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第1299回 マツカサの味?
2009年07月31日
松かさは松の木の果実のような物で、どちらかというとマツボックリという呼び名の方が親しみがあります。マツボックリをマツカサと呼んだのは、熱帯魚の飼育をしていた頃、水質の悪化に伴う病気としてマツカサ病が発生した際の事でした。
そのためあまり良い印象がない言葉となっていたのですが、料理のスタイルとして「松かさ揚げ」という物があります。最近ではアーモンドのスライスや大きめに切った食パンなどを使って、まるでマツカサに見えるように揚げた物も松かさ揚げと呼ばれていますが、本来はアマダイの揚げ物の一種をそう呼んでいました。
通常、魚を料理する際、最初に行う作業としてウロコを取り除く事が行われます。そのウロコを取り除かずにアマダイを三枚におろし、血合いの部分にある骨などを除いて食べやすい大きさに切り、塩をふって素揚げ、または天ぷらの衣を付けて揚げます。
熱によって皮が収縮する事でウロコが起き上がり、マツカサのように見える事から松かさ揚げの名前が付いています。鯛のウロコは大きく固い事から、完全に取り除いて調理されますが、外されたウロコだけを洗ってぬめりを取り、油で揚げて塩などで味を付けるという食べ方をされる事があります。
アマダイのウロコはマダイよりも柔らかく、さくさくに焼いて鱗焼きとして食べられるほどなので、身に残したまま揚げても食べる事ができます。かつては何の栄養もないと考えられていたウロコですが、最近はコラーゲンの塊として知られるようになってきています。装飾性や食感から開発されたメニューのように思えますが、栄養面でも良いのかもしれません。
第1298回 有機と栄養
2009年07月30日
先日、農薬や化学肥料の使用を減らして作られた有機食品の栄養は、一般的な食品とほぼ変わらず、取り立てて健康に好ましい効果をもたらすものではないという内容の調査報告が英国食品基準庁の委託を受けた調査機関から発表されていました。
過去50年間に発表された文献を精査した結果として、13の栄養素のうちのビタミンCやカルシウムなどの主要となる10の栄養素について、栽培方法による大きな含有量の違いは存在しないとの結論が得られたとされています。
有機食品の本来の意味を考えると、化学的に合成された肥料、農薬、土壌改良剤などを使わず、旧来のような天然由来の有機物を中心とした肥料を用いるなどして育てられた食品の事であるため、何かの栄養素が特化される物ではない事が判ります。
有機食品で高まる事が考えられるのは、使用された肥料などが自然に分解されやすい有機物である事から、化学合成された肥料などを使用した物と比べた場合の安心感ではないかと思われます。
残留した化学物質を分解する際、活性酸素が発生する事を考えると、有機食品が健康に良い物という感じはしてしまいますが、あくまでも当り前の栽培方法によって作られた物であり、健康に繋がる成分を特化した物ではないという前提を理解しておけば、今回の発表はそれほど驚くべき事ではないと思ってしまいます。
第1297回 アミロイドへの疑問
2009年07月29日
アルツハイマー病は、高齢者の生活の質を大幅に低下させるものと認識されながら、決定的な治療方法が見付けられないままという状況が続いています。
アルツハイマー病の特徴として特殊なタンパク質であるアミロイドβが蓄積して、プラークと呼ばれるまだら模様が脳に形成されるというものがあり、アミロイドβが原因ではないかという見方もされています。
最近、抗ヒスタミン剤の一種がアルツハイマー病による認知機能の低下を改善する可能性が示され、注目を集めています。ディメボリンと呼ばれる抗ヒスタミン剤はアルツハイマー病における認知機能を改善する働きが示されていますが、脳内のアミロイドβ量を増やす事も判ってきています。
アミロイドβは増えているのに認知機能は改善されるという事は、これまで考えられてきたアミロイドβの蓄積が認知機能の低下を招いているという事を否定するものとも言えます。
抗ヒスタミン剤の働きによって過剰なアミロイドβを排出している事や、アミロイドβがニューロン内ではなくニューロンの外側にある事で、何らかの利益をもたらしている可能性もあり、新たな方向へアルツハイマー病の治療に関する研究が発展する可能性を秘めています。
また、別の研究ではアルツハイマー病で見られる脳の神経原繊維のもつれを引き起こす特殊なタンパク質、「タウタンパク」を標的としたワクチンの有効性が示唆されていました。
そのほか、ウコンの有効成分として知られたクルクミンとビタミンD3を併用する事で、アミロイドβを除去する働きが高まる可能性も示されてきています。急速な研究が進められているので、一刻も早い治療法の確立を望みたいと思います。
第1296回 制限長寿
2009年07月28日
これまで複数の生物で日常的に摂取するカロリーを控える事で、寿命が延びるという傾向がある事が報告されていました。しかし、過去の研究で対象とされたのは酵母菌や線虫、ハエ、一部のマウスなどで、寿命の延長と多数の疾患への抵抗力の向上が確認されてはいますが、人に対して当てはまるのかについては疑問視されています。
今回、霊長類を使った研究で同様の効果が確認できた事から、人への応用が充分に考えられるようになってきています。サルに低カロリー食を与える事で、生存率や疾患への抵抗力の向上、脳委縮や加齢による筋力低下の減少が見られた事から、低カロリー食が老化プロセスを減速させるものだと見られています。
これまでの研究では、食事制限によって寿命を延ばす事ができるというのは、すべての生物に当てはまるものではなく、ラットやマウスの多くの系統では効果が見られず、系統によっては逆に寿命を縮めるという結論も得られていました。
今回、サルを使った実験で食事制限と寿命延長の効果が確認された事から、人に対しても同様の効果が期待できる可能性が高くなってきています。
今後、研究が進めば食事制限による老化プロセスの原則に関するメカニズムが解明され、何らかの方法で同じプロセスを再現する事によって老化防止の有効な手立ても発見できると言えます。
老化は進化の過程において克服できなかった病の一つという考え方があります。今後の研究でその病の進行を遅らせる事が可能となり、誕生から死に至るという人の一生に関わる生活の質が向上する事を思わず願ってしまいます。
第1295回 公正取引?
2009年07月27日
世界中から食材が輸入されるようになって、さまざまな新しい言葉が聞かれるようになってきました。ポストハーベストやオーガニックなど、すでに日常的に聞かれるようになった言葉も少なくはなく、そうしたものの一つに「フェアトレード」も加わろうとしています。
フェアトレードとは公正取引もしくは公平貿易の意味で、発展途上国の原料や製品を適正な価格で継続的に購入する事を通じて、取引の流れの監視を行い、立場的に弱い生産者や労働者を労働搾取から解放して生活改善と経済的自立を促す運動を指します。
オルタナティブトレードと呼ばれる事もあり、国際的な貧困対策や環境保護の一環として行われ、よく言われる品目としてはコーヒーやカカオなどが知られています。
生産者が不当に安い価格で農産物を買い叩かれたり、労働者が低い賃金で労働を強制されたり、児童の労働や貧困による環境破壊に繋がる乱開発を防ぐという目的があり、最終的には発展途上国の生産者や労働者の権利を確保し、知識や技術の向上を図る事で経済的な自立に繋げ、貧困から脱するというものがあります。
フェアトレードが支持されるようになってきた背景としては、現地の仲買人や国際的な流通業者が不当な利益を得ていたり、関税による障壁があるため、途上国の製品が先進国に輸入される際に最高で400%もの関税がかけられてしまう事。市場価格の変動によって生産コストをまかなう事ができない価格での売却を強いられる事があり、生産者の生活の保障がない事などが上げられます。
できれば協力したいと思えるフェアトレードですが、意外と難しい事にも気付いてしまいます。ポストハーベストのように分析検査を行えば数値化して視覚的に理解できるというものではなく、商品が市場に出される前にどの部分でどのように搾取が行われていたのかを把握する事は、消費者の立場から難しくなっています。
流通が確立されていない新たな商品を市場に出す場合、それなりのリスクが付きまといます。特に途上国のようにインフラの整備が行われていない環境では、市場化へのリスクも大きくなる事は避けられません。そうしたリスクを補うには大きな利益が得られる事が必要とされ、流通の途中で大きな利益を上げているという構図は見方によっては搾取のようにも見えてしまいます。
搾取を否定するあまり、商品が新たに市場へと出ていく機会が奪われたり、需要が低下してしまうと本末転倒にもなりかねない危険性が考えられます。
消費者の立場からフェアトレードを吟味するのは、生産される現地の状況や生産に関する知識や流通や販促などのビジネスに関する知識、価格の相場を判断する市場に関する知識なども必要になります。そうなると素人レベルでは難しく、オーガニックの商品と似たような雰囲気で割高の価格設定で店頭に並べられているフェアートレードの商品を見かけると、搾取や関税を除いたはずの商品に対する価格設定について考えてしまいます。
第1294回 カフェイン雑感
2009年07月24日
眠気が強くなってきた時、カフェインを摂って眠気を抑えようと考えます。その際、コーヒーが頭に浮かぶのですが、カフェインの含有量からいえば緑茶の方が良いのかと迷ってしまう事があります。
お茶には多くのカフェインが含まれていると言われますが、茶葉とお茶の入れ方によってカフェインの含有量は大きく異なってしまい、茶葉の加工によってもカフェインの量は左右されてしまいます。
カフェインが多いお茶というと、日本茶の代表格の一つとも言える「玉露」が上げられ、コーヒーの3倍近いカフェインが含まれています。同じ日本茶でも煎茶ではコーヒーの半分程度に低下してしまい、茶葉を焙煎するほうじ茶では、茶葉が高温にさらされる事によってカフェインが昇華されてしまう事から、カフェインの含有量は極めて少ないものとなってしまいます。
色合い的にはほうじ茶に近い紅茶やウーロン茶は、茶葉が持っている酵素によって発酵した事によって色や風味が変化しているだけなので、カフェインの含有量には変化がなく、煎茶よりも若干多めのカフェイン量となっています。
元となる素材レベルで考えるとコーヒー豆に含まれるカフェインの量は全体の2%程度で、それに対し茶葉には6%近くのカフェインが含まれている事を考えると、通常のお茶ではいかに成分を抽出できていないかが伺えます。食物繊維をはじめビタミン、ミネラル、多くを残す形で捨てられてしまうのですが、濃く煮出したお茶が美味しくない事を思うと、栄養にだけこだわっていてもいけないと思えてきます。上手に付き合う事が大切と言えます。
第1293回 強化破壊
2009年07月23日
以前、硬質ガラスの会社の方とお話をさせていただく機会があり、その際、硬質ガラスとは単に硬いガラスというのではなく、急激な熱の変化に対して強いガラスの事であると教えられました。医療器具や実験器具など、硬質ガラスは意外と見掛けている事と思います。
硬質ガラスに対する物として軟質ガラスという物があります。軟質ガラスは物理的に軟らかいというのではなく、軟化しはじめる温度が低いガラスを指し、ソーダや鉛などの他の物質を混ぜる事でガラスの主成分であるケイ素の熔融温度を下げて工芸などの材料となるようにしています。
物理的に強いガラスを求める場合、強化ガラスが一般的に使われ、広く普及しています。強化ガラスは通常のガラスを約700度まで加熱し、表面に均一に空気を吹き付けるなどして急激に冷やす事によってガラスに強度を持たせ、通常のガラスよりも5倍近くも強度が高められると言われます。
ガラスというと脆い物の象徴のように言われますが、強化ガラスでは表面を急激に冷やす事で圧縮する力が生れ、表面の圧縮された層と内部の圧縮を受けていない層との間に密度差を生じさせる事でより強さを高めています。
この表面の圧縮層の存在が強化ガラスの強さの元であり、逆に弱点ともなっています。強化ガラスは非常に高い破壊に対する抵抗性を持ちますが、一旦破壊が圧縮層を超えてしまうと、内部の圧縮されていない層との間の力の均衡が崩れ、瞬間的に全体が粉々になってしまうという特徴があります。
最近、そうした強化ガラス製の食器に関する破損事故が増えてきていると言います。破損事故はフライパンや鍋などのふたが最も多く、煮物などを調理した後、ふたをキッチン台に置いたところ、突然強化ガラスのふたが粉々に砕け散り、飛散したガラスの破片で怪我をするというものや、洗って乾かした強化ガラスの皿を収納しようと手に取ったところ、急に破裂した。飲食店で出されたコップが、何もしていないのに急に破裂したといったものが報告されています。
どれも強化ガラスの特徴的な壊れ方という事ができ、表面に付いた小さな傷やガラスに含まれていた不純物、繰り返し使用してきた事による金属疲労などが原因として考えられ、強化されているという事から硬質ガラスと混同されて使用されている事も、強化ガラスに思わぬストレスを与えているとも言えます。キッチンには危険な物がたくさんある事を、改めて考えさせられてしまいます。
第1292回 油の真珠?
2009年07月22日
1869年、フランスのナポレオン3世は、当時不足していたバターの代替品を開発するというアイデアを募集していました。その募集で採用されたのが化学者メージェ・ムーリエ・イポリットの発案で、上質な牛脂に牛乳などを加え、冷やして固めるというものでした。
ムーリエのアイデアはその後、人造バターと呼ばれて現在のマーガリンの原型とされています。マーガリンという言葉の由来は、ギシリア語で真珠を意味するマーガライトからきていて、マーガリンが製造される途中でできる脂の粒が真珠にように輝いて見えた事が元になっています。
ムーリエのマーガリンとは異なり、現在のマーガリンは大豆油、菜種油、コーン油、パーム油、ヤシ油、綿実油、ひまわり油などの植物性の素になり、動物性油脂としては魚油、豚脂、牛脂などが使われています。
マーガリンは油に水を加えた混合物として作られます。水に味の素となる塩や香料、粉乳などを溶かす水相という工程を施し、原料と副原料が均一になるように50〜60度の温度に加熱しながら撹拌して乳化させ、冷却して固形化して仕上げられます。
その過程で水素を分子に付加して常温でも固体の状態を保つようにしています。この水素添加によってトランス脂肪酸が形成されてしまう事から、マーガリンはトランス脂肪酸を多く含む健康に悪い製品という印象を持たれています。
そうしたイメージを払拭するため、最近では水素不添加というマーガリンも見られるようになってきています。水素不添加では、常温では固形化しないのではと思ってしまいますが、植物性の油脂でもパーム油などのように常温でも固体化している物もあり、そうした物を主原料とする事で植物由来の物でも水素添加を行わずに、常温でも固体化したマーガリンを作る事ができます。
またトランス脂肪酸も不飽和脂肪酸の一種である事から、マーガリンを作る際、部分的に行われてきた水素添加を完全な状態で行う事で、全体を不飽和脂肪酸ではなく飽和脂肪酸にしてしまう事でトランス脂肪酸を含まないマーガリンを作るという技術も出てきています。
バターとマーガリン、動物性と植物由来の油脂、自然に近い物とより加工の度合いを増しつつある物。油脂は体内で脂肪酸に分解されて吸収され、脂肪酸はビタミンと同じように生命を維持する事には欠かせない物で、何らかの働きを持っている事が判ってきています。ビタミンほど過不足によって何が起こるのかといった研究が進んでいませんが、働きの重要さを思うと、油脂との関わり方についても考えていかなければと思ってしまいます。
第1291回 科学的調理
2009年07月21日
料理というと日常的なものであり、身近なものという感じがします。科学というとどことなく非日常的感じがして、ちょっと遠い世界のようにも思えてきます。
料理はほぼ毎日、自分や家族のために繰り返し行われていて、それほど意識される事はありませんが、意外なほど科学的な事を行っているとも言えます。
カレーやシチューを作る際、美味しさを左右する重要な要因の一つに「とろみ」の存在がありますが、このとろみも科学的に言うと水と油が結合した特殊な状態、乳化作用によるものと言えます。
通常、水と油は結合する事はなく、すぐに分離してしまいますが、界面活性剤の存在や特殊な条件下では水と油が結合した独特なとろみを帯びた状態になります。
カレーやシチューでもこの乳化作用が起こっており、素材に含まれる水溶性の繊維質やタンパク質の存在によって、界面活性剤と同じような水と油が結合した状態が作り出され、乳化作用によって塩辛さなどの味の角の部分を緩和して円やかな味わいに仕上げてくれています。
素材を最初に炒める際や肉類、魚介類などからも出てくる油分がカレーやシチューの表面に油分として浮いてこない理由は、乳化作用によって水分と結合し、とろみの中に封じ込められている事によります。
また、調理する方法にも乳化をより確実にするための工夫が見られ、深い鍋でコトコトと弱火でゆっくりと煮込む事にも意味があります。
深い形状の鍋で煮込むと鍋底の水圧は高めになり、沸騰による泡立ちはより小さめのものとなります。水面へ向けて気泡が上昇するにつれて水圧が軽減され、途中で素材の干渉も受ける事から水面下で気泡は弾け、その際、高周波が発生して乳化を促進する働きが生じます。
そのためには気泡のきめが細かい方が良いので強めの火でグツグツではなく、弱火でコトコト煮る事が良いとされるにはそうした事情が含まれています。時間をかけて煮込む事で、肉の筋の部分からゼラチンが溶け出し、味にコクを加えてくれる事も重要なポイントとなります。
経験則から培われてきた事ではあるのですが、料理のコツには最新の科学に照らし合わせても納得のいく事が多く、手間隙をかける意味も科学的に証明できてしまいます。一手間を惜しまない大切さを教えられる気がしてしまいます。
第1290回 新型特徴
2009年07月17日
相変わらず新型インフルエンザの話題が聞かれます。インフルエンザのウィルスは常に変異を遂げている事を考えると、どのインフルエンザも新型なのではと思ってしまいますが、特に豚由来のH1N1という型のインフルエンザのみが新型インフルエンザと呼ばれ、一般的な季節性のインフルエンザとは区別されています。
新型インフルエンザと季節性のインフルエンザでは胃腸障害や嘔吐などの異なる特徴が見られると言われますが、両者の明確な違いに関する興味深い特徴が判ってきています。
新型インフルエンザに感染すると、インフルエンザウィルスが気道内で広く増殖して肺に侵入するという感染拡大を見せる事に対し、季節性のインフルエンザウィルスは鼻腔内に留まって増殖するという特徴があります。
また、新型インフルエンザでは気道内から肺へと拡大する事に合せて、消化管内にも侵入する事も判ってきています。こうした感染後の拡大部位や経路の違いが明確化する事により、懸念される世界的な流行に対する適切な対応が確立できる事も考えられます。
インフルエンザウィルスは予測できない変異を遂げる事もある事から、今回発見された特徴が今後も継続するという確証はないという意見もありますが、注意深く観察を続ける事でより適切な対処法が見付かる事は考えられる事です。相変わらず不安を煽るような話し方をされる新型インフルエンザですが、少しは落ち着ける話が出てくる事を願ってしまいます。
第1289回 妄信注意
2009年07月16日
農薬、特に残留農薬というと健康を害する毒物という感じがします。逆に無農薬というと健康的なイメージがあります。農薬を使用せずに虫食いだらけ
になっている作物は、それだけ農薬を使用せずに育てられたという事で安全性が高い物と思えます。
農薬は人工的に合成された物で毒性が高く、過剰となる量を使用した事で作物に残留してしまい、農薬が残留した作物を接種する事で健康が損なわれて
しまう。それが昨今、さまざまな健康不安が言われ、食の安全が脅かされる原因の一つとも思われています。
人をはじめとする動物に定期的にホルモン剤を与え続けるとやがてホルモンの分泌器官がホルモンを分泌する必要性を感じなくなり、働きを低下させて
しまいます。植物においても同じような傾向があるとされ、農薬によって害虫などから守ってやる事で植物が本来害虫に対抗するために持つ毒性の必要性
を低下させ、作物の毒性を低下させているという考え方があります。
植物は外敵から身を守るために、何らかの毒性を持つ事があります。よく知られたところでは唐辛子の辛さやタマネギの刺激、ゴーヤの苦味などもそれ
にあたり、農耕と食の歴史はそうしたものを味としてうまく利用するか、利用できないものに関しては毒性の部分を低下させるというものがあり、原種か
ら品種改良を繰り返す事で毒性の低下が行われています。
毒性の低下には、外敵からの脅威を常に低下させる事で必要性を消失させるというものがあり、農薬はその役割を担ってきたという考え方があります。
農薬を使い続けた事で植物の直接の敵意である虫などを排除し、植物が外敵に対し毒性を準備しなくなった事で毒性のない安全な作物を得ているという訳
です。
農薬の使用を中止し、植物が虫などの被害にあった場合、植物は虫害ストレスによって急激に毒素を生成すると言われます。植物が生成する毒素は、外
敵を確実に排除するための物であり、強力な作用を持つとされます。植物には発ガン性を持つ成分が含まれている事があり、通常は微量であったり発ガン
性を抑える酵素などが含まれる事で発ガン性を意識されませんが、虫害ストレスは植物の発ガン物質を急激に増加させると言います。
それに対し、人為的に作られる農薬には安全基準が存在し、厳格な基準を満たす必要があり、毒性が植物が生成する天然の外敵を排除する成分より低い
という意見もあり、無農薬で育てられ、外敵である虫に喰われた作物の方が危険という考え方があります。残留農薬、天然毒、どちらの方が危険であるの
かについては今のところ明らかにした研究が見られていませんが、自然の営みという事を考えると自然は生き物に対し、決して悪い物は作り出さないとい
う妄信だけは避けなければと思ってしまいます。
第1288回 非表示成分
2009年07月15日
あまり意識される事はありませんが、加工食品の安全性を考える上では「キャリーオーバー」は見過ごす事ができない事でもあります。キャリーオーバーとは英語で「繰り返し」「持ち越し」「名残り」などの意味があり、食品業界では原材料には含まれるが使用した食品には微量過ぎて効果が出ない物。効果が発生しないために法的に表示を免除されている添加物を指します。
原則として食品の原材料として使用された添加物については、すべて表示する必要があります。しかし、食品の原材料となる素材の製造や加工の過程で使用され、食品の製造過程では使用されない物で、最終的には効果を発揮するには少な過ぎる量しか含まれない添加物については表示を免れる事ができます。
煎餅やおかきを作る際、醤油を使って味付けをします。醤油には保存性を高めるために安息香酸が保存料として加えられていますが、煎餅やおかきの保存性が表面に塗られた醤油に含まれる安息香酸よって高まる訳ではないので、安息香酸はキャリーオーバーとして表示する必要はありません。
イチゴのシロップに赤色系の色素を使って色付けし、そのイチゴシロップを使って味付けされたヨーグルトを製造した場合、ヨーグルト事態にイチゴシロップの色が影響して発色される事から、イチゴシロップの色素はキャリーオーバーとはならず、表示する必要が生じます。
サラダの素材にハムを使う場合、ハムに含まれる発色剤の亜硝酸ナトリウムはサラダとは無関係のように思えますが、ハムがそのまま原型を留めて含まれる事からキャリーオーバーにはならず、表示する必要があります。
一見、食品製造上の注意事項のように思えますが、消費者という立場から見るとキャリーオーバーの存在は、意図した作用を発揮しない量という事で表示されてはいませんが、含まれている事には変わりない成分の存在となります。加工原料として認可されている物である事や極めて微量となる事から、それほど神経質にならなくてもとは思うのですが、環境ホルモンの際のような微量で作用する物の存在を考えると、気になってしまう事ではあります。
第1287回 偽装生産
2009年07月14日
あまり大きな話題にはなりませんでしたが、以前、中国で豚肉の「クレンブテロール」による集団食中毒が発生していました。豚の角煮を食べた人から心拍の加速や吐き気、嘔吐、めまい、息苦しさ、全身や手足の震えを訴える人が出て、約70人が病院で診察を受けています。
豚肉に残留していたクレンブテロールが原因と見られ、本来医薬品であるはずのクレンブテロールが飼料に混入した事が食中毒に繋がったとされています。
クレンブテロールは喘息を治療するための薬剤で、中国でも養豚場での使用は禁止されています。喘息の治療以外の部分で使用している例としては、ボディビルダーの方が使用に言及している資料を見せられた事があります。
ボディビルでは筋肉を鍛えて太くする事は重要ですが、同じく脂肪を減らして筋肉をより美しく見せる事も大切とされます。そのためダイエットも必要とされる事があり、その一環として脂肪を減らし、筋肉量を増やすクレンブテロールが使われる事もあるそうです。
中国では、かつてはしっかりと脂肪を持ったこってりとした豚肉が好まれていましたが、時代の変化に合わせて脂身が少ない赤身肉が好まれるようになってきました。脂身が少なく、より多くの赤身肉を持った豚に育てるには、それなりに手間と時間が必要になります。
それを簡単にしてくれるのがクレンブテロールで、痩肉精と呼ばれるクレンブテロールの添加物を飼料に混ぜる事で通常の飼育法よりも赤身肉を3倍ほども増やす事が可能と言われています。
しかし、豚は人よりも毒物代謝が遅い事から体内に残留する事が多く、クレンブテロール自体も熱に強いなどの特徴を持つ事から、調理後も分解されずに残る可能性が高いとされます。
ボディビルダーへの作用を考えると豚の赤身肉を増やす事には納得がいきますが、そこに目を付けるという事には驚かされるものがあります。生産効率と食の安全、相変わらず難しいもののように思えてしまいます。
第1286回 生鮮?加工?
2009年07月13日
最近、長引く景気後退の影響もあって外食産業の市場規模縮小が言われています。一人あたりの外食利用回数が減り、一回の外食に支出する単価も減少。供給側もニーズに合わせた低価格メニューの開発で、売上自体の減少。さまざまな要因が言われています。そんな中で密かに市場を広げているものとして、「加工肉」の存在があると言われます。
加工肉の代表的な物の一つは安価な内臓肉などを使って作られる「成型肉」で、トリミングミートと呼ばれる内臓肉や脂身などの通常はあまり利用されない肉を集めて牛脂と混ぜ、結着剤として酵素を加えて成型し、瞬間凍結して結着させる事で作られます。大手ファミリーレストランチェーンで通常のビーフステーキとして売られていた事から、公正取引委員会によって排除命令が出されていた事は記憶に新しいところでもあります。
内臓肉使用、排除命令とイメージがあまり良くない成型肉に代わって売上を伸ばしていると言われるのが「人工霜降り肉」で、年間6000トン以上が出荷されているとされる事から、表示義務がない外食のメニューなどでそれとは気付かずに食べてしまっている可能性は非常に高いと思われます。
人工霜降り肉はカウミートと呼ばれる搾乳を終えた乳牛などの本来は硬くて食用には向かない牛肉に、牛脂を注入する事で霜降り肉に似た状態を作り出しています。牛脂はインジェクションと呼ばれる注射針を通すには固すぎるため、乳化剤を混ぜて柔らかくしています。乳化剤には特有の苦みを伴う味がある事から、その味を打ち消すために多量の化学調味料が使われていました。
最近では味に影響しない乳化剤が開発された事から、より自然な人工霜降り肉が作り出されるようになってきていると言われます。細いノズルを通すためにカスタードクリーム程度の固さに調整された牛脂が、100本近いインジェクションで牛肉に注入され、成型して冷凍し、熟成させる事で牛脂の水分は肉へと移動し、脂肪分は霜降りのサシとして残されます。サシの入れ方も進歩し、写真を見せられた感じでは高級霜降り肉と区別する事が難しいほど自然な物となっています。
成型肉、人工霜降り肉とも精肉として見掛ける事はほとんどないと思われます。安く提供できるとはいえ、内容を表示するとやはり抵抗感がないとは言えないものがあります。どちらも通常は食用としては使われていない素材を使ってはいますが、加工食品の一環である事に間違いはありません。値段と内容、微妙なものがあります。
第1285回 キノコ土器
2009年07月10日
タケ、ナバ、コケ、ミミ、クサビラ、モタシ・・・どれもキノコを指す言葉です。日本は平地が少なく、山地が多い事や温暖で湿度にも恵まれている事から、キノコの生育には適した環境と言えます。そのためさまざまなキノコが自生していて、キノコを指す言葉もたくさん存在しています。一つの言語でこれだけ多くのキノコを指す言葉のバリエーションを持つのは日本語だけではないでしょうか。
日本人とキノコとの関わりは古く、縄文時代中期の遺跡からキノコの形をした土器が多数見付かっている事からも、歴史の深さを伺う事ができます。キノコの土器は食用にするキノコを精巧に模して作られており、食べられるキノコを見分けるための見本であったと考えられ、当時、すでにキノコは食べられていて、美味しさも毒キノコによる中毒の怖さも知られていたと思われます。
弥生時代の遺跡からはマツタケに似せた土器も出土していて、日本人以外にはあまり受けが良くないと言われるマツタケが、すでに食文化の中に登場していた事も確認できます。
その後、万葉集にはマツタケの事を詠った短歌が載せられ、平安時代の貴族の間ではマツタケ狩りが季節の行事とされています。庶民の間でもさまざまなキノコが食べられていた事とは思われますが、この時期の文献にはマツタケとヒラタケが多く登場し、珍重されていたように思われます。
安土桃山時代に入ると武士の間でもマツタケ狩りが行われるようになり、江戸時代には庶民の間でもマツタケが食べられるようになっています。江戸時代に書かれた料理本「本朝食鑑」には食材として多くのキノコが上げられ、マツタケ、ハツタケ、コウタケ、シイタケ、ヒラタケ、エノキタケ、ショウロなど10種類のキノコの名前が記されています。
現在ではそのような利用法は見掛けませんが、マツタケがたくさん採れたら軽く煮て、塩漬けにして保存し、贈り物にしたり祝いの日のご馳走にするという利用法も用いられていました。
世界的なキノコの利用法を見ていると、アステカ文明のテオナナカトルや古代インドのバラモン教の経典、リグベーダのソーマのようにキノコの毒を使った幻覚作用を利用するものがあります。日本にも幻覚を起こす作用を持った毒キノコが存在していますが、それらを利用する例はほとんど見られていません。宗教感の違いによるものと思われますが、食文化の側から見ても興味深いものがあります。
第1284回 すい臓ケア
2009年07月09日
グルメ番組などを見ていると、肉類の脂肪分が持つ甘味やコクについて言及されている場面を多く見かけます。相変わらず食事のカロリーを気にする風潮は健在ではありますが、確かに本能は脂肪分を美味しいと感じるように作られているように思えます。
動物性の脂肪分を多く摂取する事は、肥満をはじめとしたさまざまな健康を害するリスクに繋がってしまう事が言われてきました。そのリスクの中にすい臓ガンに関するものも含まれ、これまで一部の研究において脂肪の摂取とすい臓ガンのリスク増大に関連性がある事が示されていました。
先日、そんな脂肪の摂取とすい臓ガンの関連性を示す決定的なデータとなり得る研究結果が発表されていました。男性約30万人、女性約20万人の協力の下、124品目にも及ぶ食品に関する質問表に回答する形でのアンケート調査を行い、6年間にわたって追跡調査を行った結果、被験者の中から期間中に1337人がすい臓ガンの診断を受けた事が判っています。
動物性脂肪の摂取量を元に被験者をグループ分けすると、最も動物性脂肪の摂取量が少なかったグループと最も摂取量が多かったグループとの間には、すい臓ガンの発症に男性で53%、女性で23%の違いが見られ、飽和脂肪酸の摂取量が多いグループでは、摂取量が少ないグループと比べて36%も発症率が高かった事が判っています。
すい臓と言えば消化液の一つであるすい液を分泌し、その中には脂肪の消化に欠かせない消化酵素リパーゼが含まれています。脂肪分を多く摂る事はリパーゼの必要分を増やす事でもあるので、負担の増加がガンの発症リスクを高めるのではとも思ってしまうのですが、植物性脂肪では関連性が言われない事から、別なメカニズムがあるようです。とりあえず動物性脂肪の摂り過ぎには注意が必要なようです。
第1283回 白い粉の効能
2009年07月08日
米国のサプリメントを通信販売しているサイトを見ていて、「チロシン」が売られているのを発見しました。チロシンはアミノ酸の一種で、牛乳やチーズ、大豆、卵などに多く含まれています。チーズから発見された事から、ギリシア語でチーズを指す言葉、チロスが語源となっているというのもチーズとチロシンの関係の深さを伺わせてくれます。
人の体内でタンパク質を作る事に使われる20種のアミノ酸は、脳を形成する材料ともなっています。チロシンもその一つで、神経組織を活発にする重要な役割を担っていると考えられています。脳内の伝達物質であるドーパミンやノルエピネフリン、エピネフリンの前駆物質とされ、チロシンを摂取する事でやる気や集中力を高める事ができると考えられています。
また、チロシンの摂取で低下したエピネフリンの数値を回復できると考えられる事から、ストレスによって低下した認識能力や遂行能力を高めたり、学習能力や運動能力、記憶力などがストレスによって悪影響を受ける事を防いでくれるとされています。
効能面から見ると非常にありがたい物に見えてくるチロシンですが、意外なところで見かける事ができ、その際は厄介ものとして捨てられていたりします。
タケノコを水煮にして縦に半分に切ると、節の間の空間に白い粉状の物がたくさんこびりついている事があります。水に溶けにくい物なので、そのままにしておくと料理がざらついてしまいそうな気がして、節ごとに細かい竹串などで洗い流したりするのですが、あの粉がタケノコに含まれたチロシンが結晶化した物です。
納豆が少し古くなると表面に白い粉が吹いて、ざらついた食感になる事がありますが、あのざらついた粉も大豆に含まれていたチロシンが表面で結晶化した物で、そうして見るとチロシンは普段は厄介ものだった事が判ります。
脳内では良い働きをしてくれるチロシンですが、皮膚組織では酵素の働きによってシミやソバカスの原因となるメラニンの原料となるため、あまりありがたくない物であるとも言えます。
チロシンを豊富に含むタケノコの旬を考えると、さまざまな環境の変化からやる気が低下すると言われる5月や、年間を通して紫外線が最も強くなる時期とも重なります。ストレスを抑えてやる気を支え、紫外線から身を守るメラニンの元を供給する。旬の食べ物は、その時期に必要な栄養素を供給してくれる、そんな典型例のようにも思えてしまいます。
第1282回 美味しさテクスチャー
2009年07月07日
料理を作る際、料理の色や雰囲気に合わせた器を選んだり、盛り付け方にも気を配ります。麺類などでは時間の経過によって変化してしまう麺の歯ごたえなどの食感や舌触り、温度などにも注意が必要になり、料理の直接的な味以外の部分も大切である事が判ります。
普通に料理をしている分にはあまり聞かないし、使わない言葉ですが、歯ごたえや舌触り、口当たり、食感などといった料理の感覚的な部分を「テクスチャー」と言います。テクスチャーは味や栄養といった料理に求められる機能とはちょっと違った要素のように思えるのですが、食べ物を美味しいと感じさせる重要な因子となっています。
フランス料理の世界では、ステーキの最高の褒め言葉の一つに「バゲットのようだ」というものがあります。バゲットとはお馴染みのフランスパンで、表面はパリっと焼き上がり、中はフワフワとしています。この感覚がテクスチャーで、料理の美味しさを伝える表現としてさまざまな場面で見かける事ができます。
食に限らず物理的な刺激は神経細胞によって脳へと伝えられ、外界の情報として処理されます。テクスチャーは単純な物理的な刺激なので、神経細胞を毎秒60mという速度で伝えられます。それに対して味覚はそれぞれ甘味、辛さ、苦味などの味に応じた専用の受容体が味覚の元となる分子と結合し、化学変化が起こる事で神経の反応に変換され、神経細胞を伝達されます。
テクスチャーと比べると味覚の伝達は間接的なメカニズムが介在する事から速度が遅く、毎秒十数mに留まっています。テクスチャーの方が直接的に受け入れる事から、圧倒的な速度で脳へと伝えられていて、美味しさを決める最初の要素となっている事が判ります。
高齢化社会を迎えて、テクスチャーはより重要な要素となってきていると言われます。加齢に伴って味覚の変化や食べ物を咀嚼して飲み込む能力が低下した場合、より直接的な刺激であるテクスチャーが食べ物の美味しさを伝える大切な要因となります。
多彩な食品のテクスチャーを的確に感じ取るには、より広範囲の食品に接しておく事が大切なように思えます。日頃から食を楽しむ事がいつまでも食を楽しむ秘訣なのかもしれない、そう思えてしまいます。
第1281回 双子遺伝子
2009年07月06日
子供の頃、初めて目にした双子は転校生でした。それまで双子という言葉や存在は理解できていても、同じ学年の別なクラスに同じ顔の人がいるというは、ちょっと奇異な感じがした事を覚えています。
双子のうち、特に顔が似ているが一つの受精卵から2人の子供が生まれる一卵性双生児で、一つの受精卵から生まれる事から、同じ遺伝子を持っている事になります。
一つの遺伝子から2人が生まれると言うと、かなり特殊な感じもしますが、確率的には約300回の出産に1回の割合で誕生しているとされ、それほど稀な事ではない事が判ります。
一卵性双生児を多く輩出する家系の遺伝子を調べると、他の家系と比べて特定の遺伝子パターンが見られると言います。この遺伝子の発見によって双子の自然妊娠の確立は、双子の出産よりもはるかに高く、双子の片方が育たずに出産されていると考えられるようになりました。
また、別な説ではこの遺伝子は一つの受精卵から肺の分割を操作して一卵性双生児を形成する事を掌っているのではなく、想定されていない構造を持った胚の着床を受け入れ、妊娠を継続する機構を母胎に備えさせるように働いているとも考えられています。
徐々に解明が進んでいく一卵性双生児ですが、出産後についても謎が残されており、同じ遺伝子を持つはずなのに見た目や性格、病気への抵抗力といった基本的な部分でも違いが見られます。同じ遺伝子であっても後天的に起こる付加的構造の変化によるものとして、そうした違いが生じてくると考える事ができるとされます。同級生の双子も同じ顔ではありましたが、確かに微妙な違いがあり、他人でも見分ける事ができました。遺伝子の後天的要因による修飾と変化について、小学生にして目の当たりにしていたと考えると興味深いものがあります。
第1280回 新鮮基準?
2009年07月03日
もともと刺身などの生の食べ物が苦手で、特に哺乳類の生肉は体質的に受け付けない事から、郷土食である馬刺しには縁がありません。それでもメニューに馬刺しがあり、レバ刺しの記載があると、食材の回転が良く、新鮮な食材を扱っている店なのだなと勝手に思ったりもします。
グルメ番組などを見ていても、この店は新鮮な肉を扱っているからと言ってレバ刺しが出される事があります。新鮮さのバロメーターのような扱いのレバ刺し、家庭でも出してみようと考えた時に刺身としてレバーがパック詰めされていたり、「生食用」と書かれたレバーが売られていない事に気が付きます。
新鮮であってもレバーを刺身として生で食べる習慣が定着していないために、生食用という記載がないと考える事もできるのですが、実は生食用のレバーはほとんど流通していないというのが実情なのです。
生食用のレバーを出荷するには、生食用の出荷基準を満たした食肉処理施設で処理された物である必要があります。レバーを生食用として出荷できる処理施設は、全国の202ヵ所の食肉処理施設中6ヵ所しかなく、しかもその中の4ヵ所は馬のレバーしか出荷した実績がありません。
そのため、牛や豚の生食用レバーを出荷する施設は2ヵ所に限られ、一般的に流通する量を安定的に出荷できる状態にないと言えます。1998年に厚生労働省によって牛と馬に関する生食の衛生基準が定められていますが、強制力がない事から、多くの飲食店で生食用ではないレバーを新鮮だからという理由でメニューとして出されている状態が続けられています。
畜肉を生食する事によるリスクは、さまざまな事を上げる事ができますが、どれも新鮮であるという事や外観の状態、においなどで判断できるものではありません。自己責任という大嫌いな言葉に帰結してしまいそうなのですが、食の安全を確保する良い手立てが見付かってほしいものです。
第1279回 再循環に思う(3)
2009年07月02日
廃棄食糧を飼料として再利用する事は、リサイクルとしては製品の再資源化という事で正しい流れとも言えます。しかし、そこには別な問題も潜んでいるようで、事業として成立しない事を密かに願ったりもしていました。
廃棄される弁当などの食料には、牛丼やトンカツ、チキンカツなどの牛、豚、鶏を原料とした物も含まれています。それらが飼料として加工され、家畜に与えられる事で同族による共食いのような状態が起こり、狂牛病において問題となった肉骨粉の使用と同じ事が起こり得るのではと思え、食の安全を考える上で大きな不安要素となっていました。
また、人向けに作られている事から味付けが濃く、カロリーも高い事から、継続的に与えられる家畜達の健康も心配です。実際、コンビニ弁当を元に作られた飼料は、塩分、油分が多い事から、通常の配合飼料と混ぜて使われると言います。
詳細な裏付けが取れていないので、あくまでも都市伝説の域を出ないとは思っているのですが、コンビニの廃棄食糧を受け入れる事で飼料コストの削減を行った養豚業者が、その後、相次いだ奇形子豚の出産や病気により大きな損失を被ったという話は、廃棄食糧の飼料化を不安視させるものではあります。
畜産品の味わいは、普段から与えられる飼料に左右されると言います。有名なイベリコ豚はドングリで育てられ、薩摩の黒豚にはサツマイモが与えられます。食通に知られたノルマンディーの子牛は、沿岸の潮風にさらされた牧草で育つ事で、ほのかな旨味が加わるとも言われています。
確かに食料を無駄にしない事は大切ではありますが、何か方向性が違うようなというより、再利用よりも廃棄を出さない工夫をする事が何より大切なのではと思えてなりません。家畜から得られた物を家畜に返すでは、正しい循環とは言えないのではないでしょうか。
第1278回 再循環に思う(2)
2009年07月01日
先日、某最大手コンビニの本部がフランチャイズ加盟店に対して行っていた売れ残りの弁当などの値引き制限が、独占禁止法に違反しているという法的判断の下、排除命令が出された事が報道されていました。同じ頃、こちらはあまり大きな話題にはなりませんでしたが、売れ残り弁当を飼料として再利用する業者が業務の停止を発表しています。
今でも売れ残り弁当を飼料に転用するリサイクル事業が開始された際の報道は、某最大手コンビニの環境を配慮した取り組みとしてニュース番組が始まる毎に繰り返し報道されていた事から、鮮明に記憶に残されています。あれだけ華々しく始まった事業の終焉に繋がった理由として、廃棄食品が想定よりもはるかに集まらなかった事が事業の行き詰まりに繋がったとされています。
当初受け入れを予想していた廃棄食糧の総量は年間4万3千トンとされていましたが、実際には1万3千トンに留まり、最もあてにしていた最大手コンビニからの受け入れ量も、予定の2万3千トンを大きく下回る5千トンとなっていました。
循環型ネットワークの構築を提唱する最大手コンビニ本部からは、特に首都圏の加盟店を中心に廃棄食品の飼料化リサイクルを円滑に行うための協力要請が繰り返し行われていましたが、廃棄コストが通常の倍に跳ね上がってしまう事から、思うように協力は得られないというのが実情でした。
かつてコンビニでは、棚にたくさん商品が陳列されていないと売上が落ちるとして、売れ残りによる廃棄を奨励するかのように大量陳列が指導されていたと言います。今では食事時を除けば、それほど多量の商品が置かれているという印象はありません。
大量廃棄を前提としたビジネスモデルが、より廃棄食糧を出さないようにするための値引き販売の解禁直前に破綻した事は、リサイクルという事業が手段の目的化に陥りやすいという危うい一面を持つ事を示してくれているようにも思えます。示してくれただけなら良いのですが、創業時に助成金として16億円もの巨額の税金が投じられた事をお忘れなくと、ちょっと小言を言いたくなってしまいます。
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