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第1123回 抗生物質考2     2008年11月06日

 培地の上でカビを繁殖させると、カビのコロニーの周りに他の細菌の繁殖が抑制された円形の無菌地帯ができます。「阻止円」と呼ばれるその無菌地帯は、カビによって何らかの抑制物質が産出されている事でできたと考えられ、その抑制物質の単離という研究が抗生物質の発見の元になっています。

 最初の抗生物質であるペニシリンの発見以降、さまざまな研究によって新たな抗生物質が発見され、天然物であるそれらをさらに化学的に加工する事で増強したり、性質の改善を行うなどして抗生物質は種類や用途を増やし続けてきました。

 主な働きとしては、細菌が増殖するために必要な代謝経路に作用する事で細菌のみに選択的に作用する事が特徴で、消毒薬のように単純な化学的作用によって細菌を死滅させるだけの殺菌剤とは区別される物となっています。

 大きく分けると細菌を死滅させる殺菌剤と細菌の増殖や発育を抑える静菌剤に大別され、それぞれ作用する部分について細胞壁の合成を阻害する、細胞膜の機能を阻害する、核酸の合成を阻害する、タンパク質の合成を阻害する、葉酸の合成を阻害するといった機能別に分ける事ができます。

 そうした多彩な働きを持つ抗生物質を使い分ける事で、多くの感染症を克服する事ができ、人は細菌の脅威から開放され、細菌との戦いに勝利したとまで言われました。しかし、それが思い上がりに過ぎない事は、その後に抗生物質に対して耐性を持つ薬剤耐性菌の出現が教えてくれます。

 2種類の異なる微生物を同じ培地を使って培養すると、片方の微生物の方が優勢に増殖を続け、もう片方の微生物の発育が阻害されるという現象が起こります。抗生現象と呼ばれる現象で、片方の微生物が培地の栄養を独占するために、もう片方の微生物の発育を阻害する物質を産生し、その物質こそが抗生物質となっています。

 もう片方の微生物にしてもそのままでは繁殖の機会を失って滅ぶしかない事から、自分達に向けられた抗生物質を克服する力を変異や進化を通して手に入れます。しかも細菌のような単純な生物の場合、進化の速度が極めて速く、予想もつかない勢いで耐性が獲得されていき、今日、主要な病原菌で耐性菌が発生していない菌はいないとまで言われています。

 細菌が抗生物質に対して耐性を持つ場合、二つのプロセスが考えられます。第一のプロセスは、薬剤の使用によってほとんどの細菌が死にますが、わずかに存在する自然の耐性を持った細菌が生き残り、増殖するというもので、自然淘汰の一環のようでもあります。

 第二のプロセスは、突然変異によって新しく耐性遺伝子を獲得する事で耐性菌となるというもので、自然界ではプラスミドDNAなどを介して耐性遺伝子が菌から菌へと伝達される事から、最初に耐性を獲得した菌が病原菌ではないとしても、いずれ病原菌へと耐性遺伝子が伝達される危険性を持っています。

 抗生物質を多用する事はそれだけ多くの菌が抗生物質に曝される事になり、その中から突然変異によって耐性遺伝子が形成され、伝達されていく事で、最初は問題のない菌から始まった耐性が重大な病原菌へと広がっていく可能性を秘めています。

 抗生物質は感染症に対する強力で大切な武器です。多用する事で効力が失われてしまうという事は、取り返しのつかない損失であり、抗生物質発見以前の時代の事を考えるとそれがどれだけ怖ろしい事か容易に想像がつきます。抗生物質を見かける機会が増える季節を前に、今、こうしている間にも生まれているかもしれない耐性菌について考えてしまいます。


 


 

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