« 2007年07月 |
コラムトップへ
| 2007年09月 »
第838回 身近で意外な割り箸問題(上)
2007年08月31日
前回、割り箸の話が出ましたので、もう少しだけ詳しい話をしたいと思いました。日本人は年間に200億膳の割り箸を消費しています。国民一人当たりでは200膳。国民全員がほぼ2日に1回は使用している計算になります。
かつて「割り箸は森林を破壊しているのか、守っているのか」という論争が行われた事があります。結論から言えば、森林を守ってきた割り箸は、やがて森林を破壊するものへと変化してしまったというところでしょうか。
林業にとって植林した木材の全てを育て上げ、伐採するという事はありえません。必ず途中で成長の良くない木を間引きして、森林を良好な状態に保つ必要があります。また、伐採した木は木材として利用可能な状態にするために加工を行います。そうして発生する間伐材や端材を利用して作られていたのが割り箸で、割り箸は本来利用価値の低い木材に価値を与えるものとなっていました。
しかし、安価な輸入品の割り箸が普及するようになってからは、国内で間伐材や端材を加工した割り箸の需要が減り、間伐自体を行うコストの捻出が危うくなっています。間伐を行えない森林は病害虫や風雪害の被害を受けやすくなり、日照が遮られる事で下草が育たず、少量の雨でも表層の肥沃な土が流されてしまい、森林自体が荒れる原因となってしまいます。
結果的に日本の森林の荒廃に繋がった輸入割り箸ですが、輸出元ではどうなのかと言うと、あまり良い状態ではありません。よく割り箸は熱帯雨林を破壊すると言われますが、実はそうではなく、ほとんど熱帯雨林の木材は割り箸には使われていません。
割り箸の材料になるのは、北方系のシラカバやアスペンなどで、中国の北部で伐採が行われています。伐採の対象となるのは天然林で、森林全体を伐採する皆伐方式が採られ、植林はほとんど行われていません。
そうして切り出された木材は大規模な生産工場で割り箸に加工されるのですが、生産技術がそれほど高くない事から、日本向けの規格に適合できない割り箸が相当数出来上がってしまいます。そうした粗悪品の割り箸が中国国内に安価に出回り、それまで割り箸を使う習慣が無かった中国でも割り箸の新たな需要を生み出し、森林伐採を加速しています。
最近、森林伐採の影響による大規模な水害のニュースを聞かされますが、深刻な被害の背景には、本来持続可能な産業であるはずの林業を、経済性だけに着目して蔑ろにしてしまったつけが回っている感じがしてしまいます。
第837回 身近なエコ
2007年08月30日
料理の種類やそれに合せた食器や調理器具は世界各地にたくさんありますが、料理を口元へと運ぶ食器はそれほど多くないと思います。その中にあって「箸」は、その機能において非常に優れた物ではないかと考えています。
皿の上に置かれたゴマ一粒をうまく摘み上げるという作業は、ナイフとフォークでは難しいものがあり、スプーンも単体では非常に苦労させられます。骨の付いた焼魚や煮魚を上手に取分けられるのも箸ならではと思います。
箸は「挟むもの」という意味から「はし」と名付けられたというものや、端の部分でつまむ事からその名が付けられたという説があります。また、橋や梯子のように並行に木が並ぶ事をはしと呼ぶ事から、その名が付けられたという説もあります。
古くは一本の細い棒状の物を折り曲げ、ピンセットのような形状をしていた事から、嘴(くちばし)を意味する「はし」が使われたという説もあり、どれも有力説として扱われています。
最近、飲食店などで備え付けの割り箸を使わず、自分専用の箸を持ち歩く人が増えていると言います。かつて割り増しは間伐材や丸太を木材として加工する際に出る、丸から四角い断面を切り出した四隅の廃材を使って造られていました。
その意味では廃物利用で良い物だったのかもしれませんが、価格が安価な輸入品に押され、国内産の割り箸はわずかな数になってしまっています。
安価な輸入品の割り箸は、大規模な伐採によって大量生産されているため、割り箸を消費しない事が環境保護に繋がるとして、自分専用の箸を持ち歩く運動に繋がっています。
箸を携帯する運動の広がりに合せ持ち歩きやすいように二つに別れ、真ん中あたりでネジなどで繋いで使用する専用の箸が売り出されています。どことなく便乗した新たな市場の創出のようにも思えなくもないで、普通の箸を持ち歩けば充分なように思えてしまいます。とりあえず手軽にはじめられる環境保護運動ではないでしょうか。
第836回 二足歩行の謎
2007年08月29日
最近売れ筋の健康食品に関節痛に関するものがあります。関節を修復する材料となる物に、その助けをする成分を合せた物が製品化され、売られているのですが、その売れ方を見ていると、関節痛、特に膝痛、腰痛に悩まされている人が多い事が伺えます。
関節はそれほど修復力に富んでいない事もあって、長い時間をかけて負担がかかる事で、磨耗などによる変形や関節内の成分の硬化などが見られます。特に膝や腰には体重がかかっている事から負担が大きく、痛みを持つ人が増える原因ともなっています。
それだけ膝や腰に負担をかける二足歩行ですが、先日、人類が二足歩行をする理由を消費エネルギーの小ささにあるとした研究レポートが発表されていました。
他の霊長類のように手を地面につけて四足歩行を行うより、二足歩行をした方がエネルギーの損失が少なく、進化の過程において充分な食料に恵まれなかった中では、そうしたエネルギー節約も必要であったのではとしていましたが、どことなく懐疑的な目で見てしまいます。
四足歩行か二足歩行かという選択がいつでも可能な状態であれば、エネルギー損失が少ない方を選ぶ事も納得いきますが、それまで四足歩行していたものが、慣れない二足歩行に切り替えるには大きなエネルギーが必要です。
今は慣れてないから大変だけど、やがて慣れてきて、身体も進化して二足歩行に適した形に変わるから、将来の子孫のために頑張る・・・かなり説得力に欠ける事でもあります。
人類が二足歩行を開始した理由については、いまだ謎の部分を多く残しています。アフリカから始まった事は化石によって確認されている事から、アフリカの熱帯雨林が気候の変化によってサバンナへと変化し、それに合せて樹上生活をやめた事が原因とも言われていますが、熱帯雨林の減少時期との関連性が明確ではないため、サバンナ適応説は根拠が確かなものとはなっていません。
二足歩行のはじまりに関しては諸説がある中、今のところもっともらしく見えるのは、アクア説と呼ばれるもので、海岸で生活するようになり、海面から顔を出すために直立姿勢となった事が二足歩行発生の理由としています。
他の霊長類とは異なり、頭だけに豊かな体毛(髪)がある事も、海中で濡れる体毛よりも皮下脂肪で体温を調整し、直射日光に曝される頭頂を保護する意味から発生したという事や、体毛の毛穴の向きが水の流れる方向に合せてあるという事にも説得力を感じてしまいます。
常に水に浮いているのであれば体重が膝や腰に負担をかける事もないのですが、陸上生活では重力の影響をもろに受けてしまいます。将来的な事も考え、少しでも負担をかけないように、常に姿勢をよく保つ事を心がけたいと思います。
第835回 難燃性危機
2007年08月28日
以前からハウスダスト、特に綿埃に家電製品で使われている難燃性化学物質が含まれ、健康を害する危険性がある事が言われてきていました。電気が流れる事で熱を発生してしまう家電製品の回路や、うっかりタバコなどを落としてしまうかもしれないカーペット、家具などには、燃えにくい化学物質が塗布されていて、それが熱などで気化したものが綿埃に含まれている可能性が高いとされます。
燃えにくいという事は、化学的に安定しているという事でもあり、環境中に長い時間残留し続ける事でもあります。以前は悪名高いPCB(ポリ塩化ビフェニール)が使われていましたが、代わりにPBDE(ポリ臭化ジフェニルエーテル)が使われています。
このPBDEが意外な弊害を発生させている可能性が示唆されてきています。飼い猫に多いとされる原因不明の甲状腺機能亢進症は、高齢の猫に最も多い致死性の疾患とされてきました。その甲状腺機能亢進症発生にPBDEが関わっている可能性が高い事が明らかになってきています。
猫は念入りに身繕いをする習性を持っています。PBDEを含んだハウスダストが風などで舞い上がったり、家具の上や隙間などに猫が入り込むなど、さまざまな場面で猫の体に綿埃が付着する可能性があります。それを身繕いで体内に取り込んでしまう事で、猫のPBDE汚染が起こると考えられています。
また、缶入りのペットフードからもPBDEは検出されており、甲状腺機能亢進症の疾患を持つ猫は、若い疾患のない猫と比較して3倍ものPBDEの血中濃度を記録している事も確認されています。
猫の甲状腺機能亢進症が見られるようになったのは約30年前とされ、家庭用品にPBDEが使用され始めた時期とほぼ同じとなっています。猫よりもはるかに汚染の危険度が低い人間の間でも罹患者が増えている事からも、油断できない脅威となっているのかもしれません。
第834回 農場へ行こう
2007年08月27日
消臭剤大国・・・日本ほど消臭剤が売れている国はないと言います。日本人は潔癖症、そう言われる事を裏付けるかのように、私達の回りには抗菌グッズが溢れ、日常生活は清潔なものになっています。
そんな生活の清潔さが向上するにつれ、何らかのアレルギー疾患を持つ子供が増えたとも言われます。「衛生仮説」と呼ばれる仮設では、細菌への接触が少ない環境で過すほど、アレルギーの発症リスクが高くなるとされています。
衛生仮説に基くと、多くの細菌が存在する環境下で生活する事によって、アレルギー疾患の発症リスクを軽減する事ができる事になります。実際はどうなのか。先日、一つの研究結果が発表されていました。
潰瘍性大腸炎を患った子供約300人、クローン病を患った子供約450人という炎症性腸疾患の子供と、どちらも患っていない健康な子供約1500人の合計約2250人の子供を対象に、それぞれの親に問診を行ったところ、炎症性腸疾患の子供は、発症以前に農場などで過した時間が極めて少なく、1歳までの一定期間を農場で過した子供の発症率は、そうでない子供に比べて潰瘍性大腸炎で60%、クローン病で50%も低くなっている事が判ったと言います。
今回の研究では、特に牛との接触が有効とされ、潰瘍性大腸炎で70%、クローン病で60%の発症リスク源が確認されたそうです。免疫学の世界では、ペットの犬や猫との接触によって自己免疫疾患の発症リスクを軽減させる研究が行われていますが、炎症性腸疾患に関しては牛の方が、より発症リスクを低いものとしてくれています。
ペットの犬や猫よりも農場の牛の方が有効という結果を示した事については、人と同じように清潔な環境で生活するようになったペット達よりも、農場の牛の方が細菌類に接触する機会が多いためと考えられています。
衛生面の向上が先進国の健康に貢献してきた事は事実であり、自己免疫疾患の発症リスク軽減のみでそれを否定する事はできないと思いますが、もう少し子供は野生の環境にいても良いのかもしれない。そんな事を考えさせられる研究結果です。
第833回 破裂菓子
2007年08月24日
先日、遠くで夕方の蜩が鳴く声を聞いていたところ、何処からともなく爆竹の音が聞こえてきて、懐かしい子供の頃を思い出してしまいました。子供の頃、近所の駄菓子屋でも10束ほどが入った小箱が売られていました。
爆竹は花火の一種ではありますが、一般的な花火がゆっくりと反応する火薬を用いて火花を楽しむ物である事に対し、爆竹は比較的早く反応する火薬を紙筒などに封じ込め、急激に火薬が燃焼して膨張する圧力を厚紙などで一旦押さえ込み、やがて厚紙が耐えきれなくなって一気に破裂する際の音を楽しむ物となっています。
爆竹の急激に膨張する力を強度に一定の限界がある素材で一旦押さえ込む事によって、より強力な破壊力を生み出すというメカニズムはダイナマイトと同じなのですが、食べ物にも同じ手法で作られている物があります。
映画館や夏祭りの出店で見かける「ポップコーン」は、内部の水分が熱されて水蒸気となり、急激に膨張するエネルギーをトウモロコシの硬い皮で押さえ込み、弾ける事で独特の形状と食感を作り出しています。
単純に乾燥させたトウモロコシの粒を加熱する事で、元の大きさの30倍もの体積に弾けて出来上がるみたいに見えますが、全てのトウモロコシが弾ける訳ではなく、構造的に粒全体が硬質のデンプン質に覆われ、中心部の胚の両側にわずかに軟らかい水分を含むという必要条件があります。
日頃、スーパーで見かける茹でたり焼いたりして食べるトウモロコシはスイート種と呼ばれる物で、乾燥させて加熱しても弾ける事はほとんどありません。ポップコーンに使われる品種は、「爆裂種」と呼ばれる専用の物で、その名の通り弾ける事に適した構造を持っています。
似たような性質のお菓子で米などから作られる「ポン菓子」も知られていますが、こちらは穀類膨張機と呼ばれる専用の圧力釜で非常に高い圧力をかけておいて、一気に蓋を開放する事で急激に減圧し、素材の内部の水分を膨張させて加工しています。その意味ではダイナマイト、爆竹、ポップコーンとは異なる物と言えるかもしれません。
軽く、弾力性に富み、食べても大丈夫という事で、一時期海外から輸入すると緩衝材として入ってくる事があり、使用後は鳥にでも食べさせて下さいというユニークな説明書きが袋に添えられていた事もあったのですが、最近はほとんど見なくなってしまいました。最近は味のバリエーションも増え、郊外型の映画館で売られているようなので、少し高級品になったのかもしれません。
第832回 懸念、感染爆発
2007年08月23日
日頃からあまり肉類とは縁が無いのですが、あえて食べなければならないのであれば、食べやすさから鶏肉を選んでしまいます。お薦めの肉類はと聞かれると、栄養的に豚肉を選ぶと思います。
一般的なスーパーの売場では、牛、豚、鶏の精肉が売られていますが、牛はBSE(牛海綿状脳症)、鶏は鶏インフルエンザなどの感染症の影響が懸念されていました。そんな中にあって豚には深刻な感染症の話が出てなかった感じがするのですが、そんな豚にも大変な感染症の報告が隣国の中国で行われていました。
中国農業省獣医局の発表によると、豚のウィルス感染症である「豚繁殖・呼吸障害症候群(PRRS)」の感染が中国全土の省、自治区、直轄市に拡大し、今年だけで25万7000頭が発症し、17万5000頭が処分された事を明らかにしています。
中国産食品のイメージダウンを怖れて正式な発表を大々的に行わなかったと言われていますが、感染は既に昨年から問題視されており、昨年は全国の10省で40万頭が病死し、感染の拡大が続く今年5月には2000万頭が感染したと業界関係者がコメントしています。
豚肉の需要拡大によって価格が高騰する傾向にあったものが、急な品不足が続いた事への批判が高まり、発表された事ですが、昨年初めに全国で6億8100万頭いた豚が、今年の初めには4億6700万頭にまで激減していると言われます。
豚の激減に関しては、PRRSのみによるものではなく、世界的な飼料用トウモロコシの高騰による経営の圧迫から廃業する養豚業者が相次いだという事情もあるそうですが、豚肉の供給不足、価格高騰を見込んだヤミ業者による病死豚肉の流入も相次いでいるとの事で、食の安全に対する脅威となっています。
PRRSの原因となるウィルスは非常に感染力が強く、接触感染や空気感染といった水平感染ばかりでなく、母子間の垂直感染も起こり、常在化しやすく駆除が非常に困難とされます。中国は世界第4位の豚肉輸出実績があります。今後、感染の拡大が大いに懸念されます。
第831回 肥満懸念
2007年08月22日
暑い日が続くと食欲も下がりがちになってしまいます。そんな暑い中でも食べれそうな物で、カルシウムが豊富。良質のタンパク源で脂質、ビタミンA、ビタミンB郡もバランスよく含んでいる。そんなヘルシーな食べ物があります。
それは「アイスクリーム」というと、そんな馬鹿なと言われてしまいそうですが、栄養成分的に見たアイスクリームは優れた点をたくさん持っています。
糖分、脂肪分が多く、カロリーが高くて肥満に繋がる、そんなイメージがアイスクリームにはあります。しかし、原料となるミルクは卵と共に完全栄養食と並び称されるほどの優れた栄養を持ち、一般的な乳脂肪分8%の製品を見た場合、100gで一日に必要なカルシウムの20%をまかなう事ができ、乳製品由来のカルシウムという事で、消化吸収にも優れています。
気になるカロリーも100gあたり180kcalで、アンパン一個の220Kcalよりも少なく、血糖値を上げにくい性質を持っています。摂取した食べ物で血糖値がどのくらい上がりやすいかは、グリセミック指数で表されます。アイスクリームのグリセミック指数は36.ジャガイモやチョコレートの約半分となっています。
血糖値が上がりにくいという事は、脂肪細胞にエネルギーを蓄積させようとする働きが弱いという事で、肥りにくい食べ物という事ができます。さらにアイスクリームは温度が低い事から、食べた後、体温が下がってしまい、それを元の体温に戻すためにエネルギーを消費してしまいます。
そのため、実際のカロリーよりも体内にエネルギーとして蓄えられる数値は少なく、肥りにくい傾向をさらに強くしています。そろそろ不健康イメージが和らいでくれればと思っています。
第830回 真犯人発見?
2007年08月21日
人は情報の約8割を目から得ているので、失明するという事は日常生活を維持していくという上で、非常に怖い事でもあります。失明に繋がる疾患として緑内障の存在は、広く知られたものの一つではないでしょうか。
かつて緑内障は40歳以上の人の30人に1人の罹患率とされていましたが、最近の疫学調査では40歳以上の17人に1人が罹患しているという結果が報告されている事から、増加傾向にある事が伺えます。
原因としては、何らかの理由で眼球内で産出される液体、房水が外部に排出されにくくなり、眼球内圧力が上がる事で視神経を損傷するためとされ、一度損傷した視神経は回復する事がありません。
そのため、日頃から眼圧の検査を行い、眼圧が高い場合、それを下げる治療が行われているのですが、緑内障患者の多くに眼圧が正常なケースも見られています。最近の調査では、その数は全体の半数を超えるとも言われ。眼科医の中でも大きな謎とされています。
その謎の答えとなるかもしれない物として、「アミロイドーβ」というタンパク質が注目されています。アミロイドーβはアルツハイマー病の原因物質として研究が進められていましたが、アルツハイマー病患者に緑内障に似た網膜の細胞死が見られた事から、その関係に着目される事となりました。
実際に死滅した網膜細胞を観察すると、アミロイドーβの蓄積が認められ、培養した網膜細胞にアミロイドーβを添加すると細胞死が誘発される事も確認されています。アミロイドーβの生成経路を阻害する薬剤を使用すると、網膜細胞の損傷が軽減し、細胞の寿命が延長したとも言われているので、緑内障への新たな取り組みに繋がるものではないでしょうか。今後の展開に大いに期待したいと思っています。
第829回 竈と甘味料
2007年08月20日
高校生の頃、信州の山の中を走る車の中で、周辺に自生しているきれいに紅葉した木についてさまざまな話を聞かされた事があります。その中で最も印象に残った話に、「ナナカマド」の名前の由来がありました。
ナナカマドは非常に硬い木で燃えにくく、七度も竈で焼いても灰にならないという事からその名が付いたと聞かされ、それほど硬そうに見えない木の質感に違和感を感じながら、面白い話として記憶に残っています。
その後、似たような感じでナナカマドの名前の由来に関する別な話を聞かされ、更に興味を深められた事があります。竈で七回焼くと良質の炭になるのでという説や、食器に使うと丈夫で壊れにくく、竈が七回ダメになるくらいの間、長持ちして使用できるという話もありました。
そんなナナカマドが由来となって名前が付いた物があります。ナナカマドはフランス語で「ソルベ(Sorbe)」と呼ばれ、9月頃には真っ赤な実を付けます。その実の中から見つかった糖アルコールが、ナナカマドの名前から「ソルビット」と名付けられています。
ソルビットは、発見されてしばらくは高価な甘味料として取引されていましたが、その後、ジャガイモやトウモロコシのデンプンを加水分解して作られるブドウ糖を原料にするようになってから、価格的に安定するようになり、甘味料や保湿剤、柔軟材、タンパク質の変質防止剤などに広く使われています。
最近、代替燃料としてエタノールが注目されるようになって、原料となるジャガイモやトウモロコシの急騰が伝えられています。ソルビットも全体の製品価格を押し上げるほどの含有量ではありませんが、確実に余波を受けて生産コストが上がっている事が考えられます。
水に溶ける際に吸熱効果がある事から、甘味を感じると同時にひんやりとした冷たさを感じるソルビットも、温暖化の影響を受けている物の一つと考えると、信州の山中で霧の中に佇む紅葉したナナカマドの姿とは、あまりにかけ離れ過ぎた世界の事のように思えてしまいます。
第828回 煎酒
2007年08月17日
今年から梅干しを漬けはじめました。いつかはチャレンジしたいと思っていた事の一つでしたが、なかなかきっかけがないままになっていて、思い切ってという感じではじめました。やってみると結構楽しいものがあります。
あまり塩分がきつくない方が好みなのですが、初心者が始めるには塩分を下手に減らさない方が良いという事と、大きい梅を使う事が失敗が少ないと聞かされていましたので、通常の塩分濃度、梅の大きさは見かけた中でも最大クラスの物を購入して取り組む事としました。
大きい梅を使うと梅のエキス分とも言える「梅酢」が、塩の浸透圧でよく搾り出されて上手に「水が上がった」と言われる状態になると言います。実際、今、梅は大量の水分に浸った状態にあり、最後の仕上げの土用干しを待っています。
梅干しの利用法となると、直接食べるか梅肉和えといった事が浮かび、あまり用途的には広くない感じがします。ほとんどの利用法には「梅」の文字が入り、すぐにわかるのですが、中にはまるで別物ような名前の物もあります。
「煎酒」もその一つで、一見お酒の飲み方の一つのように見えますが、古くから伝えられた調味料で、特に室町時代の末期から江戸時代にかけて日常的に醤油のように使われていました。
江戸時代を代表する料理書の一つ、「料理物語」には煎酒の造り方が、「鰹の削り節一升に梅干し15から20個、古酒二升と水少々、たまり醤油を少し入れ、それが一升程度になるまで煎り、漉して冷ませばよい」と記載されています。
煎る事で酒のアルコール分を飛ばしながら旨味を残し、梅干しの酸味と塩分、風味に鰹節の旨味が加わった古典的な旨味調味料である事は理解できるのですが、江戸時代の終わりが近付く頃には、醤油が安く作られるようになった事もあって、煎酒は姿を消してしまっています。
最近では復刻された物が出回り始めているとの事ですが、美味しく梅干しが出来上がったら、先人達の知恵に敬意を表しつつ試してみるのも良いかもしれないと思っています。
第827回 同じ物...?
2007年08月10日
先日、スーパーのスパイス売り場でチューブ入りの「ホースラディッシュ」が売られているのを発見し、ちょっと複雑な気分になってしまいました。
ホースラディッシュは西洋ワサビとも呼ばれ、その他、レフォール、山ワサビ、ワサビ大根などとも呼ばれます。ワサビの名で呼ばれてはいますが、本来のワサビとは同じアブラナ科というだけで別な植物となります。
日本では北海道に多く自生していますが、普通に畑で栽培する事ができ、繁殖力が強く、肥料や農薬もほとんど必要としません。8ヶ月もあれば収穫する事ができ、連作も可能なので本ワサビと比べると非常に安価で取引されています。
高さは1mにもなり、根茎も30cmくらいに成長するので、本ワサビと比べてもかなり大きく、大量に収穫できる事が伺えます。
本ワサビのようにすりおろすと白っぽい色で粘りが少なく、香りや辛味もどちらかというとマイルドになっています。イギリスではよく使われる香辛料となっていて、ローストビーフの付け合せには欠かせない物と言われます。
日本では本ワサビの価格が高い事から、練りワサビの原料や乾燥して粉末にした物を水で溶いて使う粉ワサビの原料としてホースラディッシュを使っています。市場に出回っている本ワサビは栽培された物とはいえ、すりおろした物をチューブに入れるとなると、かなりの価格になってしまう事が想像できます。
本ワサビ使用と書いてはあっても、価格的に見て比率的にホースラディッシュが大半を占めている事は明白です。あえてホースラディッシュとして売る必要があるのか、どことなく不思議に思えてしまいます。
第826回 精米歩合
2007年08月09日
精米された米は炊き上げる前に研ぐ事で、表面に残った糠や汚れを除いて旨味は流してしまわないようにする必要があります。ところがさらに表面を削り、完全に糠などを除いて使う事があります。
玄米からどれだけ表面を削ったかは、白米の玄米に対する重量の割合、「精米歩合」で表す事ができます。銘柄にもよりますが精米歩合が40%、表面から60%にもおよぶ重量を削り落とした白米が使用され、日本酒は造られています。
玄米の胚芽や表層部分にはタンパク質をはじめ、脂肪、ビタミン類、ミネラル類などの栄養や旨味成分となるアミノ酸を多く含んでいます。日本酒を醸造する際は、それらが酵母の栄養となりますが、多過ぎるとかえって雑な成分が増える事となり、日本酒に色が付いたり苦味が生じたりする原因となってしまいます。
そのため、すっきりとした風味と透明感の高い日本酒を作るためには、表層からかなり大幅に削る必要があります。逆に精米歩合を下げて表層部を多めに残し、アミノ酸や有機酸を多めに含まれるようにして作る場合もあります。
料理酒は日本酒と基本的に同じ物でありながら、色合いや味が異なっています。その最大の違いが原料の精米歩合にあり、精米歩合を低くする事で旨味成分を多く含ませ、料理を美味しく仕上げられるようにしています。
また、酒税法の規定により塩分を2%以上添加された料理酒は、飲用が不可とされて酒税の対象外となる事から、塩分が加えられる事もあります。塩分と同時に旨味調味料も加えられる事もあり、そうなると完全に飲用する日本酒とは異なる物となります。上等な吟醸酒を料理に使うと、かえって風味が料理の邪魔をしてしまう事もあるので、やはり適材適所という事なのでしょうか。
第825回 甘味変化
2007年08月08日
塩に続き砂糖の話です。砂糖というと台所にある薬というちょっと変わった印象を持っています。薬の定義を「飲用したほとんどの人に同様の身体的作用が生じる」とした場合、砂糖を摂取すると誰でも等しく血糖値が上がるという確実な変化が生じるからです。
砂糖は料理に甘味を加えるだけでなく、艶やかなテリを出したり、飾りつけにも使われています。それ以外にも砂糖は加工の仕方によってさまざまに姿を変え、幅広い用途を持っています。
砂糖の加工に関しては、加工時の温度によって質感が変わり、それぞれに名前が付けられて用途が分かれています。最も単純なのが砂糖に水を加えて100度くらいで加熱して煮詰めたもので、シロップとして使われています。
更に15度ほど温度を上げた115度付近にまで加熱すると、細かいたくさんの泡が立ちはじめ、冷ますとわずかに糸を引く粘りが出てきます。この状態はフォンダンと呼ばれ、お菓子の上掛けとして使われます。
125度付近の温度で加熱し、砂糖にミルクやバターを加えておくと粘りのある立体的な泡が立ちはじめ、冷まして切り分けたものはキャラメルと呼ばれるようになり、同じように135度まで加熱して、50cm近くの長い糸を引くようになるとヌガーと呼ばれるようになります。
155度では粘りのある細かい泡が見られてドロップを作る事ができ、180度まで上げると焦げが入って全体に色が付き、プリンの上掛けなどに使われるカラメルとなります。砂糖は焦げやすい素材でもあるので、熱の管理が難しいのですが、質感の変化の豊かさには興味深いものがあります。
第824回 対比抑制
2007年08月07日
以前、知り合いからインスタントコーヒーを美味しくするコツとして、感じられない程度の塩を加えるという話を聞かされた事があります。二つの味を合せた際、片方の味はほとんど感じないのですが、もう片方の味を引き立て強調してくれる効果を「対比効果」と呼び、料理の世界では広く使われている事でもあります。
対比効果について一番直接的な感じがする例としては、スイカと塩の例が思い浮かびます。甘いスイカに少量の塩をかける事で、より甘さを強く感じようになります。同じような手法はお汁粉や餡子、甘酒にも使われています。
少量の塩を利用して甘味を引き出すという手法は和菓子に限った事ではなく、フランスのお菓子「クイニーアマン」でも、あえて使用するバターを無塩ではなく有塩の物にする事で、砂糖の甘さを引き立たせています。
塩は対象的な甘味を引き立たせるだけでなく、他の味覚、旨味なども強調する働きがあり、隠し味として少量の塩を加える事で、ダシの味がよくなる事は広く知られている事でもあります。
また、塩には味覚を強調するだけでなく、逆に抑制する働きもあり、それらは「抑制効果」と呼ばれています。僅かに塩を加える事で強い味が抑えられ、まろやかな味わいに仕上げる事ができます。
酢の物に少量の塩を加える事で、強い酸味の刺激が抑えられ、柔らかい味わいになります。同じ効果はリンゴを塩水に漬ける事で、茶色く変色する事を防ぐだけでなく、リンゴの酸味を抑えて甘味を感じやすくする事でも判ります。
柑橘系の果物に少量の塩を添えたり、ゴーヤの調理に塩を用いる事は、素材の苦味を抑えるという塩の抑制効果を利用したものでもあります。塩というと、最近悪者視され続けていますが、上手に活用すると非常に重宝する物でもあります。うまく生活に取り入れていきたいものです。
第823回 別容量
2007年08月06日
元々、胃腸に自信がない事もあって、一度にたくさん食べないようにしています。間食も一切しないので、決められた時間に、決められた量を食べているという感じでしょうか。
お腹いっぱい食べた後、予期せぬ美味しそうなデザートが出てきた際、「別腹」という発言を聞かされる事があります。私的には食物が入る場所も容量も一定なので、追加で何かが食べられるという事はなく、まるで胃袋に別なポケットが用意されていたかのような別腹という言葉を奇異に感じる事さえあります。
実際、別腹といっても別に消化器官がある訳でもなく、緊急時のために胃袋のどこかに容量が確保されている訳でもありません。難しげな言葉で言うと「感覚特異性満腹」、それが別腹の正体だと言われます。
脳内には神経状態をコントロールする物質として「βエンドルフィン」があります。βエンドルフィンは好きな食物を摂る事でより多く分泌され、中枢神経に快感を認識させます。
満腹という感覚は、胃袋の中にどれだけ食べ物が入ったかによって脳が作り出す、いわばバーチャルなものと言う事ができます。満腹中枢が満腹と判断すると、例え胃袋がほとんど空でも満腹と感じてしまいます。
お腹いっぱい食べたつもりでいても、実際に胃袋の容量には余裕があり、満腹中枢によって満腹という感覚が作り出されているにすぎません。そこに好きな食べ物が出される事でβエンドルフィンを求めた中枢神経によって、満腹中枢の満腹宣言が一部緩和され、別に容量が確保されていたかのように食べ物を受付られる状態にする、それが別腹の正体という事のなります。別腹とは無縁の私の満腹中枢は、かなり頑固なのでしょうか...。
第822回 診断リスク
2007年08月04日
とりあえずレントゲンでも撮っておきましょうか・・・病院の診察室で日常的に聞かれる言葉のような気がします。転んで捻挫などをしてしまった際は、骨に異常がないかレントゲンを撮影して診断を行います。
レントゲンはX線の照射装置とフィルムの間に体を置く事で、X線がフィルムの感光剤を黒く変色させ、骨などによって遮られた部分が白く写る事を利用して体内の常態を判断します。
通常の写真とは逆に黒く写った部分を「明るい」と言い、白く写った部分を「暗い」と表現します。骨ばかりではなく肺炎や腫瘍などもX線透過度が低い事から、フィルムに白い影を落とす事があり、その事から白い部分を「影」「暗い」と表現するようになっています。
最近では、さらに詳細な体内の画像が撮影可能なコンピューター断層撮影も行われるようになり、本来は断層のみの撮影であったものが画像処理技術の向上によって3次元グラフィックスとして表示する事も可能となり、「CT」と呼ばれて診断に用いられる場面も増えてきています。
先日、心障害を診断するためにCTをを用いた冠動脈造影検査によって、特に女性および若年層のガンリスクが増大するという気になる報告が行われていました。
CTはレントゲンと同じX線を用いて身体内部の映像化を行い、極めて優れた画像が得られるとされていますが、その一方で患者が多量のX線を浴びてしまう事は以前から指摘されていました。
冠動脈疾患を診察するためには冠動脈造影を行う必要があり、血管内にカテーテルを挿入して造影剤を送り込まなければなりません。血管内にカテーテルを挿入する事で、合併症を起こしてしまうと非常に危険な事にもなりかねないというリスクがあります。それに対しCTを用いた検査は感度もよく、緊急時でも速やかに行う事ができます。
これまで定量化されていなかったCTを用いた検査をコンピューターシミュレーションを用いる事で行い、64スライスのCT検査を行った際の放射線暴露による生涯ガンリスクの評価を行ったところ、若年層や女性のガン発症のリスクが高まる傾向が見出されています。
日本人は諸外国と比べ診断に安易にレントゲンをを撮る傾向があり、放射線への被曝率も高いと聞かされた事があります。仕方の無い場合を除き、健康を診断するために行う事でかえって健康を損なう怖れのある事は避けた方が良いのかもしれません。
第821回 老化抑制因子
2007年08月02日
私たちの体内では、日々無数のガン細胞が発生し、免疫によって除去されているので健康を維持していると言います。そうした大切な働きを担うものにガン抑制タンパク「p53」、細胞調整因子「Arf」などの働きが知られています。
p53は体内で生成され、ガン化するリスクの高い細胞を除去する働きがあり、Arfは細胞の状態を調べ、除去すべき細胞をp53に知らせる役割を持ち、両者が協力し合ってガン細胞の除去が行われています。
ガンの予防や治療を研究する上でこの二つの因子の存在は非常に重要である事から、遺伝子操作によってp53とArfを過剰に生成するマウスが研究に用いられていますが、何年も研究を重ねているうちにある興味深い事が判ってきました。
研究に用いられている遺伝子操作された過剰生成のマウスは、通常のマウスに比べ寿命が長いという傾向が見られます。ガンにならないという事を差し引いても平均して寿命が長い事が明らかだと言います。
p53とArfの働きは細胞の状態を判定し、不適合な細胞を排除するという「細胞の品質管理」にあたります。老化は細胞の欠陥品が蓄積した結果と考えられている事から、ガン細胞ではなくても不適切な細胞を排除する事で欠陥細胞の蓄積が起こらず、老化を抑制している事が考えられます。
あらゆる哺乳類が寿命の終わりに近付くと急激にガンのリスクが高まる傾向があります。今回の発見はその理由を裏付けるものであり、老化の抑制にも新たな道を開いたものと言えます。しかし、不老不死には簡単に結び付くものではなく、p53の働きを精密に調整するのは用意ではないと言われています。
第820回 嫌われ毒利用
2007年08月01日
前回、サソリ毒の有効活用について触れましたが、実はサソリ毒は別な面でもガン医療に役立つ可能性が示唆されています。
神経膠腫、特に頭蓋内にできるものは「脳腫瘍」と呼ばれ、脳内で分裂増殖し、到るところに移動する性質がある事から死亡率が高い悪性の腫瘍として知られています。
神経膠腫が脳内を移動する際は、細胞自体の容積を小さくして細胞間をすり抜ける必要があります。神経膠腫の細胞はその際、塩素イオンを細胞外へ流出させてサイズを小さくしようとするのですが、サソリの毒「クロロトキシン」はその塩素イオンの通り道に結合する特性があり、細胞の移動を抑制する効果がある事が発見されていました。
脳腫瘍の正確な実像を染め出すだけでなく、細胞が移動する事を抑制できるというのは、見つけたガン細胞を逃がさないという点で、その後の治療を有利に展開してくれる事が考えられます。
サソリと並んで嫌がられてしまう物と言うと、「蛇蝎のごとく」という言葉が示すようにヘビの存在があります。サソリだけでなく、ヘビに関しても毒を有効に使う治療法が考案されてきています。
ヘビの毒には血液の粘度を低下させる性質が見出され、脳卒中などの治療に使える可能性が指摘されています。
血液中にはフィブリノーゲンという成分があり、血液が血管外に出ると固まる性質を持っています。この働きによって怪我などによって出血しても、血がすぐに固まって失血しないで済むようになっているのですが、血管内でも稀に固まってしまう事があり、それが血栓となる事は広く知られています。
ヘビの毒は、そうしたフィブリノーゲンの凝固作用を弱める働きがあり、血液の粘度も下げてくれるので、血栓症の治療や予防などに使えると言います。
脳腫瘍に脳卒中、いずれも事前に発見する事が困難で、一旦自覚できるほどの症状が発生すると致死性が非常に高い疾患である事から、有効な治療法が開発される事は歓迎できる事です。これからは「蛇蝎のごとく役に立つ」と諺を改めなければならないのかもしれません。
|