第1116回 大人のための味覚
2008年10月27日
個人差こそありますが、大体の場合において子供は酸っぱい物が苦手です。理由は簡単で、脳が嫌うように命じているから。基本的に動物は酸っぱい物を嫌うようにできています。
食べ物に酸味が含まれているという事は、その食べ物が腐敗しているかもしれない可能性を示しています。ほとんどの場合、食べ物の腐敗が始まると腐敗菌の働きによって発酵が起こり、低級脂肪酸や酪酸などが生成されて酸味が生じてきます。
本能的にそうした酸味を腐敗として検知するため、酸味を感じた瞬間、脳は危険信号を出してその食べ物を飲み込まないように指示を出してきます。同様の事は植物系の毒素に通じる苦味を検知した時にも起こります。
大人になって酸味を苦手としなくなる理由の一つは、身体の抵抗力が向上して多少の腐敗なら気にしなくても大丈夫と脳が判断する事が考えられ、若干の腐敗ならば食べる事ができると判断する事で、食料を調達できる幅が確保できる事も充分に考えられる事です。
また、酸味を受け入れ、むしろ好むようになる理由として、果物の存在を抜きにする事はできません。果実にはクエン酸をはじめとしたさまざまな酸が含まれ、甘味だけでなく酸味を備えています。甘味は身体に直接的なエネルギー源となる糖質なので、種子などからエネルギーを得る場合のように、蓄えられたデンプンを酵素によって糖質に変えるという手間も必要ありません。
その意味から果実は理想的なエネルギー源と言えるのですが、果実には大切な役割があります。植物が果実を理想的なエネルギー源として動物に提供する背景には、果実に含まれる種子の運搬という目的があります。
果実を喜んで動物に食べてもらい、良質のエネルギーを提供して広範囲に活動してもらう。より遠くの肥沃な土地に行ってもらい、排泄と共に種を蒔いてもらって、より良い条件で子孫を増やす。しかも、より行動範囲を広く設定するには、子供よりも大人の方が好ましい。
そう考えると、エネルギー源として動物を引き寄せる甘味だけよりも、子供が苦手な酸味を備える事でより的確に大人にターゲットを絞る事ができます。果物の美味しさには、そうした巧妙な計算があるのかもしれません。そう考えると、果物の種は捨ててしまわずに何処かに蒔いてやって、少しは植物の意に沿うようにしてあげないといけないような気がしてしまいます。