第1124回 卵と牛乳とカモノハシ
2008年11月07日
カモノハシというと、平たいクチバシが付いたビーバーのようなユーモラスな姿を連想します。特徴的なクチバシのインパクトが大きく、名前の由来が鴨のクチバシのように見えるという事から来ているというのも納得できます。
オーストラリアにのみ生息し、生きた化石と呼ばれる非常に珍しい生き物で、最初に標本となる剥製がヨーロッパに届けられた際、幾つかの動物の部位を組み合わせて作られた物と疑われ、真剣に縫い目や接着面を探す事が行われています。今も残る最初の標本には、その際のハサミの跡が残されていて、どれだけ不思議な生き物として捉えられていたのかを伺う事ができます。
そんなカモノハシの不思議さは、その特徴的な姿だけではありません。カモノハシは河川の岸に近い場所に横穴を掘り、その中で卵を産みます。卵はメスが温め、10日ほどで卵が孵ると母乳で育てます。
動物の繁殖方法は卵で生んで孵化させるか、出産して母乳で育てるかのどちらかに限られています。カモノハシはその両方を採用しているという点で、他の動物とは大きく異なる存在と言えます。現在、地球上でそうした繁殖方法を採用している事が確認されているのは、カモノハシとハリモグラだけとされ、かなり特殊な例と考える事ができます。
卵で生んで孵化させるという繁殖方法は卵生と呼ばれ、母体からの栄養の供給を受けずに発育する事から、卵の中には発育に必要なすべての栄養を含んだ卵黄が供えられています。卵が完全栄養食と呼ばれる所以は、殻によって閉鎖された中で次の世代を形作るという卵生の特徴にあると考える事もできます。
卵生に対して受精卵が母体内で形成され、ある程度発育させてから出産し、母乳で育てる繁殖方法を胎生と呼びます。胎生では、胎児の発育中は胎盤を通じて栄養の補給が行われ、二酸化炭素の排出なども胎盤を通じて行っています。そのため出産までは発育に必要な栄養を別に用意する必要はなく、母体から供給される栄養素を使って発育します。
出産後、親と同じ食事ができるようにるまでは、母乳が重要な栄養補給元となります。そのため母乳も生育に必要なすべての栄養素が含まれ、完全栄養食と呼べる物となっています。牛乳が完全栄養食と呼ばれる事がありますが、子牛を育てるための栄養が詰め込まれているという点では、卵生の卵黄と同じ位置付けと言う事ができます。
日常生活の中で接している2大完全栄養食、卵と牛乳には卵生、胎生という繁殖方法の違いこそあれ、共通した部分を多く見付ける事ができ、目的が共通したものである事が確認できるように思えます。どちらも生命を維持する上で必要となる栄養素をほぼすべて含みながら、食物繊維とビタミンCが欠けているという共通点も興味深いものがあります。そんな2大完全栄養食によって育つカモノハシは、かなり贅沢な生き物なのかもしれません。