第1130回 種と天神
2008年11月17日
子供の頃、友達の家の庭にたくさんの梅の実が成っていたので、青々とした実を採ってみて、半分に切って味をみたことがあります。ひどく渋い味がして、それがおかしくて繰り返し味見をしては友達と笑い合った事があります。
青い梅の実にはアミグダリンと呼ばれる青酸配糖体、いわゆるシアン化物の毒素が含まれていて、体内で有毒に働く事があります。ひどく渋くて思わず笑いが込み上げてきてしまうほどだったのは、身体が毒素を摂取しないようにする防御機能、もしくは危険だから実を採るなという梅からのサインだったのかもしれません。
諺に「梅は食べても核食うな、中に天神寝てござる」というものがあります。天神とは菅原道真の事で、九州の大宰府に左遷されて不遇のうちに命を落とした後、都では落雷による火災が相次ぎ、伝染病が蔓延するなどの凶事が続いた事から、道真公の事を人々が雷の神、「天神」と呼んだ事が元になっています。
都を離れる際に詠んだ、「東風吹かば、匂いおこせよ梅の花、主なしとて春な忘れそ」という歌からも道真公の梅への想いの深さが伺え、都を遠く離れた道真公の事を慕い、梅が大宰府まで飛んできて根をおろしたという飛び梅伝説もあり、梅と道真公が関連付けられる事に納得させられてしまいます。
大変な努力家で温厚な道真公ですが、ひとたび害を成せば天神と怖れられるほどの大変な祟りに繋がる。梅の実の種に多いとされる青酸配糖体を避けるために、中でお休み中の道真公を起こしてはいけないという諺には、昔の人の食への知恵や優しさを感じずにはいられません。
完熟した梅の実では含まれる青酸配糖体の含有量が激減していて食べてもそれほど危険性は高くないのですが、酸味が強く、好んで食べる動物は少ないとされます。
次の世代となる種をどこか別の土地まで運んでほしい、運ばれた先ではちゃんと発芽できるように種は健全な状態であってほしい、そんな梅の想いまで含まれているような、そんな諺にも思えてしまいます。