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第976回 偶然産物
2008年03月31日
牛乳から作られる白い塊というと何を連想するでしょう。衝撃などを加えて乳脂肪分を固まらせたバター、酵素によってタンパク質を固形化させたチーズ、乳酸菌の発酵作用によってできた酸の力でタンパク質を固まらせたヨーグルトあたりではないかと思います。
乳製品の歴史の中でよく耳にする話で、アラビアの商人がヤギの乳を皮の袋に入れてラクダの背に吊るして旅をしていると、いざ飲もうとしてみても中からは透明な水のような少量の液体しか出てきません。不思議に思いながら中に残された塊を口にしてみると、思いもよらない味に驚いてしまうというものがあります。
ラクダは馬や牛と違い歩行する際、左右の足を同時に動かす習性があるので、優雅に歩いているように見えても背中はそれなりの揺れになります。吊るされた袋の中のヤギの乳も揺られ続けているうちに繰り返し衝撃が加えられ、乳脂肪分が固まってバターになっていたとするバターの由来説です。
また、同じ話でも皮の袋は羊の胃袋であった事から、胃袋にに含まれる酵素「レンニン」の働きによってヤギの乳に含まれるタンパク質を固め、砂漠の熱とラクダの歩行からくる振動が脱水してくれた事でチーズが出来上がっていたとするチーズの由来説としても語られる事もあります。
紀元前20世紀から15世紀頃のインドの仏典に「醍醐」という物が登場します。醍醐は最高の味とされ、現在でも使われている「醍醐味」という言葉の元にもなっています。この醍醐が文献に登場する最古のバターとされていますが、表現によっては最古のチーズとも判断され、中間的な物であまり明確に区別する事ができません。
その後、醍醐はヨーロッパへ伝えられるのですが、古代ギリシャでは意外と簡単に作る事のできるバターは「卑しい食べ物」とされ、食品というよりも体に塗る物として重宝されます。逆にチーズは「神の授け物」として珍重されます。
紀元前5世紀にヘロドトスが記した史記には、黒海北部でのバター生産の様子が書かれ、明確にバターとチーズの違いが存在するのですが、それ以前の記述が確認されていない事から醍醐の正体がどちらなのか、どのようにして発見され、どのように発展したのかを知る事はできません。アラビアの商人が食べたのは、本当はどちらなのでしょうか。
第975回 しゅんじゅん
2008年03月28日
生産技術や流通の進化によって、さまざまな食べ物に「旬」という概念が希薄になってしまっていたように思えます。しかし、最近の輸入食材への懸念の高まりを受けて、若干ではありますが、旬を感じやすい状況にはなってきてはいます。
スーパーへ行けば年間を通して同じような食材を手に入れる事ができ、旬とは無縁な感じがしてしまいます。それでも注意深く見ていると、季節によって若干値段が違っている事に気が付きます。
食材の値段は生産や流通のコストが反映されています。旬の時期は本来最も収穫に適した時期なので、わざわざ暖めたり冷やしたりして気温の調整を行ったり、過剰な肥料や病害虫対策の農薬を散布する必要もなく、遠隔地から運ぶ必要もないのでさまざまなコストを低く抑える事ができ、結果、旬の食材の価格は安めになってしまいます。
普段より安めだと思いながら購入した食材は、いつもより味が濃く、風味も豊かだったりして何倍も得した気分になってしまいます。旬を意識する瞬間です。
そんな「旬」という言葉は、食に関した事以外で見かける際は、「じゅん」と読む事の方が多いのではないでしょうか。上旬、中旬、下旬といった言葉が一番馴染みがあるように思えます。
本来、旬は「じゅん」と読み、一月を三分割して考える際に使われるように10日間を指す言葉となっています。漢音では「しゅん」となるので、単体ではしゅんと読まれてそれが現在でも定着している事となっています。
かつて旬の初めの日(1日、11日、21日)と月の後半が始まる日(16日)には、天皇が臣下から政務の内容を聞くための宴が催されていました。その宴の儀式が旬と呼ばれ、「旬政」「旬宴」「旬儀」などと呼ばれていました。
その後、旬の儀式は数が減らされ、平安時代中期以降は春と秋、4月1日と10月1日だけとなっています。4月の旬を「孟夏の旬」、10月を「孟冬の旬」と呼んで二つの旬を合わせて「二孟の旬」として執り行い、孟夏の旬には「扇」が贈られ、孟冬の旬には鮎の幼魚である「氷魚(ひお)」が贈られていました。
そうした習慣から、食材や物事のもっとも良い時期で限られた期間の事を「旬」と呼ぶようになっています。旬の食材にはその季節を乗り切るための栄養素が多く含まれている事があります。旬を意識して食材を選ぶ事は、食を通して元気を確保する工夫と言え、経済性も含め多くのメリットを持っている事ではないかと思っています。
第974回 身代わりの魚
2008年03月27日
あるところにとても美しい姫がいました。姫を一目見た暴れ者の風神は姫を気に入り、自分の嫁にと求めて毎日暴れ回りました。あまりの風の被害に困った人々は、ある魚を獲ってきて焼き、姫の葬儀を演出します。その魚の焼ける臭いと周囲の雰囲気から姫が死んでしまったと思った風神は、泣きながらどこかへと去っていき、風の被害は収まりました。
朝廷に謀反を起こした皇子が零落して東国へと落ちのび、東国の豪族の娘と恋仲になります。しかし、娘には親同士が決めた許婚がいたので、困り果てた末、ある魚を焼いて葬儀を行い、娘の死を演出しました。
子供を兵役に出すように命じられた母親が、子供を戦に行かせまいとしてある魚を焼き、魚が焼ける臭いをあたりに充満させて、迎えに来た兵士に子供が急死した事を伝えて兵役を逃れさせました。
かぐや姫はさまざまな方法で求婚の申し入れを退けていますが、天子からの求婚をどうしても退ける事ができず、仕方なく岩山に篭ってある魚と綿の実を焼き、迎えに来て付近に立ち込める臭いを嗅いだ天子にかぐや姫に死を悟らせて求婚を諦めさせました。
子供が生まれた時、身代わりに土に埋めておくと子供は死ぬ事なく元気に育つとして、ある魚を土に埋める習慣がありました。
同様の話や習慣は各地にあり、すべてを取り上げるととてもこのコラムには収まりきれない数になってしまいます。細かな違いはありますが、共通するのはある魚を焼くと人を火葬した時のような臭いがするので、その臭いを使って死を演出するというものです。
そのある魚というのはコノシロ。「コ」・・・子、娘、姫の「シロ」・・・代、身代わりを指す言葉が語源となってその名前が付いたと言われています。しかし、そうした語源に繋がったとされる多くの伝説は、名前を元に後から作られたもので、実際の語源としては認められていません。
それではコノシロの語源はとなると、実はいまだはっきりしていないと言われています。魚をはじめ、生き物の多くは外観や生態から名付けられる例が多く、コノシロは糸状に伸びた背びれを持つ事から、「此の後ろ」からその名が付いたというのが有力なように思えます。
漢字で書いた際の「鮗」は、冬に旬を迎える事を意味していますが、コノシロの本来の旬は秋。火葬場のようなと言われる臭いを我慢して焼いたのに、あまり美味しくないと言われてしまうのは、旬の時期を過ぎてしまっているからかもしれません。
かつては江戸前にたくさん泳いでいるが、焼いた臭いが悪く、煮ても焼いても美味しくないとして不人気な時期もあったと言われますが、焼かずに酢でしめて食べるという調理法が行われるようになってからは、江戸前の寿司ねたに欠かせない存在となっています。たくさん食べてもらえるようになって、嬉しいやら悲しいやら...。
第973回 春を告げる者
2008年03月26日
水の冷たさに驚かなくなったら。梅が咲いたら。氷が張らなくなったら。桜が咲いたら。菜の花が咲いたら・・・人それぞれに春を感じる基準のようなものがあると思います。暦の上では春とは言っても、その年によって微妙に気候が違ったりもします。
春を告げるものとして細長い国土を持つ日本では、各地にさまざまな言い伝えが存在しています。その中にある春告魚(はるつげうお)はあまりにも直接的な名前で、春を告げに来てくれる魚というイメージを強く持ってしまいます。
春告魚は主にニシンの事を指す場合が多く、北海道の西岸に春になると大量に押し寄せる事からそう呼ばれるようになっています。北海道の西岸にはニシンの産卵に適した海藻が多い事から、春を告げに来ている訳ではないのですが春になると産卵のためにやってきていました。
一時期は大量に漁獲され、ニシン御殿と呼ばれる大きな家を建てるほどの収入源となったニシン漁ですが、最近では漁獲量が減少し、春に旬を迎えるメバルに春告げの任を奪われつつあると言います。
ニシンのスリムな姿からはあまり想像できない事ですが、実はニシンはそれほど泳ぎが達者とは言えず、人よりも遅い魚となっています。時速6km程度がやっととされ、時速7kmを超える競泳選手であれば簡単に追い越す事ができます。
その分、長く泳ぐ事は得意で、長い距離を泳ぎ続けてもほとんど疲れる事はないと言われますが、そうした捕まえやすさも潮の流れや海水温の変化などと共にニシンの漁獲高の減少に繋がったのかもしれません。
本来は水圧や塩分濃度の変化に強く、急速な浮上にも耐える事ができる上に、20年近くも生きるという長寿、しかも数の子に象徴されるようにたくさんの子孫を残す魚でもあるので、あまり激減するといった感じはしないのですが、環境の変化と乱獲の前には春を告げる任務を放棄してしまいたくなってしまうのでしょうか。少々寂しくなってしまいます。
第972回 光学嗅覚
2008年03月25日
年末年始ではないので飲酒運転取締りの検問に出会う事もほとんどないのですが、以前から検問で使用されている呼気のアルコール濃度を測定する機材の性能について興味があります。あまり良い物のようには見えないのですが、そのくらいの精度を持っているのでしょう。
呼気を取り込むために細かな穴が開けられていて、どことなくマイクに見えてしまいます。呼気以外を取り込んでしまわないようにする覆いなどもなく、周りの空気などの事も気にしている雰囲気もありません。
ひょっとしたら警察の方が自分でスイッチを押しているだけなのではと検査方法自体、何となく不安な感じではあるのですが、呼気は意外なほど多くの情報を提供してくれます。人の呼気には1000種類以上の異なる分子が含まれていると言います。
呼気にアンモニアが多いと腎不全の可能性があり、メチルアミンは肝疾患や腎疾患、アセトンは糖尿病、酸化窒素は喘息の傾向を知る事ができると言われ、呼気を分析する事でそれらの疾患の診断を行う事ができると言います。
最近開発された技術では、光キャビティと呼ばれる2枚の鏡に挟まれた空洞内に呼気を吐き、パルス状のレーザー光線を照射して鏡の間を反復して反射させます。鏡に微妙な角度を付けて数キロの反射距離を走らせる事で、空間内に満遍なくレーザー光線を行き渡らせ、漏れなく呼気の中の分子を検出する事ができ、さまざまな疾患の検診が迅速に行えるようになっていました。
嗅覚が発達した犬に臭いを嗅がせて、ガンの検診を行うという検査手法が話題となっていましたが、それを光学的に行った光の鼻というところでしょうか。MRIによる病気検診も発展してきてはいますが、医療用の放射線を浴び過ぎと言われる日本人には良い検査手法かもしれません。
第971回 吸盤応用
2008年03月24日
受験勉強に勤しんでいた頃、少し遅い時間まで勉強していると窓からもれる明かりに虫が寄ってきます。その虫を狙って小さなヤモリが現れた事に驚かされた事があります。
それからしばらく毎日のようにやってくるヤモリは、夜更かしの仲間となっていました。最初の頃は、それまで見かけた事のあるヤモリの半分以下の大きさだったのですが、栄養事情のよさを受けてか、徐々に大きくなっていく姿にたくましささえ感じていました。
そんな思い出があるせいか、ヤモリには変な思い入れがあるのですが、そのヤモリの足にヒントを得て、耐水性、生分解性を持つ新しい外科用粘着テープが開発されたというニュースを聞いて、あの時の壁やガラス窓に柔軟に張り付いていた姿が思い出されてしまいました。
ヤモリの足には微小な凸凹がありますが、それを応用する事で滑りやすい組織にも接着できるようにしたそうです。現在使われている外科用テープは、柔軟性が低く、耐水性もない物がほとんどと言われます。
身体の表面で使用するだけでなく、身体の内部で使用する事も考慮すると、伸縮性があり、各組織に適合する事、生分解性がある事が要求されます。それらをすべて満たす新素材として開発された物の粘着性という部分に、ヤモリの足が応用されています。
ヤモリの足の裏にはナノスケールピラーと呼ばれる無数の微小なへら状構造があり、それを使って壁や天井に張り付いていると言われます。このナノスケールピラー構造をテープの表面に持たせる事で、さまざまな組織の表面に接着する力を生み出しています。
手術による切除部分や潰瘍による穴を塞ぐ事や薬剤を送達する体内パッチ剤、手術の縫合糸の代わりなど、今後、さまざまな応用が期待されています。新素材の応用範囲が広がっていく姿は、日ごとに大きくなっていったヤモリの姿に重なって、どことなく懐かしいものを感じてしまいます。
第970回 氷山と流氷
2008年03月21日
春が近くなってくると流氷のニュースが聞かれるようになってきます。同じニュースでも不祥事のニュースでは、よく氷山の一角という言葉を耳にします。同じ海に浮かんだ氷、違いは大きさにあるのでしょうか。
氷山は氷河や棚氷が海に流れ出した物で、陸上で時間をかけて形成されています。海水ではない真水に近い水が凍っているため、頑丈で大きいという特徴を持っています。
氷山の一角と言われるのは、氷山の殆どの部分が海水の中に沈んでいるためで、全体の90%近くが水面下の海中にある事になっていて、頑丈な事も手伝って氷山の寿命は十数年とさえ言われています。
氷山は南極の周辺や北極の周辺といった高緯度の海に多く見られ、寒い海共通の風景となっています。しかし、微妙に違いがあり、結構簡単な見分け方があると言います。南極の氷山は棚氷が崩れて海中に落ちた物が殆どなので、表面が平らになっているという特徴があります。
それに対し北極の氷山は、山の渓谷を巡って形成されるので、V字の谷の形が反映されています。それが海中で重さの関係で逆転するため、山形に尖った形をしています。
氷山が陸上で真水によってできているのに対し、海水が凍ったものは定着氷と呼ばれ、割れて漂っている物は海氷や流氷と呼ばれています。
一見規模が違うだけのように見える氷山と流氷も、実は真水か海水という凍っている水分に違いがあります。最近、地球温暖化の影響で氷山が溶け始め、海面が上昇するという話を聞かされます。少なくとも海面に浮かんでいる氷山だけは、すべてが溶けてしまっても海面を上昇させる事はないので、あまり変な情報には踊らされないようにしなければと思ってしまいます。
第969回 増設?
2008年03月19日
パソコン、特にハードディスクとメモリ、CPUについて質問を受けたとき、よくキッチンの例を使って説明します。ハードディスクは冷蔵庫で、ここに多くの食材を保管して必要に応じて取り出して使います。
メモリはまな板などを置く作業台で、CPUは料理を行うシェフに喩えます。最近、ハードディスクは技術革新もあって容量がかなり大きくなっています。大きな冷蔵庫でたくさんの食材を保存しておく事ができるようになってきています。
冷蔵庫が大きくなっても作業台(メモリ)が小さいと、その都度食材を取り出して調理するしかなく、いくらシェフ(CPU)が手早い(処理速度が速い)人でも料理が出来上がるまでに余計な時間がかかってしまいます。メモリが大きくないとと言われる所以がそこにあります。
コンピューターは脳をモデルに作られました。近年の目覚しい発展を受け、コンピューターのシステムは逆に脳を理解する事にも役立つようになってきています。最近の研究によって判ってきたところでは、子供の学力不振は知能の高さや低さよりも作業記憶能力に関わっている事が明らかにされてきています。
知能の高さはCPUの処理速度の速さにあたるもので、記憶力の高さはハードディスクの容量にあたります。作業記憶能力はちょうどメモリにあたるもので、情報を保持して操作する能力を指しています。
小児3000人を対象に調査を実施した結果、10%の子供に作業記憶能力の低さが認められ、そのグループでは学習能力が著しく損なわれている事も認められています。作業記憶能力は、正しく指示に従う、言われた事を正確に書き留めるなどの学習の基礎的な部分や、さまざまな課題をこなす事に深く関わっています。
作業記憶能力の低さは遺伝的なものと考えられ、これまで行われてきたように学習能力の低さを、知能の低さや怠慢と結論付けて放置する事で、学業面に長期的に影響が及び、潜在能力の開発の妨げにもなると考えられます。
パソコンのようにメモリを増設して対処という訳にはいきませんが、初期の段階で容量の少なさを把握し、学習方法を工夫するなどすれば周囲に対しての遅れを防ぐ事も可能とされます。
一時に大量の情報を与えて処理させるのではなく、小分けしてその都度細かい単位で処理する事で、結果的な処理速度を上げるといったパソコンのような工夫も有効なのかもしれません。冷蔵庫と作業台とシェフ、イメージする事に役立つでしょうか。
第968回 不健康な薬?
2008年03月18日
健康の秘訣はカフェインとアルコール・・・非常に不健康な感じに聞こえてしまうのは私だけでしょうか。カフェインとアルコールと言えばコーヒーとお酒が水代わり、そんな健康とは無縁な世界の事にしか思えませんが、一概にはそうとも言えない話があります。
虚血性脳卒中は血栓によって脳の血管が詰まってしまう脳梗塞の事を指します。この虚血性脳卒中の患者に血栓溶解剤と一緒にカフェインとアルコールの混合物を投与する事で、安全で早い回復を望む事ができるとされています。
カフェインとアルコールの混合物はカフェイノールと呼ばれ、簡単に調合できて投与しやすく、安全性も高いと評価されています。濃い目のコーヒー4〜6杯分のカフェインにウィスキー1杯分くらいのエタノールを混ぜた物で、脳の損傷を軽減し、脳卒中による病変の回復を高めると言われています。
カフェイノールには体温を低下させる作用もあるとされ、この作用によっても損傷が抑えられ、回復を早めるとされています。発症後3時間以内に血栓溶解剤を投与し、6時間以内にカフェイノールを点滴する事が効果的とされ、臨床試験でも顕著な結果が確認されています。
手軽で有効な薬剤のように思えますが、あくまでも治療レベルの事で、日頃から予防を...というのは、あまりお薦めできないかもしれません。
第967回 石防細菌
2008年03月17日
常日頃から腸内細菌の状態が後の人生を決めるとさえ思っています。腸内細菌がお腹の調子を決める事は、古くから言われていた事で、最近では免疫が腸で作られる事も広く知られるようになってきています。
腸内の細菌が悪玉に傾く事で毒素が作られ、体調を悪化させてしまう事や、発ガン物質が作られてしまう事。逆に善玉が増える事でアレルギーの症状が緩和される事や、免疫力が強化される事は多くの研究によって裏付けられています。
最近明らかになってきたところでは、腸内の細菌によって腎臓結石の再発率が下げられる事が判ってきています。腎臓結石は体質が影響する部分もあるため、一度症状が現れると高い確率で再発する事で知られています。
再発性の高いシュウ酸カルシウムによる腎臓結石の患者247人と健康な人256人を対象に、健康状態と食生活に関する情報を収集し、腸内細菌の培養検査を行った結果、特定の腸内細菌が再発性腎臓結石群の17%、対象群の38%から検出されています。
腸内細菌の定着には、後から取り込むだけでは難しいものがありますが、今後、その菌の研究を進める事でプロバイオティクス製品の開発に繋げ、健康維持の有効な手段とする事が可能となる事も予想できます。
腸内細菌によるシュウ酸の分解作用が認められているだけに、今後に大いに期待したいと思います。腎臓結石を防ぐヨーグルトというラベルが出てくるかと思うと、何か楽しげなものを感じてしまいます。
第966回 毒素拡散
2008年03月14日
ボツリヌス菌というと熊本の一定以上の年代の人には、変に思い出深いものがあるかもしれません。名物の辛子レンコンに混入し、その強力な毒素で大変な被害を引き起こしてしまった事があります。
通常、食品の日持ちを良くするために、食品のパッケージを密閉し、中の酸素を極力抜いてしまう事で食品の状態を悪化させる細菌類の繁殖を抑えます。しかし、ボツリヌス菌は嫌気性細菌であったために、酸素がない状態がかえって都合がよく、混入した辛子レンコンの中で繁殖してしまっていました。
ボツリヌス菌の語源はラテン語の腸詰ソーセージ、「ボツルス」にあり、19世紀のヨーロッパでハムやソーセージを食べた人の間で起こる食中毒の原因菌として発見され、その名前が付けられています。
日本国内では、辛子レンコンの食中毒菌として有名になったボツリヌス菌ですが、その毒性は非常に強力で、ボツリヌス毒素、ボツリヌストキシンは500gもあれば全人類を死滅させる事ができるとまで言われています。
そのボツリヌストキシンは、最近では別な用途で使われるようになり、その方面ではかなり広く使われています。ボツリヌストキシンでは馴染みがなくても、ボトックスという名前をご存知の方も多いのではないでしょうか。
ボトックスはメスを使わない手軽で効果的な治療法として、プチ整形としても広く知られています。皺の改善効果に優れているとされ、特に目尻の笑い皺や額の横皺、眉間の皺など、表情皺と呼ばれるものに効果が大きいと言われ、エラの突出を目立たせなくして小顔に見せたり、筋肉の動きを抑える事からふくらはぎを細く見せるなどでも重宝しているとされます。
また、美容整形以外でも、瞼の痙攣や多汗症の治療、脳性麻痺や脳卒中患者の筋肉の硬直緩和にも使われ、世界中の神経内科、眼科、美容外科で使われています。
主に注射器を使って必要な部位に注入する事で治療が行われていますが、注入されたボトックスが容易に周囲に移動し、周辺の筋肉をすべて弱らせてしまう事が判ってきています。
ボトックスは神経伝達物質のアセチルコリンの生成を抑える事で、筋肉の動きを抑制して効果を発揮します。あらかじめ計算された箇所に注入されて、その部分の筋肉の動きを抑制する事で狙った効果を得ていたのですが、これまでは注入された箇所に留まると考えられてきました。
容易にボトックスが移動してしまうという事は、これまで安全と考えられてきたボトックスの制御が意外と難しい事を示すものであり、周辺部位に移動する事に必要となる時間の解明や、浸出を最小限に抑える手法、用量などの研究が急務になります。
浸出を前提に考えると、施療部の周辺の筋肉をリハビリという事も考えられます。もともとが強力な毒素なだけに、やはり制御は難しいという事でしょうか。
第965回 危険造血
2008年03月13日
生まれながらの貧血なので、別にその状態が悪いとは思っていません。毎日の生活も気を付けてさえいれば、何か不自由を感じるという事はありません。
最初に貧血を意識したのは高校の時の健康診断で、担当医の前に座るなり、「君は貧血だ」と言われ、下側の瞼をめくって「やはり貧血だ。君に治療や薬は無駄みたいだから、別に何もしないが、毎日の生活に気を付けなさい」と言われて終わったのが思い出されます。
今から思うとその時、貧血を治療するための薬を出されなかったのは幸いだったのかもしれません。最近、医学誌に報告されていたところでは、貧血を治療する薬剤が利益を上回る害をもたらす可能性が高いとされていました。
過去に行われた研究を総合的に再検討した結果、赤血球増血刺激薬によって死亡率および静脈血栓塞栓症の発症リスクが増大する事が示されています。
赤血球造血刺激薬・・・ESA製剤は、骨髄の赤血球産生を促進する作用があり、一般の貧血患者や化学療法の副作用によって生じる貧血、慢性腎疾患で透析を受けている患者の貧血にも処方されています。
ESA製剤に関する懸念が言われるようになったのは、今回が初めてではなく、実は腎疾患の患者の間ではESA製剤を使って血液中のヘモグロビン値が一定のレベルを超えると、死亡リスクが増大する事が以前から言われていました。
ESA製剤によるガン細胞の成長加速も示されていますが、ESA製剤も定められた通りに使用すれば害はないという意見もあります。ESA製剤の害を示す多くの試験は、ガイドラインが違うヨーロッパで行われたもので、本来のガイドラインに従っていれば極めて有効かつ安全な薬剤であると言います。しかし、危険は避けたいものです...。
第964回 薬用飲料水
2008年03月12日
先日、気になる事が報道されていました。全米、24の大都市圏で少なくとも4100万人が利用する飲用水道水から、抗生物質や精神安定剤などの医薬品の成分が検出されているそうです。
検出量は微量なので、製薬業界からは健康上の影響はないとしていますが、毎日使うものであり、長期間にわたるものでもある事から影響が懸念されます。
EPA(米国環境保護局)の当局者は、今回の報道に対し、懸念が高まっている事は認識しており、深刻に捉えているとコメントし、事の重大性を当局も意識している事が伝えられています。
水道水での医薬品成分の検出は、医薬品を摂取した際、吸収されなかった成分の一部が体外に排出されて下水に入りますが、下水処理では医薬成分の処理は念頭に置かれていない事から、成分の除去が行われずに自然界に蓄積。循環して飲用水に入り込んだ事が考えられます。
かつて環境ホルモンが問題視されていた頃、米国では経口避妊薬の飲用者が多い事から、ホルモン剤の成分が河川に流れ込んでいる事が言われていた事があります。
今回の報道は、それをさらに拡大したような印象を持つもので、薬剤の種類が増えた事で問題をより大きくしてしまっている感じがします。
東部フィラデルフィアでは、高コレステロール血症やぜんそくなどの治療薬を含む56種類の成分が見つかっているとされ、身近な薬剤と検出成分との関連性が伺えます。最近、日本ではメタボリックシンドロームの治療薬がよく処方されているようですが、やがてそれが検出される日が来るのでしょうか...。
第963回 現場検証?
2008年03月11日
物事の原因を調べる時、すでに起こっている事象についての考察が重ねられていきます。しかし、すでに起こっている事だけに、その事象が起こる原因を知る事は容易ではないというのは往々にしてありえる事です。
特に原因が定かでない疾患の場合、起こっている症状に対応しながらその症状が起こる原因を探り、その原因がどのようにして発生したかという事を探り当て、その大元を治療する療法の確立が必要となります。
もし、疾患が発生するその場に居合わせる事ができたら...。それが可能であれば、疾患の根本的発生原因を探り、治療法確立という面で大きな前進がはかれる事は確実なように思えます。
先日、開発されたさまざまな細胞に変化できるiPS細胞(新型万能細胞)がそれを可能にしてくれるかもしれません。開発者の京都大学の山中教授が、筋ジストロフィーなどの治療が難しい約10種類の病気に苦しむ患者の細胞からiPS細胞を作成する計画を進めている事が明らかにされています。
これまで行われてきた病気の状態にある細胞を調べる方法と異なり、患者の細胞からiPS細胞を作成し、さらに病気の状態に変化させる事ができれば、健康な状態から病気へと変化する過程などが観察でき、詳しい仕組みが明らかにできる事が期待されます。
今回対象となる病気は若年性の糖尿病や筋ジストロフィー、神経変性疾患、先天性の貧血などで、京大病院の患者に協力を求め、皮膚や血液のリンパ球、胃粘膜などの細胞を採取し、健康な人のiPS細胞も作成して比較するそうです。日本人の細胞を使う事で、人種による薬剤への効きや耐性といった事も考慮せずに済むとの事で、研究の急速な進展が期待できそうです。今後の展開を楽しみにしたいのもです。
第962回 共存関係
2008年03月10日
ペットに触れたり、声をかけたり、それだけで落ち着いたり、癒された気分になる事があります。ペットには世話をしたり、えさをやったりしながら育てているようで、実は自分の方が世話になっているのではと思ってしまいます。
ペットにどの動物を選択するかでその人の性格が判るという話がありますが、猫に焦点を当てた興味深い研究結果が発表されていました。猫と暮らすと、心臓発作のリスクが約30%も低下するという、何ともありがたい研究結果です。
心理的なストレスや不安などが心血管、特に心臓発作に影響する事は、多くのドラマや映画の中のシーンで見せられてきていました。実際、それを裏付ける研究は多数存在し、広く知られている事でもあります。
ペットに対する愛情やペットから得られる喜びがストレスを軽減する事も、既に広く知られる事となっていて、2005年に米国の心臓協会の年次集会で発表された研究では、心不全の患者が1回、12分間犬と過ごすだけで、心臓や肺の機能に改善が見られる事が示されています。
1976年から1980年の間に4435人を対象として行われた調査データを再分析したところ、調査対象者の2435人が猫を猫を飼っているか過去に飼った事があり、残り2000人が飼った経験がなく、心疾患、脳卒中をはじめとするあらゆる原因による死亡率を10年間追跡した結果、猫を飼った事のある人は心臓発作による死亡率が明らかに低い事が判明しています。
今回の研究結果は事前に予想されていましたが、心臓発作のリスクが30%も軽減されるという大きな効果は予想できなかったと言います。犬や他の動物でも同じ効果が得られる事も考えられますが、今回のデータでは対象となる人が少なかったため、統計学的な結論が得られなかったそうです。
今回、たまたま猫が多く飼われていた事で、猫の健康効果のような結果になっていますが、どのような動物でも愛情を持って接し、大切にする事で健康に良い効果がもたらされるはずとされ、特に高齢者にとってペットと暮らす事は、低コストで低リスクな健康法と言う事ができます。あらためてペットの大切さが伺える研究結果です。
第961回 森と海と廃棄物
2008年03月07日
古い資料になりますが、弘仁12年(821年)の太政官符に農民による山林の樹木伐採を一部禁止する事が触れられています。理由は山林の保護というよりも、海洋資源の保護に主眼が置かれていて、日本人が古くから山や森、川、海が深い関連性を持っている事を理解していた事が伺えます。
森から出る腐葉土の栄養や鉄分は川を伝って海へと流れ込みます。森林が荒れる事で腐葉土の形成が妨げられたり、樹木の減少で表土の流出が起こる事が考えられます。近年、治水を目的として川の流速を低下させた事でも、含まれる栄養素の中で比重の重い物が海へと届かなくなる事も起こりえます。
そうした森と海の関わりを無視した事で、沿岸部に白い石灰藻と呼ばれる海藻に覆われる「磯焼け」などの現象が観察されています。沿岸部の環境改善を考え、魚や海藻の棲息環境になるよう意図してコンクリートブロックの敷設が行われた例もありますが、コンクリートから出るアクによって環境の悪化を招く結果が多く報告されています。
鉄鋼の製造過程で鉄鋼スラグと呼ばれる副産物が発生します。この鉄鋼スラグは資源リサイクルに貢献する物として、グリーン購入法の「特定調達品目」にも指定されています。
鉄鋼スラグはアルカリ性で、鉄、カルシウムを豊富に含み、赤潮の原因となるリンや硫化水素を吸着する性質もある事から、海洋に沈めておく事で海藻などの生育を助け、魚介類の育成にも繋げられると言われています。
実際、鉄鋼スラグと腐葉土を混ぜ、椰子の繊維で作った袋に詰めて海底に配置した地域では、半年ほどで昆布が繁殖し、何もしなかった場合の220倍の量の昆布が確認されたと言います。
すぐにでも試してみる価値があるように思えるのですが、鉄鋼スラグが野積みされた付近から基準を上回る濃度の鉛やホウ素などの化学物質が発見された事例もあり、現在、鉄鋼スラグは有用資源なのか廃棄物なのかという議論が繰り広げられています。
沿岸部の海藻の育成は海洋の環境改善に大切な事ではあるのですが、環境保護のための資源の名を借りた廃棄物の広範囲な投棄となってしまうと本末転倒です。今後、注意深く観察しなければいけない問題なのかもしれません。
第960回 感染進化
2008年03月06日
前回、哺乳類の妊娠において重要な意味を持つ胎盤の形成が、実はウィルスへの感染の結果によって発生したものであるという話題に触れました。ウィルスによる遺伝情報への進入がその後の進化に重要な意味をもたらしたという事は、胎盤に限らずもっと重要な器官にも言えるという研究結果が発表されています。
進化の過程で遺伝情報に入り込み、その後、抜け落ちる事なく子孫に伝わるレトロポゾンを手がかりに、さまざまな動物の遺伝情報を調査すると、爬虫類や鳥類、哺乳類に特定のレトロポゾンが共通に存在している事が判ります。
発見当初はタンパク質を造る機能がない事からガラクタと考えられていましたが、特定のレトロポゾンには重要な働きが隠されている可能性がある事から、詳細な研究を行った結果、哺乳類でのみ働きを発揮し、脳組織の発達を促す役割を担っている事が判ってきました。
そのレトロポゾンが関係している脳組織は、ネズミや猫のひげやモグラの鼻先など哺乳類特有の感覚器官に反応する部位で、爬虫類や鳥類にはない構造をしていました。そのレトロポゾンが入り込む事で遺伝情報上の特定の領域が刺激され、脳組織の位置を決める遺伝子が活性化されるという事が判ってきました。
化石などを元に推定すると、このレトロポゾンへの感染は約4億年前に遡り、当時の脊椎動物の遺伝情報内に入り込み、約2億年前の哺乳類の共通祖先の中で働きを発揮し、高度な脳を発達させる機能を獲得させたと考えられています。
これまで進化といえば突然変異の積み重ねという長い時間をかけた小さな進化を重ねた結果と考えられてきましたが、その成果に加えて感染という外から入る遺伝情報で、革新的な構造変化が加わるという大進化もある事が確認された事になります。ウィルス感染とは侮りがたいものに思えてきました。
第959回 ガラクタの働き
2008年03月05日
ゲノム・・・全遺伝情報の解明が進むにつれ、どの遺伝子が何をつかさどっているかが明確になり、その中からガラクタとされる遺伝子の存在が明らかになってきていました。最近、さらに解明が進む事によって、そうしたガラクタと思われていたものの中にも、欠かす事のできない働きがある事が判ってきています。
人をはじめとする哺乳類の遺伝情報の3分の1以上は、細胞内を動き回って突然変異を引き起こす遺伝子、レトロトランスポゾンが元になっていると考えられ、それらの大部分はタンパク質を作り出さない事から、遺伝情報中のガラクタと考えられてきました。
先日、レトロトランスポゾンの一つ、「Peg10」と呼ばれる遺伝子が多くの哺乳類に共通して存在する事から、その機能に関する研究が行われていました。ガラクタが共通するというのも確かに腑に落ちないものがあります。
研究の結果、Peg10の働きを止めると正常な妊娠が継続できない事が判ってきました。その事から、何も働きがないガラクタと思われていたPeg10は、胎盤の形成という重要な役割を担っていた事が明らかになってきました。
Peg10に由来ははるかな太古、遺伝情報に影響を与えるレトロウィルスへの感染によるものとされています。現在の哺乳類の妊娠の形態は、ウィルスの感染によって形作られ、進化に伴って発達したものと言え、今日普通の事のように思えている胎盤の形成が、実はウィルス感染の結果という事には、大いに驚かされてしまいます。
第958回 鍼灸最新事情
2008年03月04日
鍼灸というと如何にも古めかしい民間療法のような感じがしてしまいます。実際、鍼灸治療の歴史となると発生起源すら古過ぎて判らないとされ、中国の春秋戦国時代には既に文献が残されています。
現在、最古とされる医学書の「黄帝内経」は鍼治療に基づいて書かれているされ、前漢の中期頃には灸から鍼への理論的確立が行われているとも言われ、如何に古き歴史を持つかを伺う事ができます。
そんな鍼灸が現代社会で注目されるきっかけとなったのは、当時のニクソン大統領に同行したニューヨークタイムズの記者が虫垂炎に罹り、鍼を使った麻酔を用いて手術を行った事を自身の記事で報道した事によるとされ、それ以降、爆発的に広まったと言われています。
1979年にはWHO(世界保健機構)によって臨床経験に基づく適応疾患が発表され、どちらかと言えば日本よりも欧米の方で新しい研究が行われている印象があります。英国での最新の研究では、体外受精を受ける女性が同時に鍼治療を併用する事で、妊娠の確立が65%も高まる事が報告されています。
現在、全カップルの15%近くが不妊に悩み、体外受精という選択を行う例も少なくないと言います。これまでいくつかの症例で、鍼治療が体外受精の成功率を高めた事が報告されてきました。
今回、体外受精を受けた女性1366人を対象に、胚移植から1日以内に鍼治療を受けたグループ、擬似鍼治療を受けたグループ、何も行わなかったグループに分けて経過を観察するという研究が行われました。
その結果、鍼治療を受けたグループでは、その他のグループと比べて65%も成功率が高かったという結果が得られています。今回の研究では不備な点も指摘され、確実な結論とはできないという意見もありますが、長年鍼治療に関する研究をしてきた研究者の間では、今回の研究結果は別に驚くほどのものではないという意見もあります。やはり伝統に裏打ちされた効果でしょうか。
第957回 表面加工の進化
2008年03月03日
今でもプロの料理人が日常使っている鉄製の中華鍋などは、一旦料理を終えるとまだ熱いうちにさっとお湯をはり、洗剤を使わずに洗い流しています。そうする事で鉄製の表面に油がなじみ、焦げ付きにくい状態にしています。
なかなか素人のレベルでは、日常的に油をなじませて鉄製の調理器具を良い状態に仕上げていくという事は難しいように思えるのですが、そんな手間を一気に省き、それ以上に焦げ付きにくく扱いやすい調理器具として登場したシルバーストーン加工のフライパンは、ある意味調理器具の革命的な存在となったと思っています。
シルバーストーン加工の登場で、ほとんど油をひかなくても焦げ付く事がなく、難しかった卵などの素材も簡単に調理する事ができるようになりました。こびりつきがない事から、後始末も簡単になり、実際、テレビの料理番組でもプロの料理人が使っている場面を見かける事からも、その便利さと普及率の高さが伺えます。
シルバーストーン加工をはじめとするフッ素樹脂加工のほとんどは、金属製の調理器具の表面を四フッ化エチレン樹脂と呼ばれるものでコーティングを施したもので、非粘着性と滑りに優れ、焦げ付きにくさと手入れの簡単さが特徴となっています。
フッ素樹脂は1938年に化学メーカーのデュポン社で冷却用物質の研究中に発見され、後に調理器具へ応用されています。日本ではじめてフッ素樹脂コートを施したフライパンが発売されたのは1965年の事で、その後、鍋や炊飯器の内釜、ホットプレートの表面、ガスレンジの天板などに使われ、台所で普通に見かけるようになっています。
現在、デュポン社のフッ素樹脂製品には5つのグレードが存在し、もっとも古くから親しまれたベーシックなフッ素樹脂加工製品「テフロン」をはじめ、スタンダードとされる特殊配合されたフッ素樹脂によって性能を向上させた「シルバーストーン」。ニュースタンダードと呼ばれる特殊配合のフッ素樹脂に硬質セラミックを配合し、さらに耐久性を向上させた「シルバーストーンプレミアム」。硬質セラミックと特殊硬化処理によって、さらに強度が増したハイグレードの「プラチナストーン」。表面に傷が付きにくいスクラッチガードを施し、高密度のダブルセラミック配合で耐久性を向上させたトップグレードの「プラチナストーンプロフェッショナル」に分けられています。
鉄製の調理器具と比べて、鉄分の供給がないなどの弊害やフッ素樹脂が加熱される事への懸念などさまざまな意見はありますが、便利さという点では圧倒的な物であった事は、今日の普及率の高さから伺う事ができます。先日、アルミ製の行平鍋に卵をこびりつかせてしまった際、いかに自分がその便利さに慣れてしまっていたかを実感させられてしまいました。
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