顔面移植手術は、2005年11月にフランス人の38歳の女性に行われています。彼女はペットの犬によって顔面に損傷を受け、鼻と顎、唇の移植手術を選択する事となり、移植学会において大きな論議を呼ぶ事となりました。さまざまな論議の後、倫理的、良識的にもこれ以上議論の余地がないという見解が出され、移植手術が施行されました。術後、一時拒絶反応が見られたそうですが、回復し、習慣だった喫煙を始めた事から、血行が阻害され、回復が妨げられるのではと危惧されたという後日談も伝えられています。
その後、中国で熊に襲われ、顔半分と腕、足に大きな損傷を受けた青年に2例目の移植手術が行われ、フランス人女性よりも面積的に大きく、難易度も高かった事から話題となっています。この2例が公式に知られた顔面移植の手術例ですが、それ以前、フランス人女性の10年以上も前に顔面を移植する手術が行われています。ただし、事故によって損傷した本人の顔面を用いたものなので、厳密な意味での移植には当たらないのかもしれません。
1994年のインドで草刈機に巻き込まれ、顔と頭の皮膚を損傷するという事故が起こり、剥れた皮膚を本人の顔に戻すという手術が行われ、成功しています。移植とは、ある所にあったものを他所に移す事と定義され、臓器移植の場合、機能しなくなった臓器を取り去り、他の人の正常に機能している臓器を用いて置き換え、機能を正常化させる治療法とされるので、技術的な難易度はそれほど変わらないにしても、顔面移植例には数えられていません。先日、英国で全顔面移植手術を実施する許可が行われていました。既に30件ほどの希望が患者から出されているそうですが、当初は4人ほどを選択し、半年おきに1人ずつ移植手術を行う予定とされています。手術によって他人の顔を移植されても、その下にある骨格や筋肉の形状が違うので、まったく同じ顔とはならないので、小説のようにはいかないかもしれません。
第648回 リスク判定
2006年11月08日
魚食はヘルシー、広く知られている事です。良質なタンパク質にカルシウムをはじめとする多彩な栄養素、DHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)などの必須脂肪酸も含み、魚の脂肪は体内に蓄積し難いので脂肪分が多い魚を摂り過ぎた場合でも、肉類よりはヘルシーだと言われます。価格が高く、調理が面倒、食べる際に小骨が気になるなどから魚離れが進んでいるそうですが、魚食を薦める声は多く聞かれます。
しかし、逆に魚食を危惧する声もあります。工場排水をはじめ日常の生活排水、化学物質の氾濫や焼却処分場などから出るダイオキシンが雨によって河川へ流入し、やがては海へと到る事で汚染が進んでいると考えられるからです。中でもメチル水銀の汚染は最近話題となってきており、摂取する魚の量を制限する意見も聞かれてきています。
そうした魚食ですが効用とリスクのどちらを採るか、判断に迷うところではあります。先日、米国医師会誌「JAMA」に掲載されたレポートによると、魚食によって得られるメリットは、汚染物質によるリスクを大きく上回るとされていました。鮭、鯖、鰯といった脂肪分を多く持つ魚はEPAやDHAを多く含み、それらから派生するオメガ3系の脂肪酸も健康に有効に作用すると考えられ、小児の神経系の発達を助けたり、成人でもコレステロール値の低下、心疾患の予防やアレルギーの軽減が期待できます。
今回の研究では、脂肪の多い魚なら、週1〜2回の摂取でも死亡率が17%ほど低下し、冠動脈疾患による死亡率は36%も低下することがわかったと言います。心疾患予防には、脂肪分の多い鮭を週1回、約170gほど食べるだけでも充分で、特に水銀の含有量が多いとされるオオサワラ、鮫、メカジキ、アマダイなどを避けると、週に340g程度の魚食がお薦めとされます。脂肪分の少ない魚を不健康な油で揚げるというケースについても言及されていましたが、その場合はメリットが打ち消されてしまう事もあるそうで、調理方法や魚種について注意が必要と考えられます。健康面でのメリットが大きく、伝統的な和食との関わりが深い魚食だけに、これ以上汚染が進まない事を切に願いたいと思っています。
第647回 新薬効発見
2006年11月07日
コレステロールというと、どのようなイメージを持たれるでしょうか。動脈硬化の原因であり、生活習慣の悪さのバロメーター、脳梗塞や心筋梗塞の原因、そんなところでしょうか。そのため血中コレステロール値は低く抑えられる事が望ましいと考えられ、コレステロールを多く含む食材を避けたり、一定数値を超えてしまった場合は、コレステロール生成の抑制剤を用いて数値の上昇を抑える試みが行われています。
スタチン(HMG−CoA還元酵素阻害薬)は有効なコレステロール抑制剤として用いられ、その発見は「動脈硬化のペニシリン」と呼ばれるほど画期的なものだったと言われます。肝臓内でコレステロールを生成する酵素の働きを阻害し、コレステロールを必要とする細胞が血液中のコレステロールを積極的に取り込むように仕向ける事で、強力に血中コレステロール値を下げます。一般名ではアトルバスタチンやプラバスタチンなど、数種類が存在しますが、総称してスタチンと呼ばれています。
血中コレステロール値に関しては、国や地域、時代によって正常と判断される値が変動するという一面を持っています。それは多数の健康者の血液を分析してコレステロール濃度の分布を調べ、その平均値と90%以上の人がその中に入る濃度の幅を計算して正常値と判断する値を算出しているからで、実際、総コレステロール値の正常上限を220mg/dlから240mg/dlに引き上げようという提案が2001年の日本動脈硬化学会で行われましたが、賛否両論のうちにうやむやになっています。
そのような状態の中で処方され続けるスタチンですが、日本で最も多く処方される薬剤とされ、売上高は2000億円に届く勢いで、2位の抗潰瘍剤のガスターを2倍以上も引き離しています。無駄という声も聞かれる中、最近の研究で喫煙者や元喫煙者の肺によい作用をもたらし、重度の頸動脈閉塞への効用もある事が示唆されてきています。肺の機能を計る一つの指標FEV1(1秒間に呼出できる呼気量)を測定すると、スタチンを使用する事で喫煙による肺機能の低下を5分の1程度に抑えた事や、閉塞性肺疾患を持つ患者の救急外来受信回数や入院数が減少した事が確認され、スタチンを治療に用いる事で肺疾患の進行を遅らせる可能性も考えられています。また、まったく別の分析では、スタチンを服用する事で、骨折のリスクが下がったという発表もあり、スタチンの応用範囲が急速に広がってきています。まだまだトップは安泰なようです。
第646回 スタンプ攻撃
2006年11月06日
身体には自己治癒力が備わっているので、ある程度の病気やケガなら放置していても自然に治るという事が期待できます。原因が細菌やウィルスにあるのなら免疫システムが原因となるものを取り除き、自己の修復力が元の状態に回復してくれます。しかし、世界的な感染症である虫歯は、放置しておいても自己治癒を望む事が難しく、悪化の一途をたどるだけという事にもなりかねません。それ故、虫歯は怖ろしい感染症という事ができます。
あまり意識されていませんが、虫歯は連鎖球菌であるミュータンス菌に感染した事によって引き起こされる感染症で、世界中で最も感染者の多い細菌性疾患となっています。ミュータンス菌の出す強力な酸によって歯が溶かされるため、放置していても修復される事はなく、歯科的治療が必要になります。印象としては、対症療法のみしか手立てがない感じでしょうか。
長い歴史と多くの患者、原因菌もはっきりしているのに、有効な対処法がないというのも虫歯という感染症の特徴かもしれません。一応、これまでに抗生物質や殺菌剤などを用い、口腔内のミュータンス菌を滅菌する試みは行われてきましたが、わずかでもミュータンス菌が残ってしまうと、また新たに増殖してしまう事から成功には至っていません。口腔内には善玉菌もいる事から、一様に殺菌を行う事は、口腔内の細菌数を一旦下げ、増殖能力に勝る菌の増加に繋がり、増殖能力が旺盛なミュータンス菌の増加という最悪の結果を招きかねない事でもあります。
そんなミュータンス菌に対し、新たな殺菌方法が考案されています。今回、新たに開発された抗菌治療法は、STAMP(特異選択的抗菌ペプチド)と呼ばれる分子を用いるもので、STAMPは破壊すべき種類の細菌へとSTAMP自体をを誘導する構造と、標的となった細菌を破壊する小さな「爆弾」にあたる構造という二重構造から成り立っています。その作用は早く、最初の実験段階でも30秒以内に無害な善玉菌を傷付ける事なく、ミュータンス菌を除去したと言われます。すでに人を対象とした実験に入っており、将来的には練り歯磨きや口内洗浄剤への利用も可能とされています。虫歯に限らず歯周病や口臭に関する最近を標的としたSTAMPも開発中という事で、実用化が楽しみな研究成果ではないかと思います。医学面全般での応用も考えられるので、今後の研究展開を楽しみにしています。
第645回 小なべだて
2006年11月02日
今年はいつまでも暖かく、鍋物という発想が出難い晩秋ではないかと思っています。鍋物というと温かい料理を家族や親しい人達で囲むという事で、「団欒」という言葉がよく似合い、日本古来の食文化のように感じられます。実際は鍋物が料理として確立されてからは200年程と、それほど歴史は深いものではなく、特に人気のあるおでんやすき焼き、ちり鍋などの普及には、幕末を待たなければなりません。
鍋に具材を入れ、調理しながら食べるというのは、合理的で原始的な食事スタイルのように思えますが、意外な意識が鍋物という料理の確立には障害となっていました。古来より鍋という調理器具は最も基本的なものであり、神聖視されていました。鍋の原形は中国の「鼎(かなえ)」とされ、鼎は中国では王室の礼器として使われていた事からもその事が伺えます。そのように神聖視されていた鍋を、直接箸でつつくという事は、当時としては考えられない事でもありました。
また、日本の正式な食事スタイルとして、料理を一つひとつ皿に分けて盛り付け、皿数や盛り付け方にも決まり事があったり、箱膳が普及してからは、都合の良い時間にそれぞれが食事を摂るという習慣も根付いていました。そのような状況の中、1643年に発刊された「料理物語」に「なべやき」という料理が登場します。なべやきは魚や野菜を味噌で煮て、鍋ごと食卓に出すというスタイルが採られています。調理こそ炊事場で行われていますが、今日の鍋物の原形と言えます。
その後、なべやきという画期的なスタイルは急速に普及し、1785年には「なまにへなうちになくなる小なべだて」の短歌が詠まれ、今日の鍋物の状況に近いものが伺えます。小なべだては現在の少人数用の小さな鍋の事ではなく、当時は囲炉裏にかける大鍋と区別して、食卓に持ち出せる鍋の事をそう呼んでいました。食卓でまだ生煮えなのに次々と食べられていく鍋の状態がよく判ります。そうした急速な普及の背景には、竪穴式住居の頃から培われてきた囲炉裏を囲むという文化があったように思えます。鍋の神聖視という障害があったとしても、家族や親しい人と囲むという形式の存在が鍋物文化を育ててくれたと考えています。
第644回 耐性菌拡大
2006年11月01日
時代劇の中で「労咳」という名前の不治の病が登場し、青白い顔色の人がひどく咳き込んだ後、血を吐くという特有の場面を子供の頃、奇異に感じながら見ていました。回りの大人達から教えられたところによると、それは結核という病気で、昔は治療法がなかったので非常に怖い病気だったというのですが、その当時すでに過去形になっていた結核菌の怖さは、本当はいまだに続いていると言う事ができます。
結核は結核菌によって引き起こされる感染症で、多くは空気感染によって呼吸器官に症状がでますが、それ以外にも髄膜炎などの中枢神経、リンパ組織や血液中に発症する粟粒結核、泌尿器、骨、間接などにも感染します。結核菌が感染するとさまざまな器官の細胞内に寄生するので、身体の免疫機能が宿主となった細胞ごと攻撃するため、広範囲に組織の破壊が進み、高い頻度で死に至ります。
抗生物質ストレプトマイシン発見後、治療法の確立、結核の根絶と思われていましたが、国民病と言われ先進国の中で突出した感染率を突出が、目立たない程度のレベルに下げただけにしかなりませんでした。原因は耐性菌の発生。ストレプトマイシンを用いた治療を行うと一旦は回復へと向かいますが、やがて症状が悪化をはじめます。結核菌が分裂する際、遺伝子の複製に失敗した突然変異体が発生します。通常は突然変異体は本来の結核菌との生存競争に負けて繁殖の機会を得られないのですが、薬剤によって本来の結核菌が大幅に殺菌されているので、競争する事なく繁殖の機会を得てしまいます。そうした流れに繋がらないように複数の薬剤を併用して用いる多剤併用療法が、現在の主要な治療法となっています。
しかし、近年多剤耐性菌の発生以降、多剤併用療法でも対処できない結核感染が増えてきています。先日、世界保健機構(WHO)の発表によると、東ヨーロッパやアジアを中心にこれまで確認されてきた薬剤耐性の結核菌より、さらに薬剤が効かない「超薬剤耐性結核菌」が広がり始めているそうです。新しいタイプの結核は、WHOと米疾病対策センターが今年3月に発表した結核調査の中で確認したもので、従来の薬剤耐性の結核は、治療の際に真っ先に使われるイソニアジドなど2種類の安価な抗結核薬が効かないだけでしたが、新タイプは第2次選択薬の半数以上が効かず、極めて治療が困難だと言います。WHOと米疾病対策センターの共同調査は2000年〜04年にかけて、世界の約1万8000例の患者から結核菌を採取して実施されたもので、薬剤耐性菌はその20%で確認された。超薬剤耐性菌は症例全体の2%とされ、日本は調査対象が少ないために、数値は公表されていません。人類と結核菌とのつき合いは、少なくとも1万年以上前の石器時代に遡ると言われます。そうした長い時間をかけて結核菌は、常に人間の免疫力と戦い続け、自己の生存に最も適した遺伝子構造となっていると考えられます。長い付き合い、そう簡単には縁は切れないのかもしれません。
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